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逆鱗

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『ルエナが性悪』という言葉は、シーナ・ティア・オイン子爵令嬢にとって逆鱗直撃である。
むろんそれはリオン王太子やアルベール・ラダ・ディーファン公爵令息にとっても禁句とも言える──むろん挑発のためにルイフォンは半ば本気を込めて吐いた言葉ではあるが、それが愛する人を激怒させるとは想像が及んでいなかった。
それはルイフォンだけでなく、他の学園内側近たちには無断で行ったルエナ嬢断罪劇が事実だと思っているからこそ、同調するような笑みを浮かべていた者たちにとっても一歩下がってしまうような豹変である。
(ヤバいな……)
(ヤバいという言葉の意味はわかりませんが……あの、シーナを止めねば……)
コソコソと囁き合う王太子と公爵子息をギロリと睨みつけ、さらに怒りを込めてシーナは側近たちに向きあう。
「ルエナ様が性悪?女性をそんなふうに表現する見る目のない男は周りにいてほしくないわ!あんたたち、リオンの……王太子の側にても構わないけど、私に話しかけるのは止めてね?私まで下品に思われるのは心外だわ!」
「そっ…そんなっ……だ、だって……あ、あの女……ルエナ、嬢…は……が、学園だって…仮病で……」
「仮病?誰がそんなこと言ったの?」
「誰って……い…いろんな……『子爵令嬢とは言え、みっともない嫉妬に狂って立場がないから、仮病を使って休んでる』って……」
「その『いろんな人』を連れてきなさいよ!全員の言い分を聞いてやるわ!もちろんリオン王太子も、アルベール様もご一緒に……ね?」
怒りすぎて殴りかからんばかりだったが、ルイフォンの『誰も責任の取りようのないみんなへの責任のなすりつけ』を意味する言い訳を聞いて、少しだけ冷静になったシーナがニヤリと唇を歪めて側近たちに言う。
「できる?まさかできないなんて言わないわよね?学園内で王太子や王太子妃として婚約されているルエナ様を守るのが、本来のあなたたちの役目だもの。むろん女性であるルエナ様に容易に近付くことができないから、お守りするのが難しかったとはいえ……ねぇ?まさかそのご主人を貶める噂を流したのが本当は自分たちだから、噂をし始めた者を突き止める手間をかける必要なんてないなんて……言わないわよねぇ?」
実際にルエナを守る役割があるかどうかはともかく、男たちの言い分やその顔つきが気に入らなかったのは間違いなく、だが憶測を混ぜて自分が放った言葉に一斉に顔色を悪くするのを見て、シーナは悔しげな表情を浮かべてくるりと踵を返した。
「シー、ナねぇ……」
「『ねえさま』なんて気易く呼ばないで!あなたの姉になった覚えはないし、アタシのルエナ様を穢すような言動をするような輩と一緒にいたくないわ!消えてとは言わないし、言えないけど……少なくとも私の背後には近付かないでちょうだい!」
「いや、ちょっと問題発言が聞こえた気がするけど……いや、うん……今シーナ嬢が言ったことは理解したかな?今日はこのままアルベールに特別に警護してもらうから、今日は君たち全員でルイフォンが言ったことの責任を取って、『噂をした者』たち全員を見つけてきてくれるかな?後日『実は自分も言いました』っていうのが絶対現れないようにね?」
リオン王太子もシーナを援護すると、側近たちは何も言えずにその場に置きざりにされるしかなかった。


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