その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第二章 アーウェン少年期 領地編

少年は『感情』を成長させる ①

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アーウェンが三歳歳を取ると言うことは、もちろん義兄のリグレや義妹であるエレノアも同じく誕生日を迎えて、ターランド伯爵家に迎えられた日から年齢が上がっているということである。

年に二度、数日間だけ領都の邸に戻ってくる義兄はどんどん大きくなり、少年期を脱し始めた『格好良いお兄さん』になっていく。
誰かに憧れるとか悔しく思うなど『人間らしい』感情を育めずにいたアーウェンは、自分の抱く気持ちを持て余して具合が悪くなり、リグレが王都の貴族学園に戻った後は数日寝込んでしまった。
共に領都邸で成長しているエレノアに対してはそのような焦燥感を感じずにはいるものの、ちょっとずつ幼児から少女に変化しているのを無意識に捉え、これまた味わったことのない気持ちを時々カラに打ち明けている。

その感情の名前は『愛しい』

「いとしい?」
「はい。アーウェン様はエレノア様とご一緒にいると、楽しかったり嬉しく思われると」
「うん」
「そして転んで泣かれると慌ててしまったり、エレノア様が笑うと一緒に笑って」
「うん」
「それはエレノア様をご心配されたり、幸せに思われたり」
「しあわせ?」
カラが噛み砕いて説明していたが、ひとつの単語にアーウェンはコテンと首を傾げた。
「はい。俺も…いえ、私も妹がいます。やっぱり妹が怪我をすれば心配になりますし、誰かに虐められたら相手に怒ります。楽しかったことを教えてもらったら、私も楽しいと感じます」
「……そうなの?」
「ケッ……」
体調が回復したアーウェンがカラといるのは兵たちの訓練場。
そこで一緒に鍛練しているのはロエンだったが、たまたま打撃が止んだ瞬間に聞こえたふたりのやりとりに舌打ちをした。
まるで幼い子供に教えるような──いや、何も理解していない者に説くような。

そんなふうに人として何か欠落しているガキを、どうして誰も彼もが馬鹿みたいに可愛がる──

ガキンッと音がして構えていた模造剣が下から叩き跳ね上げられ、勢いよくすっ飛んでいく。
いてぇっ!!」
「よそ見するな!気を抜くな!それではお前はすぐに辺境で死ぬぞ?」
「はぁっ?!」
聞いてないっ!と喚くロエンは、足元に風を起こされ掬い上げられて背中から落ちる。
相手をしていた風魔法を属性とする兵は、チラリとアーウェンとカラの方に視線をやって風による防御壁を立ち上げた。
「お前はアーウェン様が辺境伯領地に発たれる時の同行隊だと聞いているだろう。それまでに任務に対する姿勢が整っていなければ、領兵からも除隊される」
「はぁっ?!な、何だよそれっ……」
「お前に備わっている『黒魔法』は、まだよく理解されていない。お前が実家にいた時の影響力を考えれば、放置するのは危険だ。領兵から除隊されると言うことは、この領都にいることも危険視される」
「じゃ、じゃあどこに住めば……」
「お前の祖父は今までどおりに住めるだろうが、お前は母方の祖父母の住む村へ送還される。その村を含めた一帯に大規模な魔封じが施されて魔術研究が始められる」
「そ」
「その対象に、お前も含まれる」

地面に倒れていたロエンが立ち上がろうとしたところに、相手役の兵がピタリと模造剣を顎下に当てた。
アーウェンがそちらに顔を向けると、気が付いたカラが『勝負がついた』という意味なのだと教えてくれたが、何故ふたりが動かないのかそのことは教えてくれなかった。


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