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逃亡?

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とはいえ本来は仲間であるはずの学園内側近たちをアルベールと共に縛り上げ、空いていた舞踏室に閉じ込めてしまったのだから、その一面だけ見れば誤解されてもおかしくはないだろう──縛り上げようとしていたのがシーナ自身でなければ。
「……それにしても逃げたラストワンの戻りが遅いわね?見捨てられた?それとも王宮衛兵でも呼びに王宮まで行ったのかしら?」
「まさか」
行ったとしてもせいぜい学園に派遣された警備兵の詰め所ぐらいのものだろう。
だがそれにしても戻ってくるのが遅すぎるが、もしかしたら素知らぬ顔で自分の教室に戻ってこの騒ぎとは無関係という顔をしているのかもしれない。
「……言いたくはないが、ベレフォン・ジュスト・ダンビューラという男はあまり情を感じない。忠義が強いわけでもないし、弟のルイフェンがこうやって窮地にあったとしても、助けるどころかどこかへ逃げ出してしまう……というか、きっとどこか物陰から様子を……窺ってもいない?」
アルベールだけでなくイストフも王太子側近として周囲の危険を察知するための訓練を受けているが、誰かが近付いてくる足音も、ベレフォン自身が様子を窺っている気配もない。
「まさかと思うけど……リオンのところ?」
「いや、まさか……」
「だって今日はルエナ嬢と一緒だと……」


なるべく足音を立てずにベレフォン・ジュスト・ダンビューラ伯爵令息は廊下を急いだ。
向かうは生徒たちがいる教室の方ではなく、リオン王太子がいるという貴賓室である。
そこへルエナ嬢をエスコートしていたのは知っていたが、まさか自分たち側近を全員下がらせるとは思わなかった。

まさかと思うが──

ベレフォンは愛しのシーナ嬢がディーファン家次期当主であるアルベールに監視されているために手出しもできなかったが、彼がいるからこそリオン王太子殿下が側にいなくとも、他の貴族令嬢たちに囲まれることが避けられているのを見て苦々しく思い返す。
脳筋バカのイストフ・シュラー・エビフェールクスが打ち倒されてしまったのは想定外だったが、自分が側近筆頭だという態度のディディエ・ファーケン・ムスタフや根暗なジェラウス・クーラン・クリシュア、そして忌々しい実弟のルイフェン・クウェンティ・ダンビューラが殴り倒されてしまうのを見るのは、案外気持ちがよかった。
そして自分が見たことをリオンに報告すれば、ひょっとしたらアルベールの毒手からシーナ嬢を救おうと動いてくれるかもしれない。
ひょっとしたら今頃、貴賓室ではルエナ嬢がリオン殿下に無理やり迫っているかもしれないが、その無様な様に間に合い兄の鬼畜な行いをその耳に入れてやったら、さすがにあの厚顔無恥な公爵令嬢の仮面もずれ落ちるだろう。
ベレフォンもシーナを欲していることは間違いないが、自分の出世を捨ててまでも手に入れたいとは思わず、王太子がその手を取るのであればそれはそれでいいと思っていた。
「だってあんな市井の娘……せいぜいが愛人か、側室止まり……ルイフェンの嫁ならともかく、俺が正妻に迎えられるはずもないしな……」
長男がいるからダンビューラ伯爵家当主に就くことは難しいかもしれないが、人生何があるかわからない。
少なくとも甘やかされまくった末子のルイフェンが、長男と次男を差し置いて伯爵になる可能性はほぼ無いのだから。


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