その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

伯爵は義息子の記憶を慮る ②

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だがアーウェンが自ら小さいものの命を奪った──凶行ではあるが、それがアーウェンの中の精神的成長を妨げる『蓋』のようなものを外す鍵だったらしい。

感謝はしない。
だが、否定もしない。

ようやく『解放』された事実だけを認めようと、ラウドは溜め息をついてから地面に直接跪いた。
「だっ、旦那様っ」
カラが慌てて止めようとしたが、逆にロフェナが少年の肩を掴んで唇に人差し指を当てる。
サワサワと風が木々の葉を揺らす音しかしなくなると、ラウドがおもむろに口を開いた。
「御身、咎なく命絶たれたことを、我悲しむ。その身を憐れむ。子々孫々幸らんことを願う。安らかに」
シュゥ…と微かな音を立てて血痕の黒い跡は白い霜に覆われ、キラキラと浄化されながら消えていく。
同時にカラとクレファー、そしてグリアース伯爵以外のターランド伯爵家の家臣たちが、皆片手を握って胸に当てて黙とうを捧げた。


「ただの子ウサギだったとは聞いているが、これでアーウェンが禍を受けることはないだろう」
「そうですね。お休みになっているアーウェン様からも、一緒にいたカラからも、邪悪な気は感じられませんでしたが、やはり浄化は必要だったようです」
「ほう……?」
「小さな悪意の塊のようなもの…でしょうか?あの公園ではよく子供たち同士で諍いや、その……男女の間でよろしくないことは起きていませんか?」
「うむ……妻がこの町に住んでいた頃、よくここで怪我をする子が多かったらしい。だから時期を決めて石を取り除いたり掃除をしたりするとしばらくは治まって……だが、いつの間にかやはり怪我や喧嘩が起きてまた整地して……と、繰り返していたらしい」
グリアース伯爵がロフェナの言葉に答えると、ラウドは林の奥に視線をやった。
「人ではなく、小動物が理不尽に命を奪われることが、この林の奥でたびたびあったのかもしれません。子供たちが遊ぶ部分を主に清掃などしていたのかもしれませんが、今後はこの林の中を男どもの手を使って整理するといいかもしれませんね」
魔物の気配は感じられないが、何となく嫌な感じがする──ロフェナのそんな言葉の真意を汲み取り、ラウドがグリアース伯爵に提案すると、老伯爵も同じように薄暗いその藪よりも奥に目をやる。
自分には何も感じられないが、無属性の魔力を持つロフェナが感じ取った何かを信じるラウドをまたグリアース伯爵も信じ、力強く頷いた。
「そうさせてもらおう。クージャが戻り次第、アレをこの林の最奥で働かせてやる。この林が綺麗になれば、あいつの心も綺麗……にはならんだろうが、何かしら変化があるかもしれんな」
その声はわずかに疲れたようであり、だがどこかしら吹っ切れた感もあった。


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