その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

伯爵家は新たな家族を迎えて発つ ②

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しばらく黙っていたが、ようやく観念したようにクレファー青年は告白した。
「はぁ……心配させるつもりじゃなかったんだ……何だか生徒たちの親御さんたちが皆揃って物入りになったらしくてね。その……強く言うのも角が立ちそうだったから……教えるのは好きだから、その……ごめん……」
「いいんだよ……こちらの旦那様たちは、そんな薄情な奴らとは違うよ!じゃなかったら、わざわざアタシたちのためにこんなふうに人も時間も使ってくれるわけないじゃないか!それに……あんたも話してて、ちゃんとわかったんだろう?この人たちは、あんたの異能ちからのことを嫌う人たちじゃないって」
「ああ、うん。それはもう!」
落ち込みかけていた表情が、母親のその一言でパッと明るくなった。
おそらくロフェナが先に彼の持つ魔力の分類や使い方などを教えたのだろうと察する。
「彼はとても頭がいいですね!お邸のみで勉強をされていたということですが、私がこの市で修めた知識にも勝るとも劣らない……それに、母が今言った『異能』についても詳しく教えてくれましたし」
そう言いながら青年はわずかに手のひらに意識を集中させ、靄のようなものを発現させる。
「自分でもどうしてこうなるのかわからない……だけども、こんな自分を隠さなくていいなんて、世間は何て広いのだろうと思いました」
「ああ。我が邸だけではない。ターランド伯爵領には君のような人間は普通にいる。むろん、ご両親のように魔力を感じられない人も差別されることなく……だが、おそらく君のご両親のどちらか、もしくは家族全員が君より微弱な魔力を持ち、君が発現したのは単に家族の誰よりも魔力量が多かっただけということも有り得るが」
「はぁ?」
まさか自分たちも魔力持ちかもしれないなどと言われ、母親であるパージェは目を見開きラウドを見返した。
「ターランド一族は一部の者を除き、ほとんどが何らかの魔力を有する。強弱はあれど……それは血統のためと言われているが、何もターランドの者でなくとも、また血縁関係で知らずに受け継がれている家もあるのだ」
だがパージェの顔色がやや悪くなるのに気付き、ラウドはこの話はここまでとした方がよいと判断する。
「詳しいことはいずれ領地で勉強するといい。君はずいぶんと好奇心や探求心が強いと見える。義息子に教えつつ、我が邸にある蔵書を閲覧する許可を与えよう」
「蔵書?!い、いくつぐらいある物なんですか……?」
「……さぁ?ちゃんと分類したり数えたりしたことはないな……おそらく領邸の管理を任せている者の誰かが知っていると思うが。何ならその仕事を君に任せることも考慮しよう」
「ほ、本当に……私に仕事をいただけるんですね……」
何度も話しているはずなのだが、本心では信じ切れていなかったのかもしれない。
ラウドが頷くと、クレファー青年はパッと母親に向かい直した。
「母さん!俺、すぐに支度するよ!さっきロフェナ君に『言伝紙ことづてし』という紙を魔力で飛ばす方法を教えてもらったんだ!もう俺の異能のことを隠さなくていいんだ……後のことは、俺の友達面していた奴らに任せるよ!」
そう言うなり、青年は自室のある方へ駆け出し、パージェはそれを見送りながら泣き笑いを浮かべた。
「ははっ……ありがとうございます、旦那様。あの子にある異能を『異常』と決めつけ虐めてきたのを、もうあの子は『友人』と呼ばなくていいんですね……いいように使われていたのは知ってました。ええ。でも、もうあたしらが口を出すような子供でもないと諦めていました。あの子が心を込めて『生徒』と呼んだ子供たちを教えていたのも……無駄になったかもしれませんが、でも……」
「彼にとってここで生まれ育ったこと、子供たちに教えたことも、何ひとつ無駄ではないでしょう。辛いことや悔しいこともあっただろうが、きっとそのたびにあなたたち両親から向けられる愛情もきっと、彼は糧にしているだろうから」
「……はいっ……はいっ……」

日付が変わり朝日が昇る頃、ある裏道から鳥の形をした白い紙が数枚羽搏いて近所の家に備え付けられた郵便受けにひっそりと入り込み、その日以降ガブス料理の店『パルセ』は『本日閉店』の札を掲げたまま鎧戸が開かれることはなかった。

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