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第二章 アーウェン少年期 領地編
伯爵は息子に説明する ②
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それは単に手のひらを頭髪に乗せたというものではなく、くしゃくしゃと何度か動かされ、丁寧に整えられたリグレの髪を乱すちゃんとした『撫でる』という行為だった。
それはあまりに自然で、でも突然で、息子のキョトンとした顔を正面から見ると、血の繋がりは果てしなく薄いはずの義息子とよく似ている。
たちまちその白い頬が赤く染まって身体を縮こませながら、申し訳なさそうなでも恥ずかしそうな顔をして父の手から逃れようとするが、ラウドは容赦なく抱え込むように息子をさらに撫でまくった。
「ちっ…父上っ!もっ、もうっ…もう~!!」
「ハハハッ!いや、大きくなったと思ったが、リグレの頭もまだ撫で心地がいいな……何故、私はこんなに素晴らしいことを見逃していたのかな……」
今さらという気もしないではないが、そんなことに気付かせてくれたのだから、それだけでもアーウェンを手元に置いた意味がある。
だがそれではリグレの質問には答えていない。
ラウドは咳ばらいをひとつすると、リグレの髪を手で撫で整えてから、真面目な気持ちで答えた。
「確かに今のサウラス家では誰も頭角を現していない……という話ではあるが、教会に届けられたサウラス男爵の末子について、気になる話が断片的に入ってきたのだ」
曰く。
産まれ卑しい子供。
茶色のほぼ魔力の感じられぬ一家の中にあって、異質に漆黒の髪を持つ子供。
産まれてから一度も家を出たことがない子供。
男爵領村においても蔑まれ、だが訓練と称して滞在していたある貴族の兵たちが「年端も行かぬガキが剣の真似事をしたい様子だったので、遊んでやった」という話。
キャステ家当主であるアーウェンの祖父ですら、一度も見たことのない子供。
「気になりサウラス男爵家を探らせたのだが、まったく話が出てこなかった……しかし教会に出生届は出されており、死亡届けは出されていない。キャステ騎士爵家に問い合わせをすれば、『末の孫息子がいるはずだが、兄たちは皆『出来損ない』だと話すばかりで会うことが叶わない』と。娘婿のサウラス男爵自身は隠蔽する術を持ってもいないにも関わらず、だ。そしてアーウェンのすぐ上の兄もまた産まれてから『身体が弱い』という理由で家から出ていないのだが……」
「え?アーウェンの他にもあの家に兄がいたのですか?」
ラウドは見たことがなかったが、実はリグレはアーウェンのことを独自に調査していた際、こっそりと生家を見に行っていた。
貴族が住むとは思えないほど小さく、貧しく、朽ちていると思われ兼ねない外観で──偶然にも通いの家政婦が家の外にいたのを見たが、それが無ければ誰かが住んでいるとは思えなかったかもしれない。
だがそういえば──
「二階の奥の方……おそらくサウラス男爵邸の中でもよい客室ではないかと思うのですが……見目の良い透けるカーテンが掛かっていました」
「ああ……そういえば……」
リグレがふと思い出したことを呟くと、ラウドもそんな報告があったのを思い出した。
それはあまりに自然で、でも突然で、息子のキョトンとした顔を正面から見ると、血の繋がりは果てしなく薄いはずの義息子とよく似ている。
たちまちその白い頬が赤く染まって身体を縮こませながら、申し訳なさそうなでも恥ずかしそうな顔をして父の手から逃れようとするが、ラウドは容赦なく抱え込むように息子をさらに撫でまくった。
「ちっ…父上っ!もっ、もうっ…もう~!!」
「ハハハッ!いや、大きくなったと思ったが、リグレの頭もまだ撫で心地がいいな……何故、私はこんなに素晴らしいことを見逃していたのかな……」
今さらという気もしないではないが、そんなことに気付かせてくれたのだから、それだけでもアーウェンを手元に置いた意味がある。
だがそれではリグレの質問には答えていない。
ラウドは咳ばらいをひとつすると、リグレの髪を手で撫で整えてから、真面目な気持ちで答えた。
「確かに今のサウラス家では誰も頭角を現していない……という話ではあるが、教会に届けられたサウラス男爵の末子について、気になる話が断片的に入ってきたのだ」
曰く。
産まれ卑しい子供。
茶色のほぼ魔力の感じられぬ一家の中にあって、異質に漆黒の髪を持つ子供。
産まれてから一度も家を出たことがない子供。
男爵領村においても蔑まれ、だが訓練と称して滞在していたある貴族の兵たちが「年端も行かぬガキが剣の真似事をしたい様子だったので、遊んでやった」という話。
キャステ家当主であるアーウェンの祖父ですら、一度も見たことのない子供。
「気になりサウラス男爵家を探らせたのだが、まったく話が出てこなかった……しかし教会に出生届は出されており、死亡届けは出されていない。キャステ騎士爵家に問い合わせをすれば、『末の孫息子がいるはずだが、兄たちは皆『出来損ない』だと話すばかりで会うことが叶わない』と。娘婿のサウラス男爵自身は隠蔽する術を持ってもいないにも関わらず、だ。そしてアーウェンのすぐ上の兄もまた産まれてから『身体が弱い』という理由で家から出ていないのだが……」
「え?アーウェンの他にもあの家に兄がいたのですか?」
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貴族が住むとは思えないほど小さく、貧しく、朽ちていると思われ兼ねない外観で──偶然にも通いの家政婦が家の外にいたのを見たが、それが無ければ誰かが住んでいるとは思えなかったかもしれない。
だがそういえば──
「二階の奥の方……おそらくサウラス男爵邸の中でもよい客室ではないかと思うのですが……見目の良い透けるカーテンが掛かっていました」
「ああ……そういえば……」
リグレがふと思い出したことを呟くと、ラウドもそんな報告があったのを思い出した。
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