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賢者、王都に旅立つ。

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けれど──そうすると──もしかしたら──
「あっ!も、もちろんパトリック賢者様は別ですよ?!というか、もうすでに私のことは『女』どころか『子供』か『家族』ぐらいの認識でしょう?完全に意識されないというのは家族以外にはめったにないので、とても安心です」
ニヘッと笑うその顔はとても幼く、いつもどこかしら緊張していたのだと、今更ながらに気が付いた。
「……そんなに?」
「そうですよぉ。まぁ……ティグリスマスターもそういう意味ではパトリック賢者様と同類ですね。あの人は子供好きなんですよ、本当は。本人は絶対認めないと思いますけど!気負い過ぎてリィ君が7歳だとか関係なく痛めつけたって頭下げてましたけど……あ~…犯罪者にもかなり厳しい人だから、そこらへんの勘違いとか思い込みとかもあったんだと思いますけど」
「だとしてもねぇ……ちゃんと人の話を聞かないと」
町を出るときにリアムの妹を抱っこし、大きく手を振って見送ってくれたティグリスのだらしなく蕩けた笑顔を思い出す。
誠心誠意謝罪し、頭を擦りむかんばかりに土下座したティグリスを、リアムは『養父』として受け入れることを決めた。
そこにはもちろん妹ごと家族にしてくれるという条件も効いたに違いないが、他に一緒に住んでいた子供たちも丸ごと引き取ろうとしていた姿勢に、自分ひとりが反対していては話が進まないと折れたところもある。
「そこはまあ……『反省した』って言ってました。あと、周りに張り合って年齢に見合わないことも、もうしないって。そうですよねぇ……いくら偉い人になったからといって、それですぐ何十年も他の組織のトップにいたおじいちゃんたちに敵うわけないのに」
ふっと鼻で笑って、ミウは肩をすくめる。
「本当にパトリック賢者様のように様々に旅をして、いろんなものを見ているからこその重たい意見と、偉い人の下で動かずに昇進しただけの人の理想論込みの言葉じゃ、響き方が違います」
「……ミウの言葉の方が重い」
家族から異端として扱われ、冒険者としても色物に見られることが多かったであろうミウの経験から発せられる言葉は、聞く者が聞けば耳が痛いことばかりだ。
私自身が話すことにそんなに重みはないと思うが、それでも何らかの教訓を得たり気付くことがあれば、確かに『賢者』という称号を得る身としては嬉しい。
「リィ君がパトリック賢者様を『先生』と呼ぶのは、単に年長者だからじゃありません。学ぶべき師として尊敬するからこそ…です」
「……そう、なのかな……」
そう言い切るには、『私』という魂が重ねてきた転生の時間たちはあまりにも少ないような気がする。
むしろ今までになく『冒険者』としては長寿になりつつある今世にこそ、私自身が学ぶべきことがたくさんある気がするのだが──
「あっ!あそこ!!あそこが野営にいいんですよ!今日はここまでにしませんかっ?!」
黙り込んでしまった私を気遣うようにか、ちょうどミウがザイの町に向かう時に使ったという野営地を見つけ、明るく声を掛けてくれた。

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