その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

文字の大きさ
389 / 436
第二章 アーウェン少年期 領地編

伯爵は派遣を思いつく ②

しおりを挟む
「お前の亡き息子の妻の出身地は、どこだ?」
「え…あ、あ……」
再度の問いかけに何を言われたのかようやく理解し、デンゴーは老いた脳みそから記憶を引っ張り出すように唸りながら少しの間だけ目を瞑り、「あやふやですが」と断わりを入れつつ答えた。
「王都から見て西……なるほど……」
王都中心から北北西にあるのがターランド伯爵領で、離れてはいるがもっと北寄りで国境近くにあるのがアーウェンを預ける予定のウェネリドン辺境伯爵領だ。
そちらではなくほぼ垂直に左に向かうとあるのがロエンの実母が生まれ住んでいた地方である。
王国から平民が出ることはほぼ無いが、さすがに戦争に関わる立場にあるラウドは知識としてその外側にある国々も把握していた。
「流浪の民……確か黒髪の者が隣国を転々としていると聞く。一部の者が我が国に渡って地元に溶け込んだとも……」
「は……え、いやぁ……嫁がその黒髪の異国モンだったかまでは、儂は知らんでして……息子もそんなことはひとっ言も言うこともなく……しかしこの子の髪色が人目を引いてはいかんと、どこからか染髪の魔法薬を手に入れてきました」
「魔法薬?」
「へえ……不思議なもんで、使ってもなくならんのです。ただ、使い過ぎると今度は染まらんくなる……息子が自分の不在中に孫の頭に塗ってくれと置いていったんだが……」
「アレ……そんな変なもんだったんだ……」
「変とは何じゃ!」
祖父と領主様の話をポカンと聞いていたロエンはすっかり泣き止んでいたが、どうやら自分の髪を染めていた物が得体の知れない代物らしいと思ったのか、ゲェッとえずくような表情で祖父を睨みつけた。
その言葉にカッとなったデンゴーは思わず言い返したが、さすがに立場を忘れることはなかったようで孫の頭を押さえつけてガバッと白髪頭をラウドに向かって下げる。
「ああ、いや構わん……なるほど……」
何度目かの納得の呟きと頷きを繰り返し、ラウドは腕を上げてロフェナを呼び寄せると部屋の隅で控えている侍女と従者にそれぞれ指示を出すようにと小声で伝える。
そのままロフェナが従者たちと共にわずかに腰を曲げてから退室すると、ラウドはすっかり身体を乗り出して少年を見るアーウェンを引き寄せ、ゆったりとソファに座り直した。
「まずはお前の孫をこちらで預かろう」
「はっ……へ……?」
「この城には特殊な魔法が掛けられている。お前の孫を変な目で見る者もいないし、取り込まれたりする者もいない。逆に言えば取り入ろうとする者もいないから、子供たちの中にいた時のように威張れるとは思わないことだ」
「なっ……」
ラウドがふっと笑いながら告げると、デンゴーはびっくりしたように目を見開いて固まり、ロエンはグッと唇を噛んで睨みつけた。
この期に及んで牙を剥こうとするような態度はどうかと思うが、ラウドはこの町──いや、領地を治める立場にあり、思いついたことを実行するだけの力と権利がある。
常日頃はそれをむやみに振り翳さないだけであり、今こそ使うべき時だった。


しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...