その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

少年は眠ったままで成長する ②

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カウチの真ん中に座るアーウェンを挟むように自分から見て左側にカラ、右側にエレノアが座るのを見て、ヴィーシャムは一瞬娘だけ自分の側に呼ぼうとして口を開いた。
けれど声は出ず、また閉じられて少し思案顔になる。
「……アーウェン」
「はい。母様」
その返答は今までの遠慮がちでおどおどしていたものとは違い、何かはっきりとした意志を感じて、ヴィーシャムはわずかに怯んだ。
いつものように優しく話しかけ、エレノアよりも幼い子供のように宥め、少しずつ話を聞くつもりだったのに──アーウェンから発せられる雰囲気が少し違う。
「……何がありましたか?」
「わかりません」
「わからない?」
「何が起きたのかはりかいしているのですが、どうしてそうしたのかがわかりません。小さいウサギがいて……僕はそれを追いかけなくてはと思い、『捕まえたら、ソレを殺す』という命令を実行していました」
「命令……実行……」
アーウェンの話す内容もそうだが、何よりその口調が違う。
まるで人が変わったかのように──誰かと入れ替わってしまったかのように。
「……あなたは、アーウェン…ですよね?」
「はい。ラウド・ニアス・デュ・ターランド伯爵閣下によりサウラス男爵家から引き取られ、ウュルム・デュ・ターランドの名をいただいたアーウェンです」
「……それに、しては……いえ、いいでしょう。あなたが今の状態になったことは、後でお父様にお話なさい」
「はい、母様」
「では先ほどの……『何が起きた』というのは、『ウサギを追いかけ、殺害した』ということで間違いないですね?」
「はい」
「では、わからない……『どうしてそうした』というのが、わからないというのは?」
「それは……」
一瞬言葉を躊躇ったのは、やはり目を覚ます以前のあのたどたどしい状態に戻ったのかと思ったが、そうではなく単に伝え方を考えていただけだとわかったのは、アーウェンのその喋り方の変化かもしれない。
「まず、そのようなことをじっさいに言われたのはサウラス男爵領村につれられて行った時、僕がほねを折られる前……ワナにかかったウサギを見つけた時でした。でも、その時はできなくて……たくさん殴られました。そうしていたいと泣いていたのに、無理やり『どうやるのか教えてやる』と言われて……そのわなにかかったウサギの首を折るところを見せられて」
「……よ、よろしい。もう、お止めなさい、アーウェン……続きは別の席にしましょう。エレノアに聞かせて良いものではありません」
「え?」
義母に言葉を遮られ、キョトンと見返した後に傍らにいる小さな少女に気が付いて見下ろした。
いつの間に立っていたのか、エレノアの背後からラリティスがそっとその小さな耳に両手を当てているが、エレノアは何でもないような顔をして何かを聞いている。
「……大丈夫です。防音の魔法と、お嬢様のお好きな鳥の鳴き声が聞こえるように調整した物で覆いましたので、ただいまのお話の内容は聞こえておりません」
「う、うん……」
「……おにいしゃま?どうちたの?」
ふいに鳥の音が聞こえくなったのに気が付いたのか、エレノアがきょろきょろと辺りを見回してから、自分をジッと見つめるアーウェンの方へ顔を上げて笑いながら首を傾げた。


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