間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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探る者。

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だいたい『ひとりの師匠にだけ師事を乞う』という意味自体がわからない。
何故なら──
「ラジムはどうしてシェイジンさんだけなの?僕、普通のお師匠様と魔法のお師匠様と暮らしてたよ?」
「え?」
「ん?え?」
ラジムがキョトンとすると、ポロリと自身の過去を溢したバルトロメイもキョトンとする。
『師匠』といってもバルトバーシュは神語においてはバルトロメイの『家族環境』で使われていた本物の神語を教えてほしいと乞われる立場で、世間一般で言われる『師弟関係』とは少し違う。
マクロメイは確かに強力な風魔法の使い手ではあったが、バルトロメイ自身は魔法が使えなかったため、もっぱら森での狩りや食べられる植物の採取、どこかから連れてきた豚や牛、馬などの世話の仕方を教えてくれた。
それら家畜はどこかからたまに預かっただけで数日経つとまたどこかに連れて行かれたが、マクロメイが帰って来ると魔獣とは違う味の肉や新鮮な牛乳、もしくは布などの織物を持って帰ってきてくれたため、「可愛かったなぁ、また来ないかなぁ」という気持ちだけが残った。
それに森では師匠たちとはまた別の過保護な『誰か』がバルトロメイのために先に仕留めていてくれたため、バルトロメイ自身は本当の意味で狩りをしたことはない。
ある意味『親』と『師匠』に囲まれまくった幼少期だったといえるであろう。

逆にラジムは金を出して有名な剣士や道場などへ弟子入りすることは叶わず、自己流で剣を振るい、何とか得た賃金のうちほんのわずかを貯め続けて冒険者ギルドに登録することができた。
とはいっても最初の頃はまともな武器を買う余裕もなかったため、草刈り用の鎌を持って薬草を採取する仕事を受けながら、時折現れるスライムなどの超小型であまり威力のない魔物の素材を手に入れてギルドに売ることでようやくダンジョンに潜れるような軽装備を手に入れ──幼なじみたちを失った。
その結果としてシェイジンという師匠に文字通り命ごと救われたわけだが、そのせいもあって冒険者としてCランク以上には達せない師匠からもっと高ランクの者に教えを乞おうとはせず、そのための伸び悩みには目を瞑ってきたのである。
だが現在は「たまたま同じ仕事を受けたから」という理由にしては貧弱な理由で、後方にいる先輩冒険者たちが次々と稽古をつけてくれたり、様々に生き延びるための術を惜しげもなく与えてくれるという夢のような環境だ。
しかもラジム自身はよくわかっていなかったが、今回の護衛任務ではほぼおまけ状態のラジムに対しても正規の依頼料が支払われており、認識しないまま冒険者ギルドで預かっている預金は今までで見たこともない額になっている。


そんな知らぬ間に小金持ちになったEランク冒険者と、ランク外と言えるほど実力がないという理由でほぼステータスが最低な勇者見習いは何から守られているかもわからず、夜な夜な見回り担当の冒険者が巡っては幼子が安眠しているのを確かめるかのような行動を息を殺してやり過ごしつつ、裏で起きていることが何かをどうやって探ろうかと小さな声で相談し続けた。


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