間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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その後からいろいろ説明はされたが、人間社会での決まり事などはバルトバーシュやマクロメイたちの『神官フィルター』によってある程度ろ過されて教えてもらったバルトロメイは理解できないことも多く、むしろどうやってこんな人間が冒険者ギルドに登録できたのかと、ギルドマスターと受付嬢の方が首を捻る始末だった。
確かに読み書きができないためにまともな賃金ももらえずにカツカツに生きていくよりはと飛び込んでくることも多いのが冒険者ギルドだが、多少は読み書きできるのに社会常識的なものが信じられないほど欠落しているという者はあまりいない。
それこそ修道院の中で産まれ、神官たちによって育てられ、しかしそれ以外の人間とはまったく関わらずに神殿奥にしまわれていたのでもない限り、この目の前にいる少年のようにはならないと思った。
しかしそれにしては他人に対して助けになろうと、関わり合いになろうとする姿勢は普通に暮らしている市井の者であれば当たり前であるし、冒険者としてのし上がるつもりもあるようでますます混乱してしまう。
「……ま、まぁ……うん、その……何だ……冒険者になろうってのはまぁ『訳アリ』って奴も多いしな……お前さんが元々なんだった・・・・・のか詮索はしねぇよ。一攫千金を狙えなくても、下位レベルの新人冒険者ルーキー しか請け負ってくれない仕事もあるからな。おい、とりあえず今来ている薬草集めとか溝さらいとか、やれそうな仕事をいくつか見繕ってやれ」
「はっ、はい!」
ようやく出番が出てきたことに張り切ったのか、ギルドマスターに顎で命令されるのに少しムッとしつつも同席しているだけだった受付嬢は、すでに用意していた依頼書をズラリとバルトロメイの前に並べて見せた。

ヒギンズの森に生える発光草を保存箱10箱分。期限は2週間。
町南地区貴族邸塀外溝清掃(従魔であれば清浄型スライムの持ち込み可)。期限は1週間。
町西部外門付近の補修中における警備。期間は2ヶ月。この依頼中に討伐した魔物及び魔獣はすべて建設ギルドに帰存するが、討伐経験値及び魔石に関しては討伐者の回収物として認める。
隣町ランダスへの商隊護衛。期間は片道3日。往復の場合は商いの内容によるが7~10日。それ以上の場合は要相談。なお宿泊費等については商隊所有の宿泊施設利用に限り依頼者が負担するものとする。 ※食事代については別途請求を認める(上限銀貨3枚まで)

「……チッ」
「あ…あのぅ……い、いかがでしょうか?」
「はぁ………」
ギルドマスターが依頼書を一瞥して舌打ちすると、受付嬢はビクッと肩を竦めた。
バルトロメイにしてみればどれが良くてどれが悪いのかよくわからないが、実を言えばどれもこれも初心者だということを舐めてかかる、『冒険者』という職業に対して侮辱的な依頼内容である。
「……まず『発光草』という草だが森の中でもかなり暗い部分であればともかく、昼間なら確実にどれか判断がつかない。よって動けるのはほぼ夜だけだと思え。貴族様んちの溝ってぇのはいろんなもんが捨ててあって、この町の清掃業者だけでは間に合わないんだと…お前さん、従魔はいるのか?」
「え?従魔……?って、何でしょうか?」
「そ、そこからか………」
優秀なテイマーであればそこら辺のへっぽこ剣士よりも人気のある冒険者職業だが、まるっきり知識のないバルトロメイを前にして、ギルドマスターはがっくりと肩を落とした。


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