その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

家庭教師は妹を諭す ①

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学が足りない──そんなことは、シェイラだってわかっていた。
だが父や母が兄と同じ教育を受けさせずに、シェイラを学校にやらなかった理由もわかっている。
あの恐ろしい出来事、きっとあれが原因だ──


シェイラが五歳の時、『ヤウェス・ドラン・ヒューマット子爵様』と名乗る男が『ドラン・アガス・ヒューマット』という少年を連れてやってきた。
それも店の方ではなく、裏の自宅に繋がる道からである。
「……ふん。五年も連絡を寄こさないと思ったら……そうか、娘が産まれていたのか……」
「父上?こいつが俺の嫁か?」
ジロジロとシェイラを眺める男の目付きはまるで値踏みをするようで、べろりと舌を出して唇を舐めた。
「ふん。まだ全然『女』でもないじゃないか!顔はまあまあ可愛いから……さすがに蛮人の血を引くだけあって、ウェルエスト国の正式な集まりには連れて行けないが……屋敷の中だけで楽しめる『ペット』としてはいいかもな!」
「ヒ……」
突然近付いてきて顎を掴まれ、首がちぎれんばかりに持ち上げられるのは、幼い少女としては恐怖でしかない。
その怯える様子を見て、年嵩の男もニヤリと笑う。
「ふふ……『ペット』か……お前の母親を味わうことはできなかったが……それもいいな!おい、お前の嫁にするのは止めだ!こいつは俺の夫人の一人に加えよう!」
「何だと!父上にはもう第三夫人までいるじゃないか!こいつは俺が飼うんだ!」
そう反論する少年の指からシェイラの顔を奪い、気持ち悪い笑みを浮かべた父親の方がグッとシェイラをさらに持ち上げるようにして顔を近付けてくる。
「お前のような上玉を見分ける目もできてないガキには、この娘はもったいない……俺の好みに躾けてやろう……」
「いいかげんにおしっ!」
バシッと強い力で箒が振り下ろされ、シェイラを掴んでいた手が離れた。
同時に震えているその小さな身体が、嗅ぎ慣れた匂いと温かさに包まれる。
「こんな……こんな小さい子をっ……お前たちは鬼かいっ?!うちから出てお行き!」
「シェイラっ?!どうした!!」
厨房の裏口から包丁を持った父も飛び出してき、捌いていた魚の汚れや何やらをつけたままズンズンとこちらにやってきた。
「……ヤウェス。お前はもうパージェに近付くなって、子爵様に命令されていたはずだが?」
「ふっ……ふんっ。あんな耄碌ジジイなど、爵位を譲られたらすぐにでもこの町から追い出してやる!」
「今の言葉、そっくりそのままお屋敷に持って行ってやる。さあ、出て行くのか?それとも使いを出してやる方が先か?」
「クッ……クソッ……」
父と母に気圧されたのか、『子爵』という男たちは出て行ってくれた。
シェイラは鼻と鼻がくっつきそうな位置まで首を伸ばされたせいで筋を痛めて泣き出していたが、無理やりキスをされそうだったとは気が付かなかったが、気持ち悪いと感じたのは間違っていない。
母はシェイラが痛いと訴えた部分に湿布を貼ってくれ、触られた部分を清めるように何度も濡れた手拭いで顔を拭きまくってから、さらに風呂に入れた。
父は裏口の防犯を強化するために店を閉め、それからシェイラの自由はほぼ家の敷地の中だけとなったのである。



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