244 / 436
第一章 アーウェン幼少期
伯爵は義息子の記憶を慮る ①
しおりを挟む
調査が入らなかった店は無く、しかも数軒の農家や酪農を行う者からクージャに生産した物を巻き上げられたり、無断で持って行かれたという訴えを起こしてくれた者もようやく表れてくれた。
「……ヤラかしてくれとるなぁ、あいつは……」
「ええ。すごいです。親から継ぐものと決めてかかって、好き勝手してよいと勘違いしているのでしょう。いや…単に与えられたものを巨大な玩具としてしか扱えなかったのか……」
精査した結果、自ら進んでクージャに従っていた者はほぼ先代から家業を譲られた同年代ばかり。
逆に迷惑を被っていた者は、ターニャ・クリウム・デュ・グリアース伯爵夫人の信頼が厚く、また彼女と幼い頃から交流のあった者ばかりだった。
狙ってそうしたのかはわからないが、少なくとも町長代理のやり方を是としない者たちばかりが迫害や嫌がらせを受け、不利益を被っていることだけはよくわかる。
「しかもこの度、クージャが留守にする際にはお気に入りの者を連れて行ったため、残ったゴマすりどもがお前さんたち一行をいいカモだと思ったわけか……いや、今までもどこかの家に迷惑をかけていたかもしれんのぅ……道理で我が領地でも私たちの屋敷に来ても、他の町などに立ち寄ることを避けると思ったよ」
小さな変化はあったのだろうが、さすがにいい大人になった領主の息子がバカなことをしているとは思わずに、ただ訪ねてきた友人知人を迎えていたのだろう。
それがターランド伯爵たちから度の過ぎた搾取を行おうとし──面子を重んじる貴族たちはたとえ吹っ掛けられても文句は言えず、逆にグリアース伯爵領を避ける結果となったに違いないが──結果的に悪事を暴かれる結果を招いたの、まさしく自業自得。
そして町の良心とも言えるターニャ夫人からの信頼の厚い者を食肉工場での労働へと追いやり、代わりに堕落と不正を否定しない取り巻きばかりを重用して町政を腐敗させ、もう少しでこのアズ町を含む近隣地域がグリアース伯爵領から国庫に戻され、どこか別の貴族に与えられたかもしれないのだ。
「……それが狙い、か?」
「どこの誰が……とまではいかんが、まあ…うちのバカ息子に近付く女をとっ捕まえられれば、少なくともどういった伝手で取り入ったのぐらいはわかろうよ」
公園の中でカラはアーウェンがおかしくなる前から説明を始める。
「アーウェン様は『公園』で遊ばれたこともないようで、滑り台やジャングルジムなどもありますが、まずはブランコを……ただ、漕ぎ方もご存じなく」
「そ!そうなのじゃ!何だ?あの子は……外遊びというものをしたことがないのか?あれぐらいの子ならば、もう身体が疼いて仕方ないとばかりに駆け回るもんだと思っておったが……この町の三歳児より大人しゅうて……爺はもう心配でならんよ……」
あまり会えてはいないとはいえ、長男のところの子供も元気よく王都の屋敷内にある運動室で元気よく遊びまわっている。
それなのにアーウェンは──
「そ、それはあの、ともかく……しばらくブランコで遊んでいたのですが、あちらの藪で動くものを見付けた瞬間に目の色が変わるというか、雰囲気が変わりまして」
距離からするとそんなに離れていないものの、いつも躊躇ってから動き出すアーウェンとは違って藪の中に飛び込み、カラが後を追って止める間もなく、手頃にあった石を使って子ウサギを──
そう言いながら案内したそこには黒っぽい跡が残っているが、残骸はすでに取り除かれている。
「……あの頃はできなかった。今はできるようになった。成長ではあるが……できればそんな確認をしたくはなかった」
「……はい。私も仕事として魚や小動物を捌くことはありましたが……自分で必要のない命を取ったことは……」
ラウドの悲しそうな声に、カラも俯いてグッと手を握りこんだ。
「……ヤラかしてくれとるなぁ、あいつは……」
「ええ。すごいです。親から継ぐものと決めてかかって、好き勝手してよいと勘違いしているのでしょう。いや…単に与えられたものを巨大な玩具としてしか扱えなかったのか……」
精査した結果、自ら進んでクージャに従っていた者はほぼ先代から家業を譲られた同年代ばかり。
