その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

少年は知能を認めてもらう ②

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アーウェンの包みの中から出てきたのは赤い玉だった。
まさかエレノアがもらった物と違う色の飴が出てくるとは思わなかったアーウェンは、驚いた顔をして固まってしまう。
「ああ、それはいろんな色と味があるんですよ。甘いですから、どうぞ食べてくださいね」
そういうとクレファーはカラにも飴を渡して、自分も違う包み紙をくるりと捻る。
ふたりのは同じ水色の物が出てきたが、それぞれ口に放り込むのを見てようやくアーウェンもそっと自分がもらった飴を口にいれた。
「あまぁ………」
両手を思わず頬にあててうっとりと目を細めると、エレノアがそんなアーウェンを嬉しそうに見て小さな手を両頬にあてて、同じようにうっとりとした表情をする。
「ふふ……いいですね。飴を舐めたままでいいので、次のカードの真似をしてみましょうか?上手にできたら、もう一つ飴がもらえますよ~」

『飴と鞭』ならぬ『飴と学習』作戦で、短時間のうちに十枚のカードの単語を書きとることができた。
アーウェンとエレノアの手元にはそれぞれ八個の飴と、二枚の包み紙が置いてある。
「はい、おふたりとも頑張りましたね!ターランド伯爵領に到着するまで、まだ何日かあります。明日からは到着までの日の数え方もお教えします。そして到着するまでのおふたりともご自分の名前を書けるようになりましょう」
「あい!」
「はいっ」
元気良く返事をするふたりにクレファーは笑顔で頷き、今度はまたテーブルと椅子を片付けるようにと指示をする。
そうして広くなったテントの床に敷かれた敷物の上に座り、ラリティスに頼んでふたりへ絵本を読んでもらった。
きっとエレノアは何度も読んでもらったはずだろうが、アーウェンがキラキラと目を輝かせて物語に引き込まれるのを見て嬉しそうに身体を揺らし、効果音のところではラリティスの声に合わせて同じく「ズドーン!」とか「やったー!」と声と手を上げ、思う存分楽しんでいる。
優しく、時折元気よく美しい発音で絵本を読むラリティスに好意的な視線を向けながら、クレファーはさすがにアプローチをかけることはできないと、自分を戒めるように小さく頭を振った。
「では、次はどれを読みましょうか?」
絵本専用の収納箱を広げてふたりに選ばせようとするが、初めて字を習ったばかりのアーウェンは当然のこと、エレノアも背表紙だけでは選ぶことができないらしい。
そう察したラリティスは何冊か引き出して表紙を見せる。
「今日はアーウェン様に選んでいただきましょうね。エレノア様、よろしいですね?」
「あい!」
「えっ……」
選択権を譲られてアーウェンは呆然としたが、エレノアは特に気にした様子もなく、逆にどれを義兄が選ぶのかと期待に満ちた目でアーウェンと本たちを見比べた。

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