その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

少年は『教師』と対面する ④

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妹は自分の言ったことをちゃんと理解したのか──その目は『兄』としてではなく、まるで出来の悪い生徒に宿題を出した『先生』のような思考を持って、項垂れて離れていく妹の背中を見送る。
「……答えを出すことができるのか?差別、区別、身分違い……いろいろ学ぶべきことを見ないふりで過ごさせてしまったからな……」
「そう言うあなたはよくご存じのようですが……?」
クレファーの独白にロフェナが問いかけると、さらに苦笑を込めた答える声が返ってきた。
「『貴族と平民の垣根を取る』それがあの市の成り立ち。しかし……それを受け入れられるのは、キンフェニー前々公爵及び前公爵たちだけでしょう。それ以外の市民となった貴族や平民、そして今の公爵以下のすべての『市民』は、成り立ちが建て前であり、けっきょく差別はなくならないことを身をもって知っています。私は特に高等学校までの在学期間、その後はどこにも就職できずに個人教師として身を立てていたその間、様々な人たちから『純粋なウェルネシア人ではないくせに』と言われました。両親は妹までそんな目に合わせたくなかった……」
「なるほど」
「だからこそ幼いままの友人たちが妹に対する価値観と態度を改められてしまうかもしれない前に……高等教育機関への進学よりも父の厨房に入って修行をしたいという希望を叶えた。叶えてしまった。結果的に同年代の少女たちはほとんどが学校にいる昼間、妹が父のお使いに出ることが目立ってしまって、市長親子だけでなく躾の悪い男たちの目に留まってしまったんです」
市長の息子であるドラン・アガス・ヒューマットに暴漢のふりをして妹を襲えと命じられた者たちが、本当に妹を犯そうとしていた時──それを助けたのは命じたドランではなく、たまたま家庭教師先から突然長期休暇を告げられて家に戻ろうとしていたクレファーだった。
「ハハ……まさか子供の頃の水浴び以来で、妹の肌を見る羽目になるとは思いませんでしたが……襲っていた奴らがヒューマット子爵令息の仲間であることを指摘すると、『何で知っている?!』と叫んでくれました。さらにそいつらがたまたま妹に目を付けたわけではなく、滑稽な救出劇を自作自演しようとしていたことを、私の後から路地に飛び込んできたヒューマット子爵令息に向かって告白してくれたのも幸いでした。おかげで憲兵隊から市長に話がいって……」
「そして市長は彼女を婚姻前に穢されないため、子息の方は父が先に手を出さないため……」
「ええ。お互いに牽制しあうことで危ない手段を使うことは止めさせられましたが、しょっちゅう店に顔を出してくるので、本当に観光客以外は近所の者たちぐらいしか寄ってくれなくて。妹はさらに他人と関わることはなくなりました。おかげで血縁関係を蔑む声から遠ざけることはできましたが、他人を思いやる気持ちを育てることが疎かになったのでしょう」
そこまで話して、ようやくクレファーは新しい生徒と自己紹介をしあっていないことに気が付いた。
「あっ!も、申し訳ありません。長い間お待たせしてしまった……とりあえず、座りましょう」
年上の少年と繋ぐのとは反対の手を取り、クレファーはもう名前を知っている男の子を、誰かが置いてくれた椅子へと座らせた。
「私はチュラン・グラウエス家が長男でクレファーと申します。あなたのお名前を窺っても?」
「あ……えぇと……ぼ、く……」
キョロキョロとロフェナとカラを見るアーウェンは、自分が何と名乗っていいのかまだよくわかっていない。
ラウドが傍にいる時は自分を『ターランド伯爵家の息子』として紹介されているのだと促されて気付けるのだが、今はなんと言ったらいいのだろうか──
「恐れながら、私からご紹介させていただいてもよろしいですか?」
ロフェナが客人であるクレファーではなくアーウェンの目を見て尋ねてくれたので、それが正解かわからないが、とりあえず小さく頭を盾に動かしてみる。
「それでは……こちらはターランド伯爵家令息、ご次男であられるアーウェン・ウュルム・デュ・ターランド様です。御年おんとし八歳ですが、間もなく九歳となられます」
「きゅうさい?」
そう聞き返したのはクレファーではなく、当のアーウェンだった。

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