その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

家庭教師は妹を諭す ②

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狭い世界は心地良かった。
幼年から小学部の頃には友人関係だったはずの近所の『お友達』はほとんどいなくなってしまったが、あんな怖ろしい男たちに見下ろされるよりはずっといい。
兄が毎日外に出て学校に行っていろんなことを覚えて帰ってきたが、少しずつ怪我をして帰ってくるようになったことを知っているのは、学校に行かせてもらえないシェイラだった。
父も母も娘を守るのに気を張りすぎて、嫌がらせの手が伸びている兄を守る余裕はなく、腕力では敵わない兄は理論武装で自分自身を救っていたのである。
それを知りながらシェイラはだんだんと守られることが当たり前になって、兄が勉強を教えてくれることがうっとおしくなり、それよりも祖母の故郷の料理を知りたいと貴重な時間を避けるようになってしまった。
「そうは言っても……お前にも店の外にお使いに行ってもらわないといけないかもしれないからねぇ……」
そう言って母はガブス共和国で多くの婦女子が自分自身を守るために身につける、防衛用の棒術の簡単な型を教えてくれた。
この動きが幼い自分の顔を掴んだ男の手から救ってくれたと知ると、シェイラはそのすべを身につけることに熱心になり──驕ってしまったのである。

抵抗されることに、逃げられることに執着した子爵令息であるドラン・アガス・ヒューマットに追いかけられても撃退することができ、しかもそれ以外の男たちもだんだんとシェイラをどうにか襲って自分のモノにしようとするのを躱すうちに、自分の『価値』を見誤ってしまった。
シェイラを求める男たちは、簡単には手に入らない毛色の変わった『性的愛玩女』を手に入れたかっただけである。
市に住む女たちは市長であるヒューマット子爵令息やその取り巻きに目を付けられることを避け、しかも『貞操』を穢せばすぐにでもその娘を引き受けねばならなかったのに、純粋なウェルエスト人でないシェイラならば、その身体を弄んでも責任を取る必要はないと思い込んでいたからだ。
男たちは『遊んで飽きれば捨てていい玩具』という目で、シェイラは『退けても手に入れなければならない最良の女として見られている』という認識でずっと攻防を繰り返していたのだから、互いに勘違いしていたに過ぎない。
しかしその面倒な相手を簡単に片付けて放り出し、しかも二度と手が出せないようにあの生まれ育った市から救い出してくれたように見えたのが──ロフェナだったのだ。


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