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第一章 海域
第十六話 大発明家ニーズベステニー
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ひとまず初動は俺たちの勝ち。突撃してきたメルビレイの群れを弾き返し、三頭も撃破できたのだ。大勝利である。
だが向こうも馬鹿ではない。野生動物ではなく、知能のある集団。それは群れではなく、軍と言ってもなんら過言ではないもの。
俺たちの物量に対抗するため、列を三から六に編成しなおした。
そもそも縦列では遠距離魔法に対して有効な対策を取りずらい。俺ならすぐに並列に変更していたはず。
だが向こうは、あくまでもこちらの防御を突破するつもりらしい。六列になって先程よりも遥かに魔法に対応できるはずだが、それでも並列より対応は遅く、リスクは高い。
ならば奴らには、そのリスクを犯すだけのリターンがあるということ。
ではこちらが取れる策は何か。
一つは、単純に奴らを弾き返し続け、こちらの防御を突破させないこと。
だがこれでは兵の消耗が大きい。奴らは縦列で、群れが続く限り攻撃の手が止まることはないが、こちらは並列。全員が全員、奴らの攻撃を迎え撃ち続けなければならないのだ。
もう一つは、奴らに敢えて防御を突破させ、アグロムニーを筆頭に両側面、正面の三方向から奴らを叩き潰すこと。
こちらは短期決戦を仕掛けられ、一息に殲滅することができる。
だがリスクは大きい。奴らが集落まで入り込んでしまったら、壊滅的な被害を受ける。それに魔法部隊とメルビレイとの距離が近くなり、対応できなくなる。
しかし俺は後者を支持している。それは当然、俺が仕掛けた工作に絶対の自身があるからだ。
大発明家ニーズベステニー様の実力を見せつけるときがきた。
「どうしますか、師匠」
「うむ、お前の案を採用する。罠は全て問題ないな」
「ええ、問題ありませんよ。奴らにも確実に通用します。以前に撃破したメルビレイの内臓から、その属性的性質を調べました。威力、衝撃性、対抗魔法耐性全てにおいて完璧なはずですよ」
ムドラストは俺の言葉を確認し、軍を動かし始めた。隊列を凹ませ、中央に誘い込むよう軍を移動させる。近接部隊はリスクが高いため、かなり後退して薄めに配列を整えなおした。
しかしかなり危険な賭けだな。隊列が膨らむ分、中央に敵が集中したときに左右からの対応が遅れる。
奴らもそれを理解しているし、中央を突破される可能性が高まってしまうのだ。
超広範囲殲滅魔法、水の槍を放ちながら突き進むメルビレイの群れ。六列だが行軍スピードは速い。それほどあの魔法に自身があるんだろう。
だがやはり、奴らは水系魔法しか使えない。使わないのではなく、使えないのだ。
奴の内臓を調べ上げた結果、それは確定的である。
この世界の魔法は、魂の宿る臓器『魂臓』が大きく関わっている。
魔力の源となる液体、儚焔を食事などで体内に取り込み、これを魂臓で精製しなおすことで魔法を行使できるようになる。
儚焔は魔術師が放った魔法を、太陽の光、小型の甲殻類が持つ消化液、植物などがまったく無の属性に変換することで精製される。俺たちタイタンロブスターやメルビレイなどは、魂臓なしに儚焔を魔力に変換できない。
そして魂臓が精製できる魔力の属性は、生物によって決まっている。
タイタンロブスターのように脱皮の能力で無理やり獲得できるなら別だが、メルビレイは生来、水系の魔法しか使えないらしい。
魂臓で精製された魔力が、水系魔法に偏っている痕跡があった。土系魔法もなくはないが、岩を動かすこともできない。実用ではないだろう。
そして、水系魔法しか使えないことが分かれば、対策のしようはいくらでもある。ここの魔術師は、水系魔法への対抗魔法を準備させてあるのだ。
珍しく、フルサイズの大人たちが俺の言うことを素直に聞いてくれた。
超広範囲に拡散しどこまでも追尾してくる水の槍だが、これだけの人数で対抗魔法を使えばさほど脅威にはならない。
奴らは六列縦隊で、せいぜい12体ずつ程度でしか魔法を放てないが、こちらは数百人で対抗魔法を扱えるのだ。短期的に見ればこちらが圧倒的有利である。
奴ら水の槍によほど自身があったのか、こちらに大した被害を出せず焦り始めた。行軍スピードが速くなっている。
そう、それでいい。もしそこに留まっていたのなら、罠を使わず総攻撃を始めていた。
「全魔法部隊、トルネードを放て!」
ムドラストの指示で三方向から渦巻き魔法が放たれる。それまでメルビレイを後押しするように流れていた海流が大きく乱され、奴らの行動を阻害した。
渦巻き魔法はエネルギー効率が悪い魔法で有名だが、今回はムドラストに無理を言って全魔法部隊にこれを使わせた。全てはのちの一手を叩き込むため。
そう、奴らの行軍を止めるのが目的ではない。それに隠れて、罠に嵌めるのが目的だ。
渦巻き魔法で持ち上げられたのは海水だけではない。海底の硬い岩盤が持ち上げられ、奴らに叩きつけられた。
岩を叩きつけられたメルビレイはこれを嫌がり、圧力砲にて岩を粉砕し始めた。
これは俺たちの予想している範囲。無理に防ぐほどではない。
粉砕された岩は粉となり、渦巻き魔法で奴らの周りを漂う。
「放てー!」
ムドラストの言葉で、全魔法部隊が一斉に魔法を起動する。
それは岩の内部に組み込まれた魔法。
第一段階は、作るの自体は難儀したが、実に単純な魔法だ。
設置型魔法を設置する魔法。それも、強い衝撃を起点に、記された魔法を複製する魔法。これで岩の内部の魔力が続く限り設置型魔法が増え続ける。
これは先程からずっと動き続けていた。現時点で二千近くは複製されているか。これだけの数なら問題はない。
そして第二段階は、これまた単純。ただ設置された魔法を解放するだけだ。奴らを逃がさないよう、一息に全て起動する。
一斉に起動された設置型魔法は爆裂。全魔法部隊の力が結集された超広範囲の爆裂魔法は、包囲網の中に入り込んでいた、優に全体の50%のメルビレイを巻き込み大爆発を起こす。
だが、ただ罠に嵌めて一網打尽にするだけなら、地面に罠を設置してそのまま解き放てば良かった話だ。
それをわざわざ、大規模な渦巻き魔法を使ってまで拡散させたのには、当然ながら理由がある。
海水だ。上下左右、四方八方。とにかくあらゆる方向から超圧力、超熱量が加わり、海水は一点に圧縮。計り知れない熱量で一瞬にして昇華し、金属の覆いなくして水蒸気爆発を引き起こした。
太陽かと見まがうほどの熱量と爆発、そして閃光。それはただの一撃でメルビレイの群れを半分以上壊滅させ、その勢いを削ぎ落した。
「メルビレイ、お前たちの敗北は、最初に縦列編成で突撃してきたときに決まっていた」
「ニーズベステニー、やはりお前ほどの技術者は他にいない。私は奴らの突撃を恐れていたが、まさかこれほどの威力を持った罠を用意できていたとは。向こうがこちらに対抗すべく縦列を組んで突撃してきたときはどうしたものかと思っていた。だがずっとお前の手のひらの上だったのか」
ムドラストから呆れたような声が漏れる。感心しているようでもあり、怒っているようでもある。
「褒め過ぎですよ師匠。今回は運の要素も強かった。もし彼らが並列を組みなおして総力戦を開始していたら、近接部隊の皆に頑張ってもらうしかありませんでした」
「いや、今確信したぞ。お前、メルビレイが超音波を用いてこちらを索敵し、縦列編成でもって突撃してくることを知っていたな。そして私に黙っていた。それを聞いていれば、私が中央の守りを固めるよう部隊を編成すると、そう考えたな」
こんな風に問い詰められたのはいつぶりか。俺がもっと若いころに新技術をポンポン発明し、ムドラストの魔法の功績を塗り替えてしまった時以来だ。
「先程の爆裂魔法はその範囲が広ければ広いほどその真価を発揮する。もし私が中央を固めていたら、あれほどの威力は出せなかっただろう。そしてお前は、奴らの動きを最初から最後まで把握し、誘導していた。メルビレイが六列を組むことも分かっていたのだな」
六列編成の横幅はちょうど罠が設置してあった地点と同じ程度だ。確かにそう思うのも無理はないだろう。本当は全然そんなことないが。
しかしおかげで爆裂魔法は最大の効力を発揮した。
「いやいや本当に、師匠は俺のことを買いかぶり過ぎてますよ。少なくとも、向こうが六列編成を組んだのは確実に運です。それ以外はまぁ、へへ、仕組ませてもらいました」
