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第一章 海域
第五話 タイタンロブスターの戦い方
しおりを挟む一転攻勢。罠に嵌り追い詰められていた俺は、水系魔法で多くの貝類を無力化したとたん攻勢に出た。
俺は通ってきた退路を放棄、小部屋に自ら飛び込む。
退路に潜んでいた貝類は無力化したが、あそこにあとどれだけ敵が潜んでいるのか分からない。
しかし俺の記憶が正しければ、あの小部屋の真下がメインインフラのはず。ムドラストら魔法の得意な大人たちが築いたあのインフラの強度は岩盤程度ではない。
つまりあそこよりも下に敵が潜伏している可能性は低いのだ。
一気に突っ込んで敵を殲滅する。使う魔法は、そうだなぁ……。
「夕飯は煮物だし、下処理しておくのもアリだよな。岩壁! それと、対流炎!」
まずは岩壁で退路を塞ぐ。これで奴らが逃げ出すことは不可能。そしてもう一つ、逃げ出せないものがある。
そう、熱だ。ここは分厚い岩盤に覆われているし、出口を塞げば海水が移動することで熱が逃げることもない。
そして俺が使った魔法、対流炎。これはムドラストが冬場に教えてくれた、水の温度を効率的に上昇させる魔法である。
修業中に何度領内の家をめぐって温度管理をさせられたことか。
魔法で生成する炎はマッチで木材を燃やすのとは訳が違う。有機物と酸素を化合して燃焼反応を起こしているわけではない。
魔法で起こす炎は、魔力を消費して生成する『炎によく似た性質を見せる燃焼反応』であって、その本質は炎とは違う。
可燃物を必要とせず、そして後にも何かが残るわけでもない。
いや、正確にはなんかよくわからない黒ずんだ液体が出るんだが、あれは特に魔法的には関係ないものだろう。多分。
炎系魔法に関しては脱皮で無理やり習得したから良く知らんのだ。
とにかくこの対流炎は、流体を動かしながら炎の出力をコントロールすることで室内の温度を上昇させる、水系と炎系の複合魔法である。
まあ俺の完璧な作戦が刺されば、こんな奴ら簡単に一網打尽にできるは……ず。
ドゴォン!!
突然、凄まじい音が俺の高い聴覚を襲う。次いでタイタンロブスターの退化した触覚を振動が叩いた。
「な、何事!?」
俺は一瞬驚いて跳ね上がったのち、視覚を最大まで強化して情報収集に徹する。
……な、なるほど~。こいつぁちょっとミスったな。
辺りをざっと見渡してみると、ま~すごいことになっている。
硬い岩盤が崩壊し、俺が掘ってきた退路側が大きくはじけ飛んでいた。
対流炎の出力を間違えたか。奴らをぶっ殺そうと思って少々力み過ぎたらしい。
対流炎によって温度の上昇した海水が沸騰してしまったのだ。水は沸騰すると体積が約1600倍になる。そのパワーは凄まじく、硬い岩盤や金属であっても、これだけの熱と重量があれば粉砕するのは容易いだろう。
そして爆発という現象は、それを覆う物体が硬ければ硬いほど威力が上昇する。
内部の圧力が飛躍的に増し、その圧力が外殻を突破した瞬間に莫大なエネルギーとなって敵を襲うのだ。
まさか俺が爆弾の内側にいる状態で爆発を喰らうときが来るなんて思ってなかった。
だが俺の外骨格は結構丈夫に育っているらしい。ここにいる貝類はさっきの爆発で全滅しているが、俺はほぼ無傷と言っていい。
あ、でも一番後ろの右脚がもげてるや。まあこんくらい唾つけときゃ治るだろ。小さい足が一本なくなったところで機動力にさしたる影響はない。
タイタンロブスターを舐めてくれるなよ。
周囲を少し見回してみると、ホッと一息吐くことができた。どうやらムドラストの作ったインフラは想像以上の強度らしい。今の爆発で傷の一筋も入らないなんて。
これ、俺が対応する必要はあったのか? パワーのある大人連中にごり押ししてもらえば良かったんじゃ。
まあ俺の方が地中で小回りが利くのは間違いないんだが。
とにかく一回外に出て再び周囲を確認してみる。
子どもたちを襲う貝類がさっきの数十匹だけなはずはないのだ。
