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理由・1

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ルエナが知らされておらず、知りたくもなかったことはまだあった。

まず廊下を出て自室に戻ろうとした時──
「いずれこの扉は封印する。とにかくシーナ嬢がこちらに来るまでは誰も入らないように、今日から警備の者が立つからそのつもりでいなさい」
「警備……?」
「お前は殿下からの手紙を読んだのだろう?シーナ嬢が未遂とはいえ命を狙われた…と」
「そう…言えば……」
あの告白文は大袈裟に書かれた物で、ルエナの同情を引くためや側に置かせるための方便と思い込んでいたため、あまり真剣に捉えてはいなかった。
「実際お前の名前を出して、学園三階に特別にある王族専用の執務室に来いと呼び出されたそうだ。その場にいたのは十五人ほどらしいが、全員シーナ嬢と面識がない者たちが選ばれたらしく、さらにまた別の家名を名乗っていたため、まだ調査中だが誰が誰だかわからない。下手をしたら卒業した者も混じっていたみたいだしな」
「……何故、そんな……わ、わたくしは呼び出したりなんか……」
「知っている」
ルエナは本当に身に覚えのないことに怯え、兄に無実を訴えたがアッサリと肯定された。
「シーナ嬢もだ。だから呼び出した黒幕が誰か、きっとその場に着けばそいつから自分の味方になるように言われるのだろうと思ってわざと付いて行って……そのだれだかわからない令嬢のうちの誰かに後ろ向きに倒れ込まれてきたんだ、階段の最上段で」
「ヒッ………」
学園内の階段といえばあまり急ではないけれど段数があり、幅が広く取られていて五~六人は並んで歩けるほどである。
シーナ令嬢が逃げられないようにと複数の令嬢が囲んでいたとしたら──
「幸いにも彼女がすばしこくって、隣に立ち塞がっていた令嬢に体当たりして壁に押しつけ、落ちてこようとした者を抱き止めたので、双方怪我はなかった……いや、壁に押しつけられて背中を痛めたのと、シーナ嬢が軽く捻挫したのと、シーナ嬢が階段下に落ちるのを期待して背後から避けようとして足を滑らせたという令嬢がいたな」
「そ、その方たちは……?」
「ああ。シーナ嬢が落ちなかったのを見て、慌てて逃げて行ったそうだ。シーナ嬢に助けられる形になった憐れな実行犯役の者を残して。その令嬢は男爵家の侍女で平民の家政婦の娘だったんだ。何も知らされずにドレスを着せられてその団体に紛れ込んでシーナ嬢の前に立って先導しろと言われ、その娘もさらに上にいた『どこかのお嬢様』に胸を突かれて、どうしようもなく落ちるしかなかったと……」
ルエナだけでなく、後ろに控えているサラも顔を青褪めさせ、アルベールの話を聞いている。
「まさか我が公爵家にそんな不埒な真似をしでかすような者はいないだろうが、万が一も考え、出入りはルエナの部屋からのみとできるように改築の相談中だ」
「なっ、何ですって?!そんなの、聞いていませんわ!!」
さすがにそれにはルエナも正気を取り戻し、兄に詰め寄った。
「そ、そんな目に遭われたのはお気の毒です……ですが!何故そんな方を、こちらで引き取らねばなりませんの?わたくしの名前が出され、わたくしが疑われているのならば、なおさらここではないどこか別の場所で匿うべきではっ……」
「どこへだ?さっきも言っただろう?同位格の子爵はおろか伯爵でも危ない。格下の男爵家では言わずもがな。では公・侯爵家のどれらか?王太子のご友人だぞ?下種の勘繰りで彼女を取り込みさえすれば、お前との婚約が白紙に戻されて自分の令嬢を売り込むチャンスだと思われたら、この国の権力の均衡が崩れかねん!」
兄の正論に、グッと黙り込むしかない。

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