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驚愕
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不快にならないぐらいの余所行きの笑みを浮かべ、丁寧にカーテシーから優雅に直立姿勢に戻り、正しい発音と言葉遣いのできる庶民育ちの子爵家養女──いっそのこと、王家の誰かが道ならぬ関係に陥ったご令嬢との一粒種と言われた方がしっくりくるような所作に、公爵夫妻は戸惑いをまぶした笑みを浮かべる。
「ま、まぁ……とても、その……よく、お勉強してらっしゃる…のね……?」
「ああ……ほ、本当に。まるで礼儀作法のお手本のような……」
『庶民の出なのに』という言葉を誤魔化そうとして、無理やりな誉め言葉を口にする夫妻に向かい、シーナ嬢はウフフと微かな笑い声をあげた。
「ルエナ様のお手を煩わせるのは心苦しくて……王太子殿下よりディーファン公爵家の方々のご迷惑にならないようにと、リッソン侯爵夫人をご紹介いただいて特訓していただきました。夫人からご伝授いただいた成果を認めていただき、大変嬉しゅうございます」
「まっ……まぁっ……カロリーヌ様…いえ、リッソン侯爵夫人が……」
「確かあの方は正妃殿下のご学友で、今もっとも厳しく美しい礼儀作法をお教えする家庭教師の最高峰と聞くが……」
「ええ。リッソン侯爵夫人とお会いした時に、ルエナ嬢の側にふさわしい所作を叩き込んでほしいとお伝えしたところ、このように見事に……イテッ」
アルベールからはシーナ嬢がスカートのすそを乱さない素晴らしい足技で、王太子の足の甲をしたたかに痛めつけるのが見えたが、互いの顔を見つめて納得したように頷く両親は、幸いなことに気が付いていない。
ちなみにシーナ嬢の所作に関しては、リッソン侯爵夫人が感心するぐらい基本的なことができており、特にカーテシーはバランスが甘いものの体幹がブレずに腰を落せることに驚かれたぐらいだ。
そこまで詳しく話す必要はないが、先ほどまでの軽口と、貴族らしい言葉遣いを使い分ける元庶民の子爵令嬢など、驚愕の存在そのものだろう。
先ほどルエナは自分を律することに耐え切れず逃げ出してしまったが、今のシーナ嬢を見れば『たかが子爵令嬢』というバカげた見下しをしていた己を恥じ入るに違いない──そう、期待を込めつつアルベールは頭を振った。
「……まったく。人の話を聞こうともしない。自分の身分からだけ物事を見る。言葉の裏や合図の意味を考えることもない……父上、母上、もう少しルエナの教育内容を見直す必要がありませんか?」
「え?いや、私はいいよ?完璧すぎる女性は母上だけでいいし、感情に素直な子供でいられるのもあと少しなんだから……」
「えっ?!いえ、ダメですよ、殿下!まったく……あなたは何故、我が妹に対して……いえ、何でもありません」
「言葉の切り結びをするには、学園にいるうちはまだ早いと思うんだけどね……特に女性はもっと幼いうちから丁々発止のやり取りをお茶会を通じて交わすなんて、本当に殺伐として夢がない……」
リオン殿下の溜め息交じりの言葉にシーナ嬢が先ほどの貴族らしい表情を引っ込めて真顔で頷いく。
普通であれば貴族の女性が他人の前でこのように素で感情を現すことはあまりないため、両親はその変わりように驚いているのをアルベールはチラリと眺め、ルエナの認識を変えるのは少し時間がかかりそうだとこちらも溜め息をついた。
「ま、まぁ……とても、その……よく、お勉強してらっしゃる…のね……?」
「ああ……ほ、本当に。まるで礼儀作法のお手本のような……」
『庶民の出なのに』という言葉を誤魔化そうとして、無理やりな誉め言葉を口にする夫妻に向かい、シーナ嬢はウフフと微かな笑い声をあげた。
「ルエナ様のお手を煩わせるのは心苦しくて……王太子殿下よりディーファン公爵家の方々のご迷惑にならないようにと、リッソン侯爵夫人をご紹介いただいて特訓していただきました。夫人からご伝授いただいた成果を認めていただき、大変嬉しゅうございます」
「まっ……まぁっ……カロリーヌ様…いえ、リッソン侯爵夫人が……」
「確かあの方は正妃殿下のご学友で、今もっとも厳しく美しい礼儀作法をお教えする家庭教師の最高峰と聞くが……」
「ええ。リッソン侯爵夫人とお会いした時に、ルエナ嬢の側にふさわしい所作を叩き込んでほしいとお伝えしたところ、このように見事に……イテッ」
アルベールからはシーナ嬢がスカートのすそを乱さない素晴らしい足技で、王太子の足の甲をしたたかに痛めつけるのが見えたが、互いの顔を見つめて納得したように頷く両親は、幸いなことに気が付いていない。
ちなみにシーナ嬢の所作に関しては、リッソン侯爵夫人が感心するぐらい基本的なことができており、特にカーテシーはバランスが甘いものの体幹がブレずに腰を落せることに驚かれたぐらいだ。
そこまで詳しく話す必要はないが、先ほどまでの軽口と、貴族らしい言葉遣いを使い分ける元庶民の子爵令嬢など、驚愕の存在そのものだろう。
先ほどルエナは自分を律することに耐え切れず逃げ出してしまったが、今のシーナ嬢を見れば『たかが子爵令嬢』というバカげた見下しをしていた己を恥じ入るに違いない──そう、期待を込めつつアルベールは頭を振った。
「……まったく。人の話を聞こうともしない。自分の身分からだけ物事を見る。言葉の裏や合図の意味を考えることもない……父上、母上、もう少しルエナの教育内容を見直す必要がありませんか?」
「え?いや、私はいいよ?完璧すぎる女性は母上だけでいいし、感情に素直な子供でいられるのもあと少しなんだから……」
「えっ?!いえ、ダメですよ、殿下!まったく……あなたは何故、我が妹に対して……いえ、何でもありません」
「言葉の切り結びをするには、学園にいるうちはまだ早いと思うんだけどね……特に女性はもっと幼いうちから丁々発止のやり取りをお茶会を通じて交わすなんて、本当に殺伐として夢がない……」
リオン殿下の溜め息交じりの言葉にシーナ嬢が先ほどの貴族らしい表情を引っ込めて真顔で頷いく。
普通であれば貴族の女性が他人の前でこのように素で感情を現すことはあまりないため、両親はその変わりように驚いているのをアルベールはチラリと眺め、ルエナの認識を変えるのは少し時間がかかりそうだとこちらも溜め息をついた。
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