その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

伯爵は知己に手綱を戻す ①

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会計関係の書類だけでも監査するのに、三日ほどかかった。
それでもグリアース伯爵家の次男坊は戻る様子もなく、連行された男たちはすべて取り調べが終わっても解放されない。
「約束が違う!」
「すべて話しんだから、家に帰してくれよ!」
そう騒ぐ者も多いが、むろんそんな約束はしていない。
勝手に『話したら返してもらえる』と思い、クージャに加担して行ってきたことをベラベラと白状したまでである。
その結果、同じ町に住んでいるというのに『貴族たちからの巻き上げに協力しないから』というくだらない理由で、物を売らないとか値段を吊り上げるといったことまで判明した。
「……情けない。同じ釜の飯を食うわけではないが、同じ環境の中で隣同士の畑を耕し、家畜を育て、同じ水を使っているというのに。愚か者を諫めるどころか、咎めれば逆に嫌がらせをするなどと……」
雁首揃えて項垂れるのは、クージャと同年代の男たちばかりである。
女でも悪事に加担していた者はいるが数は少なく、そちらはそちらでヴィーシャムとターニャ夫人が締め上げていた。
町の半分とはいかないまでも、かなりの人数が今回判明した悪政に加担していることがわかり、ターランド伯爵家当主が関わらなければ、もっとひどいことになっていたかもしれない。
「……そうなればこの町自体、私の領から手放されて他の貴族が治めていたかもなぁ……」
「ええ。ターニャ夫人が父君のやっていた町政をもっとより良いものにするべく行っていたことすべてを否定し、搾り上げるだけ搾り上げるような残虐非道な貴族が領主となっていてもおかしくはなかったでしょうね」
手柄を上げても王家が分け与えられる報酬には限りがあり、金はともかく、特に領地などは王家の持ち分を切り崩すことを拒むならばどこかの家から巻き上げるしかない現状。
古くから良政を布いてきた貴族ならばともかく、領民を単なる『税金を巻き上げるための道具』としか思っていない領主も多く、ましてやクージャのように『自分も仲間も楽しければいい』などというお気楽な者が自分たちの頭になるなどとは奇跡に近いのだ。
「そうなればターニャ夫人がすべて救おうとするかもしれませんが……」
「我が領都もこの町すべてを引き受けるには広さが足りん。クージャに従っていた者は、私が切り捨てていたろうな」
つまり──他者から甘い汁を吸っていた者は、この町が腐るままに今度は自分たちが干からびるまで吸い上げられる。
逆にそれを夢見る新参貴族当主が治めるようになれば、生きることすらままならなくなる『死の町』が出来上がり、元に戻るには『次こそは良い領主が当たりますように』と願うしかない。
「さて……お前たちはそれが望みか?グリアース伯爵の庇護を離れ、祖父母や両親、先祖たちが築き上げていった財産と仲間と命を失うために生きる生活を送ることが」
そう尋ねるターランド伯爵の目には、ひとかけらの優しさも浮かんではいなかった。


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