逆に迷惑を被っていた者は、ターニャ・クリウム・デュ・グリアース伯爵夫人の信頼が厚く、また彼女と幼い頃から交流のあった者ばかりだった。
狙ってそうしたのかはわからないが、少なくとも町長代理のやり方を是としない者たちばかりが迫害や嫌がらせを受け、不利益を被っていることだけはよくわかる。
「しかもこの度、クージャが留守にする際にはお気に入りの者を連れて行ったため、残ったゴマすりどもがお前さんたち一行をいいカモだと思ったわけか……いや、今までもどこかの家に迷惑をかけていたかもしれんのぅ……道理で我が領地でも私たちの屋敷に来ても、他の町などに立ち寄ることを避けると思ったよ」
小さな変化はあったのだろうが、さすがにいい大人になった領主の息子がバカなことをしているとは思わずに、ただ訪ねてきた友人知人を迎えていたのだろう。
それがターランド伯爵たちから度の過ぎた搾取を行おうとし──面子を重んじる貴族たちはたとえ吹っ掛けられても文句は言えず、逆にグリアース伯爵領を避ける結果となったに違いないが──結果的に悪事を暴かれる結果を招いたの、まさしく自業自得。
そして町の良心とも言えるターニャ夫人からの信頼の厚い者を食肉工場での労働へと追いやり、代わりに堕落と不正を否定しない取り巻きばかりを重用して町政を腐敗させ、もう少しでこのアズ町を含む近隣地域がグリアース伯爵領から国庫に戻され、どこか別の貴族に与えられたかもしれないのだ。
「……それが狙い、か?」
「どこの誰が……とまではいかんが、まあ…うちのバカ息子に近付く女をとっ捕まえられれば、少なくともどういった伝手で取り入ったのぐらいはわかろうよ」
公園の中でカラはアーウェンがおかしくなる前から説明を始める。
「アーウェン様は『公園』で遊ばれたこともないようで、滑り台やジャングルジムなどもありますが、まずはブランコを……ただ、漕ぎ方もご存じなく」
「そ!そうなのじゃ!何だ?あの子は……外遊びというものをしたことがないのか?あれぐらいの子ならば、もう身体が疼いて仕方ないとばかりに駆け回るもんだと思っておったが……この町の三歳児より大人しゅうて……爺はもう心配でならんよ……」
あまり会えてはいないとはいえ、長男のところの子供も元気よく王都の屋敷内にある運動室で元気よく遊びまわっている。
それなのにアーウェンは──
「そ、それはあの、ともかく……しばらくブランコで遊んでいたのですが、あちらの藪で動くものを見付けた瞬間に目の色が変わるというか、雰囲気が変わりまして」
距離からするとそんなに離れていないものの、いつも躊躇ってから動き出すアーウェンとは違って藪の中に飛び込み、カラが後を追って止める間もなく、手頃にあった石を使って子ウサギを──
そう言いながら案内したそこには黒っぽい跡が残っているが、残骸はすでに取り除かれている。
「……あの頃はできなかった。今はできるようになった。成長ではあるが……できればそんな確認をしたくはなかった」
「……はい。私も仕事として魚や小動物を捌くことはありましたが……自分で必要のない命を取ったことは……」
ラウドの悲しそうな声に、カラも俯いてグッと手を握りこんだ。
18
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない
猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。
まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。
ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。
財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。
なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。
※このお話は、日常系のギャグです。
※小説家になろう様にも掲載しています。
※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる