間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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始まりの者。

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念のためにバルトロメイの冒険者カードが調べられたが、何故かレベルも経験値も増加していない。
「……やっぱり、か……」
「……え?」
「あのなぁ……」
ガシガシと頭を掻いて、ギルドマスターは申し訳なさそうに事実を告げる。
「今回の冒険者レベルアップ条件に新しく追加された『慈善』なんだが……どうやらお前が『やったこと』を基準として、その判定が成るらしい……」
つまりバルトロメイがやったことを真似した初心者レベルの者たちは微増であっても経験値が増えたり、『あともうちょっと』というところで足踏みしていたランクがひとつ上がったりするのだが、バルトロメイ自身にはそれが適用されない。
先行者がいて、その足跡を辿る者がその足跡をどれくらい踏み外さないか、もしくはどれだけ早く先行者に追いつくか──それによって経験値が計算される。
「え……そ、それ……って……」
「お前さんがやってきた以外の、そしてそれ以上の『善行』をお前さん以上の回数をこなす『冒険者』が出ない限り……お前さん自身には自分がやってきたことの経験値は入らねぇ……ってことだ」
「え…………」
心底申し訳なさそうなギルドマスターに対峙するバルトロメイは、ただただ呆然とするしかない。
「……もっと昔の冒険者たちがこの『慈善』という行為の先駆者であれば、間違いなくお前さんにも経験値やらレベルアップ条件が適用されたんだが……初期の冒険者たちと同じように、お前さんのやったことを数値化する術がないんだ」
初期の頃──つまりこの『冒険者』という職業ができる前は、魔物退治や治癒、結界を張るなどの防御や補助魔法の類を使って人間を保護するのは、国の兵役にある者や僧兵や神官たちだけであった。
だがそれでは助けられないぐらいの魔物の脅威──魔物暴走スタンピードが起こった際、とてもではないが間に合いそうもない兵士や神官を待つ間に殺されるぐらいならと、予備として備蓄蔵に置かれていた武器を手に取った者たちがいたのである。
残念ながらその村や町の者たちは反撃の甲斐なく壊滅してしまったり、わずかに生き残った者たちも焦土の中生きる術も気力も削がれて死んでいったが、そんな出来事がきっかけとなって人々は『自分や家族や恋人を守るのに国任せではダメだ』と気付いた。
むしろ自分たちを守ってくれるはずの王家や貴族たちはじっと息を潜め、スタンピードを起こした魔物たちが人間どころかすべての生き物や村などを破壊し尽くし、ついには自ら内包した魔力が暴走することで自滅するか勢力が収まるまで待ってから反撃したことを知ると、その時代の王制を否定する動きが高まったのである。

結果──その時代の国王の王弟で、スタンピードが起こった地域へ真っ先に剣を取って向かった隻腕の第三王子が担ぎ上げられ、『英雄王』と敬称をつけられた指導者が生まれた。
その王が行ったのが、まずスタンピードに立ち向かいながらも命を落とした者たち、それから戦わずとも生き残った者たちの勇敢さを讃えて叙勲したり褒賞を与えたりと、少しでも生きる希望を見出せるようにとしたことである。
それからは各地で魔物を退治した者、ダンジョンを発見し攻略した者、そして魔物たちがどうやってか秘していた希少な武器や見たこともない鉱石などを発見したことを報告に来た者たちに対して報奨金を与えたり、名誉の証としてメダルなどを授けるようになったが、それらを保持する者を『冒険者』と呼び、彼らが行ってきたことが記録されたのがランク付けの始まりだった。


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