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第一章 アーウェン幼少期
家庭教師は少年の学び具合を知る ③
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エレノアは年齢よりも高い躾を受けており、それをちゃんと消化している。
逆にアーウェンは自主性が少なく、おどおどと周囲を窺うような素振りが伺える。
どちらも育った環境の違いによるものだろうが、知性に関してはそれほど差異はないように見えた。
「うん……ちゃんと形や色などの区別はついているし、大きさの違いも理解しているね。発想力に関しては感性だったり表現力だったりするから、まあ今はそこまでは問わない。じゃあ、今度はふたりの積み木を一緒にして、家を作ってみようか?」
「いえ!ちゅくった!」
「作った?」
「と、父様と……買っていただいた後に……」
エレノアが次に出された課題に取りかかる前に元気よく手を上げて指される前に返事をし、アーウェンもコクンと頷く。
「ほう……じゃあ、もう一度作ってみようか?その時作ったの、ふたりは覚えているかな?」
今度はクレファーもそばに座り込み、ふたりがそれぞれ分けた積み木を両手で寄せて、わざとグシャグシャにかき混ぜる。
エレノアはたちまち喜んで先生と同じように小さな手のひらを広げて、カチャカチャと小さな音を立てて手前の積み木を混ぜたが、アーウェンはそれをただ見ているだけだ。
「えぇと……アーウェン…様は?一緒に混ぜませんか?」
「えぇ………あの……一緒に、いいんですか……?」
クレファーもアーウェンもお互いが未知数すぎてどう対応していいのかわからず、遠慮がちに声を掛け合う。
パッと見たところ、確かにアーウェンは上等な服を着ているし、クレファーが知っている八歳児より発育が悪すぎるのにおずおずと伸ばされた手指の荒れ具合はまるで下男下女でもこうはなるまいというほど──一言で言ってしまえば『汚い』という感想を持ちかねない見かけだ。
アーウェンの方では見知らぬこの男の人がどうやら優しい『先生』という者らしいとわかってはきているが、男爵領で虐待してきた兵士たちと似た年齢だということを本能で察したのか、いつか突然笑いながら暴力を振るわれるのかもしれないと、無意識に構えてしまっている。
しかしここでロフェナやカラが間に入ってしまえば、クレファーはともかく、アーウェンの方はそういった手助けがなければ他人と関わることができなくなってしまうかもしれない。
そう思ったのは執事側だけでなく、ラリティスも同様で黙ってエレノアやアーウェンを見守っているが、手も口も出さずに座っているだけである。
主に大人であるクレファーの手によって程よく色も大きさもバラバラに混ぜられたところで、宿で作った家と同じ物を作るようにと新しく生徒となったふたりの目を見て話した。
クレファーはそばに座っているだけで、アーウェンとエレノアがそれぞれ家を作っていくのを見ているが、ふたりとも互いの手に取った積み木を見てゆっくりとひとつずつ置いていく。
かなり時間をかけて出来上がったのは、同じ色、同じ大きさ、同じ部分に置いたふたつの家。
最初はエレノアが置くのに合わせてアーウェンが同じ積み木を並べたり積んだりしていたが、エレノアの記憶があやふやになってくると、今度はアーウェンがチラッとエレノアを見ながら積み木を重ね、義妹がそれを真似するというふうに引っ張っていく役目が変わった。
「……なるほど。確かに記憶力は正常みたいですね。積み木を買ったのは……」
「二日…いえ、三日前ですね。しかし遊ばれたのは、その翌日の朝食が終わった後と聞いています。間違いないかな?」
「はい。アーウェン様がご希望されて、旦那様とご一緒に遊ばれました。遊び疲れて眠ってしまわれましたが、私がその際に見たのは……犬、か何かを象った物が床の上に造られていました」
「……ほう」
ロフェナが主人一家の傍にいた者たちからの報告を簡単に披露し、カラが確認されてさらに追加で情報を話すと、クレファーは余った積み木とふたりの家をそれぞれ眺めた。
逆にアーウェンは自主性が少なく、おどおどと周囲を窺うような素振りが伺える。
どちらも育った環境の違いによるものだろうが、知性に関してはそれほど差異はないように見えた。
「うん……ちゃんと形や色などの区別はついているし、大きさの違いも理解しているね。発想力に関しては感性だったり表現力だったりするから、まあ今はそこまでは問わない。じゃあ、今度はふたりの積み木を一緒にして、家を作ってみようか?」
「いえ!ちゅくった!」
「作った?」
「と、父様と……買っていただいた後に……」
エレノアが次に出された課題に取りかかる前に元気よく手を上げて指される前に返事をし、アーウェンもコクンと頷く。
「ほう……じゃあ、もう一度作ってみようか?その時作ったの、ふたりは覚えているかな?」
今度はクレファーもそばに座り込み、ふたりがそれぞれ分けた積み木を両手で寄せて、わざとグシャグシャにかき混ぜる。
エレノアはたちまち喜んで先生と同じように小さな手のひらを広げて、カチャカチャと小さな音を立てて手前の積み木を混ぜたが、アーウェンはそれをただ見ているだけだ。
「えぇと……アーウェン…様は?一緒に混ぜませんか?」
「えぇ………あの……一緒に、いいんですか……?」
クレファーもアーウェンもお互いが未知数すぎてどう対応していいのかわからず、遠慮がちに声を掛け合う。
パッと見たところ、確かにアーウェンは上等な服を着ているし、クレファーが知っている八歳児より発育が悪すぎるのにおずおずと伸ばされた手指の荒れ具合はまるで下男下女でもこうはなるまいというほど──一言で言ってしまえば『汚い』という感想を持ちかねない見かけだ。
アーウェンの方では見知らぬこの男の人がどうやら優しい『先生』という者らしいとわかってはきているが、男爵領で虐待してきた兵士たちと似た年齢だということを本能で察したのか、いつか突然笑いながら暴力を振るわれるのかもしれないと、無意識に構えてしまっている。
しかしここでロフェナやカラが間に入ってしまえば、クレファーはともかく、アーウェンの方はそういった手助けがなければ他人と関わることができなくなってしまうかもしれない。
そう思ったのは執事側だけでなく、ラリティスも同様で黙ってエレノアやアーウェンを見守っているが、手も口も出さずに座っているだけである。
主に大人であるクレファーの手によって程よく色も大きさもバラバラに混ぜられたところで、宿で作った家と同じ物を作るようにと新しく生徒となったふたりの目を見て話した。
クレファーはそばに座っているだけで、アーウェンとエレノアがそれぞれ家を作っていくのを見ているが、ふたりとも互いの手に取った積み木を見てゆっくりとひとつずつ置いていく。
かなり時間をかけて出来上がったのは、同じ色、同じ大きさ、同じ部分に置いたふたつの家。
最初はエレノアが置くのに合わせてアーウェンが同じ積み木を並べたり積んだりしていたが、エレノアの記憶があやふやになってくると、今度はアーウェンがチラッとエレノアを見ながら積み木を重ね、義妹がそれを真似するというふうに引っ張っていく役目が変わった。
「……なるほど。確かに記憶力は正常みたいですね。積み木を買ったのは……」
「二日…いえ、三日前ですね。しかし遊ばれたのは、その翌日の朝食が終わった後と聞いています。間違いないかな?」
「はい。アーウェン様がご希望されて、旦那様とご一緒に遊ばれました。遊び疲れて眠ってしまわれましたが、私がその際に見たのは……犬、か何かを象った物が床の上に造られていました」
「……ほう」
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