49 / 261
始まりの者。
しおりを挟む
念のためにバルトロメイの冒険者カードが調べられたが、何故かレベルも経験値も増加していない。
「……やっぱり、か……」
「……え?」
「あのなぁ……」
ガシガシと頭を掻いて、ギルドマスターは申し訳なさそうに事実を告げる。
「今回の冒険者レベルアップ条件に新しく追加された『慈善』なんだが……どうやらお前が『やったこと』を基準として、その判定が成るらしい……」
つまりバルトロメイがやったことを真似した初心者レベルの者たちは微増であっても経験値が増えたり、『あともうちょっと』というところで足踏みしていたランクがひとつ上がったりするのだが、バルトロメイ自身にはそれが適用されない。
先行者がいて、その足跡を辿る者がその足跡をどれくらい踏み外さないか、もしくはどれだけ早く先行者に追いつくか──それによって経験値が計算される。
「え……そ、それ……って……」
「お前さんがやってきた以外の、そしてそれ以上の『善行』をお前さん以上の回数をこなす『冒険者』が出ない限り……お前さん自身には自分がやってきたことの経験値は入らねぇ……ってことだ」
「え…………」
心底申し訳なさそうなギルドマスターに対峙するバルトロメイは、ただただ呆然とするしかない。
「……もっと昔の冒険者たちがこの『慈善』という行為の先駆者であれば、間違いなくお前さんにも経験値やらレベルアップ条件が適用されたんだが……初期の冒険者たちと同じように、お前さんのやったことを数値化する術がないんだ」
初期の頃──つまりこの『冒険者』という職業ができる前は、魔物退治や治癒、結界を張るなどの防御や補助魔法の類を使って人間を保護するのは、国の兵役にある者や僧兵や神官たちだけであった。
だがそれでは助けられないぐらいの魔物の脅威──魔物暴走が起こった際、とてもではないが間に合いそうもない兵士や神官を待つ間に殺されるぐらいならと、予備として備蓄蔵に置かれていた武器を手に取った者たちがいたのである。
残念ながらその村や町の者たちは反撃の甲斐なく壊滅してしまったり、わずかに生き残った者たちも焦土の中生きる術も気力も削がれて死んでいったが、そんな出来事がきっかけとなって人々は『自分や家族や恋人を守るのに国任せではダメだ』と気付いた。
むしろ自分たちを守ってくれるはずの王家や貴族たちはじっと息を潜め、スタンピードを起こした魔物たちが人間どころかすべての生き物や村などを破壊し尽くし、ついには自ら内包した魔力が暴走することで自滅するか勢力が収まるまで待ってから反撃したことを知ると、その時代の王制を否定する動きが高まったのである。
結果──その時代の国王の王弟で、スタンピードが起こった地域へ真っ先に剣を取って向かった隻腕の第三王子が担ぎ上げられ、『英雄王』と敬称をつけられた指導者が生まれた。
その王が行ったのが、まずスタンピードに立ち向かいながらも命を落とした者たち、それから戦わずとも生き残った者たちの勇敢さを讃えて叙勲したり褒賞を与えたりと、少しでも生きる希望を見出せるようにとしたことである。
それからは各地で魔物を退治した者、ダンジョンを発見し攻略した者、そして魔物たちがどうやってか秘していた希少な武器や見たこともない鉱石などを発見したことを報告に来た者たちに対して報奨金を与えたり、名誉の証としてメダルなどを授けるようになったが、それらを保持する者を『冒険者』と呼び、彼らが行ってきたことが記録されたのがランク付けの始まりだった。
「……やっぱり、か……」
「……え?」
「あのなぁ……」
ガシガシと頭を掻いて、ギルドマスターは申し訳なさそうに事実を告げる。
「今回の冒険者レベルアップ条件に新しく追加された『慈善』なんだが……どうやらお前が『やったこと』を基準として、その判定が成るらしい……」
つまりバルトロメイがやったことを真似した初心者レベルの者たちは微増であっても経験値が増えたり、『あともうちょっと』というところで足踏みしていたランクがひとつ上がったりするのだが、バルトロメイ自身にはそれが適用されない。
先行者がいて、その足跡を辿る者がその足跡をどれくらい踏み外さないか、もしくはどれだけ早く先行者に追いつくか──それによって経験値が計算される。
「え……そ、それ……って……」
「お前さんがやってきた以外の、そしてそれ以上の『善行』をお前さん以上の回数をこなす『冒険者』が出ない限り……お前さん自身には自分がやってきたことの経験値は入らねぇ……ってことだ」
「え…………」
心底申し訳なさそうなギルドマスターに対峙するバルトロメイは、ただただ呆然とするしかない。
「……もっと昔の冒険者たちがこの『慈善』という行為の先駆者であれば、間違いなくお前さんにも経験値やらレベルアップ条件が適用されたんだが……初期の冒険者たちと同じように、お前さんのやったことを数値化する術がないんだ」
初期の頃──つまりこの『冒険者』という職業ができる前は、魔物退治や治癒、結界を張るなどの防御や補助魔法の類を使って人間を保護するのは、国の兵役にある者や僧兵や神官たちだけであった。
だがそれでは助けられないぐらいの魔物の脅威──魔物暴走が起こった際、とてもではないが間に合いそうもない兵士や神官を待つ間に殺されるぐらいならと、予備として備蓄蔵に置かれていた武器を手に取った者たちがいたのである。
残念ながらその村や町の者たちは反撃の甲斐なく壊滅してしまったり、わずかに生き残った者たちも焦土の中生きる術も気力も削がれて死んでいったが、そんな出来事がきっかけとなって人々は『自分や家族や恋人を守るのに国任せではダメだ』と気付いた。
むしろ自分たちを守ってくれるはずの王家や貴族たちはじっと息を潜め、スタンピードを起こした魔物たちが人間どころかすべての生き物や村などを破壊し尽くし、ついには自ら内包した魔力が暴走することで自滅するか勢力が収まるまで待ってから反撃したことを知ると、その時代の王制を否定する動きが高まったのである。
結果──その時代の国王の王弟で、スタンピードが起こった地域へ真っ先に剣を取って向かった隻腕の第三王子が担ぎ上げられ、『英雄王』と敬称をつけられた指導者が生まれた。
その王が行ったのが、まずスタンピードに立ち向かいながらも命を落とした者たち、それから戦わずとも生き残った者たちの勇敢さを讃えて叙勲したり褒賞を与えたりと、少しでも生きる希望を見出せるようにとしたことである。
それからは各地で魔物を退治した者、ダンジョンを発見し攻略した者、そして魔物たちがどうやってか秘していた希少な武器や見たこともない鉱石などを発見したことを報告に来た者たちに対して報奨金を与えたり、名誉の証としてメダルなどを授けるようになったが、それらを保持する者を『冒険者』と呼び、彼らが行ってきたことが記録されたのがランク付けの始まりだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる