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賢者、『勇者』と認められる。

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タタッと弾みをつけて駆け寄ってきた少女は、遠慮もなく私の方に近寄った。
「あらまぁ!あなた様が勇者『白雷の翼』パーティーに加われた賢者様ですわね?ケヴィン様より少し年上のようでいらっしゃるようですけど……うふふ……姉が不遜にも『勇者』などと称されるなど許しがたいこと。しかも賢者様を魔法研究所にお連れもしないなんて……本当に礼儀知らずな姉で申し訳ございませぇん……お気を悪くされたでしょう?」
「ええ」
思わず私は無表情になって答えてしまった。
「まぁ!やっぱりぃ!どうぞ王都に戻られたら、この指輪を持って魔法研究所にいらっしゃってくださいませぇ……わたくし自らご案内して差し上げ……」
「申し訳ありませんが私の気分が悪いのは、あなたのその喋り方と、『誘惑』の魔術とその効果を高めるための香の匂いのキツさと、あなたのその態度です」
「え……」
「もちろんこの指輪も要りません。婚姻を承諾させるための呪術がかかった服従の指輪など、まさしく首に縄を掛けられるも同然のもの。私は生きたまま死にたくはないので、あなたの婿候補から辞退させていただきます」
「ま…まぁっ……い、一体、何のこと……」
「ちなみにこの指輪は欠陥品です。効果は2時間。床入りには十分ですから、既成事実だけをお望みで?貞淑が尊ばれる貴族家の令嬢ともあろう方が何とはしたない」
言おうと思えば、私だってこれくらいは話せるのだ。
まさか私が彼女の意に沿わないことを言うと思っていなかったのか、少女はワナワナと震えて声も出ないようである。
しかもどうやら私と少女の会話に皆が耳をそばだてていたようで、一斉に視線がこちらを向いた。
「メイラトリ・クラリカ・トリウス」
「なっ…何よっ?!ヒッ……」
誰かが呼びかけると、それが少女の名前だったようで反射的に声を荒げて振り返ったが、そちらを向いた少女はカチッと凍ったように動きを止めた。
「今聞き捨てならない言葉が聞こえた。『服従の指輪』?『誘惑の香』?一体君はここに何をしにきたのかね?いつも姉君であるミウラトリ・クラミラ・トリウス伯爵令嬢を貶める発言をしているが、彼女が君のような不届きな行動をしているとは聞いたことがない。いい加減口と行動を慎みたまえ」
「……あんな役立たずなんかと、比べるなんて……」
「慎めと言った」
「ヒッ………」
どうやら話が通じる相手のようだが、彼らは自ら名乗るということはしないのだろうか?
とりあえず私自身はまだケヴィンから紹介されてもいないため、メイラトリという少女を反面として口を閉ざしていた。


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