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第一章 アーウェン幼少期
少年はペンの正しい使い方を覚える ①
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次には特に指示をせず、作りたい物を分け合って作るようにと言うと、エレノアは遠慮なく自分が欲しい色や形、大きさをさっさと選び取っていく。
アーウェンはその様子をじっくりと見つめてエレノアがだいたい確保したところで、ようやく手を伸ばし、さらにエレノアが手を伸ばした時には手を止め──積み木はまだたくさんあったので足りなくなることはなかったが、自分が必要な分を自分が望むままに得るということに遠慮があるように見えた。
エレノアが作ったのは四角い積木をふたつ並べ、その上に三角の屋根を乗せた家がいくつか。
アーウェンが作ったのは、カラの言葉を聞いたためなのか、積むのではなく床に寝かせるように並べた四つ足の動物らしき形。
それをふたりはそれぞれ色を揃えて造る。
「……ふむ」
時間にすれば一時間ほどだろうか──クレファーは「じゃあ、次は別の形を作ってごらん」と促し、ふたりの想像力や集中力が尽きるであろう頃合いまで積んだり崩したりを続けた。
「うん。よくできたね。では、次の勉強をするためにテーブルと椅子を出したいから、積み木を片付けてくれるかな?」
どうやって片付けるのかは指示をせず、その様子を見た。
エレノアはとにかく手当たり次第に箱に放り込み、アーウェンはひとつずつ手に取ってなるべく音がしないようにとそっと置くことを繰り返す。
それは大切にしているのもあるのだろうけど、とにかく『うるさくしないように』という怯えめいた気持ちが見える気がした。
テーブルはさすがに重いので、カラがアーウェンに対して自分が持ってきて広げたいと許可を得るために尋ねると、当人はロフェナを見上げ、許可を出すための許可を得ようという表情をする。
ロフェナはその様子に多少思うところはあっても表情には出さず、にっこりと頷いて合図すると、同じくアーウェンも笑って頷いた。
「真似をする……音を立てない……見知らぬ成人男性への怯え……なるほど……」
「ええ、そうなんです」
さすが引き取られた頃の暴力に対する無防備さが異常であったことを理解したのか、今のアーウェンはゆっくりと子供らしいだけでなく人間として見知らぬ人間に対して警戒心を抱くことを覚えつつはあるが、それはサウラス男爵領村で与えられていたのが痛みや暴力であったことも思い出して本能で身体を竦める。
『真似をする』という仕草が抜けないのは、きっとその頃に暴力と共に叩き込まれた『芸』であり、自分の意志や命乞いなどなどすべて無視されてきたせい。
音を立てないようにしていたのかきっと──男爵家で父や兄たちによる理不尽ない理由で暴力を与えられたと推察される。
カラは優しく少し腰を落としてアーウェンに対して威圧的にならない姿勢を貫いているが、それはきっと施設で小さい子供たちの面倒を看ていたのだろうと思い、与えられる環境の落差にロフェナだけでなく話を聞いただけのクレファーも怒りを覚えた。
アーウェンはその様子をじっくりと見つめてエレノアがだいたい確保したところで、ようやく手を伸ばし、さらにエレノアが手を伸ばした時には手を止め──積み木はまだたくさんあったので足りなくなることはなかったが、自分が必要な分を自分が望むままに得るということに遠慮があるように見えた。
エレノアが作ったのは四角い積木をふたつ並べ、その上に三角の屋根を乗せた家がいくつか。
アーウェンが作ったのは、カラの言葉を聞いたためなのか、積むのではなく床に寝かせるように並べた四つ足の動物らしき形。
それをふたりはそれぞれ色を揃えて造る。
「……ふむ」
時間にすれば一時間ほどだろうか──クレファーは「じゃあ、次は別の形を作ってごらん」と促し、ふたりの想像力や集中力が尽きるであろう頃合いまで積んだり崩したりを続けた。
「うん。よくできたね。では、次の勉強をするためにテーブルと椅子を出したいから、積み木を片付けてくれるかな?」
どうやって片付けるのかは指示をせず、その様子を見た。
エレノアはとにかく手当たり次第に箱に放り込み、アーウェンはひとつずつ手に取ってなるべく音がしないようにとそっと置くことを繰り返す。
それは大切にしているのもあるのだろうけど、とにかく『うるさくしないように』という怯えめいた気持ちが見える気がした。
テーブルはさすがに重いので、カラがアーウェンに対して自分が持ってきて広げたいと許可を得るために尋ねると、当人はロフェナを見上げ、許可を出すための許可を得ようという表情をする。
ロフェナはその様子に多少思うところはあっても表情には出さず、にっこりと頷いて合図すると、同じくアーウェンも笑って頷いた。
「真似をする……音を立てない……見知らぬ成人男性への怯え……なるほど……」
「ええ、そうなんです」
さすが引き取られた頃の暴力に対する無防備さが異常であったことを理解したのか、今のアーウェンはゆっくりと子供らしいだけでなく人間として見知らぬ人間に対して警戒心を抱くことを覚えつつはあるが、それはサウラス男爵領村で与えられていたのが痛みや暴力であったことも思い出して本能で身体を竦める。
『真似をする』という仕草が抜けないのは、きっとその頃に暴力と共に叩き込まれた『芸』であり、自分の意志や命乞いなどなどすべて無視されてきたせい。
音を立てないようにしていたのかきっと──男爵家で父や兄たちによる理不尽ない理由で暴力を与えられたと推察される。
カラは優しく少し腰を落としてアーウェンに対して威圧的にならない姿勢を貫いているが、それはきっと施設で小さい子供たちの面倒を看ていたのだろうと思い、与えられる環境の落差にロフェナだけでなく話を聞いただけのクレファーも怒りを覚えた。
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