少し軽いような口調になってしまっただろうか。しかし彼女に褒められるほど嬉しいことは中々ない。
ただ彼女の言うことは事実だ。俺はメルビレイの群れが縦列を組んで突撃してくることを知っていた。というか、最初からそれを想定して罠を設置していた。
奴らが水系魔法しか使ってこないことも事前に分かっていたから、罠以外の準備も簡単だったよ。
もし予想から外れていたら別の方法を使うしかなかったが、近接部隊の負担を減らす最善の策はこれだった。
カッコいいところは見せられないが、縁の下の力持ちも個人的には大好きである。ウチョニーがあそこにいるのに、彼女を危険に晒すわけにはいかない。
「それと師匠、罠はこれで終わりではありませんよ」
「な、何を言っているんだニーズベステニー。奴らの軍は半壊。もう戦える状況ではない。向こうも知能のない野生動物ではないのだから、ここからは交渉の出番だ」
ムドラストが驚きの声を上げている。戦場で凛とした彼女の雰囲気を崩すことが出来た。これは一本取ってしまったかな。
「ありえないですね。奴らはこちらと交渉なんてする気ありませんよ。メルビレイは、根っからこちらを見下している種族だ。初めましての時にさんざん感じましたから」
彼女の言うことも確かに正しい。交渉して戦う必要がなくなるなら、その方が断然いい。
しかし彼女は思考が近代的すぎる。というか、アストライアの民はかなり近代の地球に近い考え方をする。
それではダメだ。人間たちにそれが通じても、自分たちが絶対的強者だと驕り高ぶっているイキリ野郎には関係ない。
「皆殺しです、奴らは全て。深海に残った者以外は全て殺します。そうでなければ、奴らはまた襲ってきますよ。知能のあるものは誇りがある限り戦える。戦えてしまうんです」
そのための容易も充分にした。何故わざわざ近接部隊に血をまき散らすように依頼したのか。何故わざわざエネルギー効率の悪い渦巻き魔法を使わせたのか。
全ては彼らを巻き込むための布石である。
だが向こうも馬鹿ではない。野生動物ではなく、知能のある集団。それは群れではなく、軍と言ってもなんら過言ではないもの。
俺たちの物量に対抗するため、列を三から六に編成しなおした。
そもそも縦列では遠距離魔法に対して有効な対策を取りずらい。俺ならすぐに並列に変更していたはず。
だが向こうは、あくまでもこちらの防御を突破するつもりらしい。六列になって先程よりも遥かに魔法に対応できるはずだが、それでも並列より対応は遅く、リスクは高い。
ならば奴らには、そのリスクを犯すだけのリターンがあるということ。
ではこちらが取れる策は何か。
一つは、単純に奴らを弾き返し続け、こちらの防御を突破させないこと。
だがこれでは兵の消耗が大きい。奴らは縦列で、群れが続く限り攻撃の手が止まることはないが、こちらは並列。全員が全員、奴らの攻撃を迎え撃ち続けなければならないのだ。
もう一つは、奴らに敢えて防御を突破させ、アグロムニーを筆頭に両側面、正面の三方向から奴らを叩き潰すこと。
こちらは短期決戦を仕掛けられ、一息に殲滅することができる。
だがリスクは大きい。奴らが集落まで入り込んでしまったら、壊滅的な被害を受ける。それに魔法部隊とメルビレイとの距離が近くなり、対応できなくなる。
しかし俺は後者を支持している。それは当然、俺が仕掛けた工作に絶対の自身があるからだ。
大発明家ニーズベステニー様の実力を見せつけるときがきた。
「どうしますか、師匠」
「うむ、お前の案を採用する。罠は全て問題ないな」
「ええ、問題ありませんよ。奴らにも確実に通用します。以前に撃破したメルビレイの内臓から、その属性的性質を調べました。威力、衝撃性、対抗魔法耐性全てにおいて完璧なはずですよ」
ムドラストは俺の言葉を確認し、軍を動かし始めた。隊列を凹ませ、中央に誘い込むよう軍を移動させる。近接部隊はリスクが高いため、かなり後退して薄めに配列を整えなおした。
しかしかなり危険な賭けだな。隊列が膨らむ分、中央に敵が集中したときに左右からの対応が遅れる。
奴らもそれを理解しているし、中央を突破される可能性が高まってしまうのだ。
