その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第二章 アーウェン少年期 領地編

少年は『自分の部屋』に驚く ①

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目が覚めて身動ぎすると、グゥッとお腹が鳴った。

薄暗い部屋の中、アーウェンは慌てて体を丸めてギュッと胃のあたりに拳を当てて、ブツブツと呟く。
「なっちゃダメ…なっちゃダメ…おねがいです…ならないで…」
気配を消してアーウェンの寝るベッドの足元に控えていたカラがそっと近づいたが、その呟きを聞き取って、声をかけていいかどうかと躊躇った。
だがその間にもアーウェンの身体は正常な状態で機能していることを示すかのように、遠慮なくググゥと連続で鳴る。
さすがにこのまま空腹のアーウェンを放置しておきたくなくて、カラは返ってくる反応を予想しながら、そっと布団の膨らみに手をかけて呼びかけた。
「……アーウェン様。お起きになりますか?」
「うぁ……ご、ごめんなさ…ぁ……カ……カラ……?」
やはりか──
アーウェンの生家があまり良い環境でなかったことは聞いていた。
王都の邸に来た当初は何度もアーウェンがベッドから消え、その足元の狭い場所に身体を捻じ込むようにして丸まって震えながら寝言で『ごめんなさい…ごめんなさい…』と呟いているのを発見したこともあると、ロフェナが痛ましそうに話してくれた。
しかも本人はまったく覚えていないらしく、見つけたらお起こししないように気をつけて抱き上げ、素早くベッドに寝かせること──それが朝でも夜中でもアーウェンが目を覚ます前に専属従者として行うべしと、ロフェナに教え込まれている。
それだけでもどんな扱いを受けてきたのかと推測できて、平民の自分の方が母親たちに愛されていただけでも素晴らしい育てられ方をしたのだと、感謝とアーウェンへの憐みで胸が苦しくなった。

だが今はいつものように見て見ぬふりでやり過ごすわけにはいかず、アーウェンが正気に戻って気まずげにするかもしれないと思いつつも、その原因を鎮めるにきたことを説明した。
「昨日は本邸に到着する前にアーウェン様は眠ってしまわれたので、旦那様がこちらのお部屋へお連れになりました。いつもより少し早い時間ですが、軽い朝食を召し上がれますようにと厨房の者が準備しています。起き上がれますか?」
「う……ん……」
もぞもぞとアーウェンが動くとまたもやお腹がグゥと鳴り、ビクッと小さな肩が跳ねて丸められる。
「よく眠れたみたいですね。隣の部屋に朝食がありますので、お着替えの前に食べましょう」
「え?」
王都の邸では寝室は二階にあったが食事は階下の食堂へ連れて行ってもらっていた。
だから『朝ご飯』と言われて当然のように食堂に行くのだと思ったのに、カラの言葉にアーウェンは聞き間違えたのかと首を傾げる。
実はこの城でアーウェンが宛がわれた部屋はベッドが置かれた寝室の他、扉で繋がった応接室を兼ねた私室と洗面浴室があった。
さらには女性用のものよりは小さな衣裳部屋へ通じる扉もあったが、寝たまま到着したアーウェンはまったくどこも案内されていないため、まったく自分のいる場所が分からなかった。


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