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賢者、『目的』を見つける。

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そんなミウの『強運』は、今回もきちんと効果を発揮したらしい。

魔王と幾度目かの出会いを果たした数日後──私たちは『魔王としか思えない・・・・・・・・・化け物に襲われた』という村に到着したのである。
「こんなところに魔王が……」
「お願いです!勇者様!あいつら・・・・は何故かこの村の者に目を付けたのか……もう何人も被害に遭って……」
「何だって?!」
ケヴィンはどうにも人が良すぎるのか、村人に縋られ、あっという間に討伐を約束してしまった。
そんなやり取りに慣れているのか、私以外のメンバーは肩を竦めると、あっさりと村人たちに討伐依頼をギルドに提出することと報酬条件、この村を拠点にするための宿か空き家を格安で借りる交渉、武器屋や防具屋などの有無など、テキパキと勧めている。
「……ケヴィンは優しいが、猪突猛進型でな。『助けねば!』と思うと、他のことは完全に抜け落ちる。俺の方が冒険者としての経験は長いし、ラダの方があいつの行動予測や扱いに慣れている。パトリック殿はのんびり待っていてくれればいい」
「のんびりと言っても……」
『……ご主人。パト、ご主人』
「ん?どうしたいんだい?」
それまで大人しくしていたウルがピクリと耳を動かし、そっと私に寄り添ってきた。
『…変なの、います。魔物、ですけど……歪です。ヒトのようです……あれは……アレは………』
出会った頃よりかなり聡明に話すようになったはずなのに、だんだんと呂律が怪しくなっていくウルの雰囲気が変わったのを感じ、少しだけ身を屈めた。
見下ろした白い毛の間から見える目はいつも丸く優し気なのに、今は瞳孔が極限にまで細く目尻が吊り上がっている。
それだけでなく、いつもは柔らかくピンク色の舌をしまい忘れたように軽く開いている口が牙を剥き、残酷な愉悦に歪んでいる──何故だ?
『アレは………魔族を、クッタ……クッタ……クウ……喰う……オレ…モ……ツy*k▲……&a、U#
……』
「ウルッ?!」
だんだんと声が濁ってウルの話す言葉の判別が難しくなったと私の脳みそが理解した瞬間、ウルは私の従魔契約くびきを振り切り、突然走り出した。
「なっ……?ど、どうしたんだ、パトリック殿?!あいつの声がっ……」
「ウルちゃん!!」
「どっ、どうしたのっ?!」
デューンたちが声を上げた私の方へと顔を向けたが、それよりも素早く反応して声も上げずにウルの後を追ったのは、ずっと村人に縋られていたケヴィンだった。


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