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賢者、転生する。

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それは今いる国ではなく、山と国境を二つ越えなければ到着しない私の古い家。
「確かあの家に住んでいた時……は、錬金術師だったはず。うん……今より不完全ではあるが、確か封印と目くらましの術を掛けたはず……いつか戻るつもりで劣化防止も重ね掛けしてるはずだから……」
普通の少年ならばあり得ない旅程であったが、冒険者としてギルドに登録しておいてよかったと本当に思った。
おかげで乗合の馬車に割安で乗せてもらえたり、『賢者見習い』とはいえ攻撃魔法の腕を買われて臨時で雇ってもらえて路銀の代わりに次の町まで連れて行ってもらえたりと、比較的楽に自分がかつて住んでいた村に戻ることができたのである。
魔王が魔族を統一してから人間族とは互いの棲み分けが進んで、彼らが傍若無人に暴れまわっていた頃に比べて世の中はずいぶん平和になっており、蓄積された記憶の中には魔族や魔物の弱点や斃し方もしっかりあったので効率よく斃せたことで、『昔の私』が住んでいた家に到着する頃には冒険者レベルがBランクに達するほどになった。
「ほほぅ……なるほど……うん……」
封印を解いた家は多少埃が溜まっていたとはいえ、貴族の館に比べれば門番小屋のようなその家は小ぢんまりとしていたので、さっさと綺麗にしてからさっそく作業に取り掛かった。
やはり曖昧な訳し方では真意に到達できなかった可能性があり、こうやって戻ってきてよかったとホクホクしながら、私は順調に翻訳を進める。
どうやら魔王に教えてもらった『オークのお気に入り』たちの末期について考えたことなどなかったが、逆にそのことがよほどショックだったのか、私はいろいろと忘れていた『前世』を翻訳しながら補完するように思い出していった。

何の意味もなく、結果を残すどころか魔王と対峙する運命だったことすら、思い出す間もなく死んでしまった生。
冒険に出ることもなく、のんびりと農夫や牧夫、あるいは非力な貴族の女性や、人のいい平民のおばちゃんとして穏やかに過ごした生。
学者だったり、研究ばかりするような偏屈者だった時もあった。
だがそんな穏やかともいえる、本来ならば『望んで得て満足した』はずの人生を終える時、私はなぜか「もう二度と転生しなくてよい」とは思えなかったらしい。

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