あいにくと夕飯に期待していたお化けあさりは爆発で吹き飛んでしまった。もう人間で言ったら成人なんてとっくに超えてる年齢。ロブスターなら尚更。自分のご飯は自分で用意しなければならない。
「うまそうな貝はどこかな~?」
あいつらの外見は記憶した。何匹か倒したことで今はすこぶる調子がいい。
奴らは確かに完璧な擬態をしているが、こっちに来たのはわりと最近のはず。岩の模様や凹凸の付き具合など、細部が若干擬態しきれていない奴がいる。
そして集団で獲物を襲う習性のある奴らは、擬態の下手な奴の近くに沢山潜伏している可能性が高い。
先ほど同様水刃を放つ。しかし深追いはしない。
さっきみたいに罠を仕掛けられたらたまったもんじゃない。さっきは何か全部かみ合って上手く行ったが、今回もそう上手く行くとは限らないのだ。
だから別の魔法を使う。
二ヒヒ、俺が開発した最強の炎系魔法を喰らいやがれ。
「ひっつき爆弾!」
この魔法はひっつき爆弾。対象に張り付き10秒後に爆発する魔法だ。
ただ単に粘着性のある物質と魔法をつなぎとめているわけではなく、相手の皮膚に魔法を張り付かせることに大きな利点がある。
もし地下インフラが脆弱なつくりなら使えない魔法なんだが、さっきの戦闘で問題ないことが確認できた。晩御飯ならテキトウに三匹くらい捕まえれば充分だろう。
いや~にしてもこの魔法を開発するのは難儀したもんだ。
まず、対象に張り付くという性質を持った魔法は存在しない。現段階でアストライア族が持つ魔法は、かなり自然的なものにまとまっている。
ムドラストさえこの魔法を作成していなかった。まあ、彼女ほどの魔法制御能力を有していれば、わざわざこんな魔法を開発せずとも穴をめぐって直接敵にぶち当てられるんだが。
彼女は俺にこの魔法の開発を託した。
地球で言えば、特許を取れるレベルの発明である。そんなん彼女にしてみれば生まれたばっかりの俺に託すとか、今思えば鬼にも程があるだろ。
この魔法はそれだけ強力であり、需要が高い。汎用性もある。
だってそうだろう? どれだけ逃げられても爆発し、敵の隠れ家を見つけ出せるのだ。海中では特に、動きの速いものや隠れ方の上手い奴も多い。
現に、父アグロムニーはこの魔法を多用してくれているようだ。
さて、ひっつき爆弾を付けられたことに気付いていない貝類が、それを無視して地中に潜り始める。
奴ら、罠を張る、とかいう行動を取るくせに、意外と知能が低いんだ。
だが今更驚くことはない。こんな超過酷な環境で生活していれば、地球ではある程度の知能が無ければできないような戦い方も可能なように進化した奴がいる。
馬鹿め、お前が罠を破壊することになるのだと気づきもしないで。
俺の身体はロブスター。表情筋など一つもないはずなのに、俺は思わずニヤリと笑みを浮かべ、どういうわけかそれを自覚していた。
ちょうど10秒後、地中から爆発の音と衝撃が届く。そしてしばらくしたのち、黒い煙状の流れが伝わってきた。
「住処はそこか」
ひっつき爆弾の副次効果だ。黒い煙を発生させ敵の居場所を知らせる。
俺はそこに向かって直進した。そして爆発を一発喰らわせる。例え罠があろうとも、さっきより格段に戦いやすくなっているだろう。
地面を魔法で掘り進め、音系魔法で罠を感知しながら突き進む。
俺の想像通り、奴らはかなり弱っている様子だった。直撃を受けた奴はもちろん死んでいるが、周囲の奴らも貝が剥げている。
「ほい、水刃っと」
移動能力も攻撃能力も失った奴らを殲滅するのは難しいことではない。ただ水刃をテキトウにぶっぱするだけ。赤子の手を捻るより楽な作業よ。
ズドォォンッッ!!!!
瞬間、俺の疑似聴覚に凄まじい音が轟く。思わず魔法を解除、聴覚を閉じてしまうほどの音量だった。
俺がちょっと貝に夢中になっている隙に、上ではいったい何が起きているんだ?
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