超広範囲殲滅魔法、水の槍を放ちながら突き進むメルビレイの群れ。六列だが行軍スピードは速い。それほどあの魔法に自身があるんだろう。
だがやはり、奴らは水系魔法しか使えない。使わないのではなく、使えないのだ。
奴の内臓を調べ上げた結果、それは確定的である。
この世界の魔法は、魂の宿る臓器『魂臓』が大きく関わっている。
魔力の源となる液体、儚焔を食事などで体内に取り込み、これを魂臓で精製しなおすことで魔法を行使できるようになる。
儚焔は魔術師が放った魔法を、太陽の光、小型の甲殻類が持つ消化液、植物などがまったく無の属性に変換することで精製される。俺たちタイタンロブスターやメルビレイなどは、魂臓なしに儚焔を魔力に変換できない。
そして魂臓が精製できる魔力の属性は、生物によって決まっている。
タイタンロブスターのように脱皮の能力で無理やり獲得できるなら別だが、メルビレイは生来、水系の魔法しか使えないらしい。
魂臓で精製された魔力が、水系魔法に偏っている痕跡があった。土系魔法もなくはないが、岩を動かすこともできない。実用ではないだろう。
そして、水系魔法しか使えないことが分かれば、対策のしようはいくらでもある。ここの魔術師は、水系魔法への対抗魔法を準備させてあるのだ。
珍しく、フルサイズの大人たちが俺の言うことを素直に聞いてくれた。
超広範囲に拡散しどこまでも追尾してくる水の槍だが、これだけの人数で対抗魔法を使えばさほど脅威にはならない。
奴らは六列縦隊で、せいぜい12体ずつ程度でしか魔法を放てないが、こちらは数百人で対抗魔法を扱えるのだ。短期的に見ればこちらが圧倒的有利である。
奴ら水の槍によほど自身があったのか、こちらに大した被害を出せず焦り始めた。行軍スピードが速くなっている。
そう、それでいい。もしそこに留まっていたのなら、罠を使わず総攻撃を始めていた。
「全魔法部隊、トルネードを放て!」
ムドラストの指示で三方向から渦巻き魔法が放たれる。それまでメルビレイを後押しするように流れていた海流が大きく乱され、奴らの行動を阻害した。
渦巻き魔法はエネルギー効率が悪い魔法で有名だが、今回はムドラストに無理を言って全魔法部隊にこれを使わせた。全てはのちの一手を叩き込むため。
そう、奴らの行軍を止めるのが目的ではない。それに隠れて、罠に嵌めるのが目的だ。
渦巻き魔法で持ち上げられたのは海水だけではない。海底の硬い岩盤が持ち上げられ、奴らに叩きつけられた。
岩を叩きつけられたメルビレイはこれを嫌がり、圧力砲にて岩を粉砕し始めた。
これは俺たちの予想している範囲。無理に防ぐほどではない。
粉砕された岩は粉となり、渦巻き魔法で奴らの周りを漂う。
「放てー!」
ムドラストの言葉で、全魔法部隊が一斉に魔法を起動する。
それは岩の内部に組み込まれた魔法。
第一段階は、作るの自体は難儀したが、実に単純な魔法だ。
設置型魔法を設置する魔法。それも、強い衝撃を起点に、記された魔法を複製する魔法。これで岩の内部の魔力が続く限り設置型魔法が増え続ける。
これは先程からずっと動き続けていた。現時点で二千近くは複製されているか。これだけの数なら問題はない。
そして第二段階は、これまた単純。ただ設置された魔法を解放するだけだ。奴らを逃がさないよう、一息に全て起動する。
一斉に起動された設置型魔法は爆裂。全魔法部隊の力が結集された超広範囲の爆裂魔法は、包囲網の中に入り込んでいた、優に全体の50%のメルビレイを巻き込み大爆発を起こす。
だが、ただ罠に嵌めて一網打尽にするだけなら、地面に罠を設置してそのまま解き放てば良かった話だ。
それをわざわざ、大規模な渦巻き魔法を使ってまで拡散させたのには、当然ながら理由がある。
海水だ。上下左右、四方八方。とにかくあらゆる方向から超圧力、超熱量が加わり、海水は一点に圧縮。計り知れない熱量で一瞬にして昇華し、金属の覆いなくして水蒸気爆発を引き起こした。
太陽かと見まがうほどの熱量と爆発、そして閃光。それはただの一撃でメルビレイの群れを半分以上壊滅させ、その勢いを削ぎ落した。
「メルビレイ、お前たちの敗北は、最初に縦列編成で突撃してきたときに決まっていた」
「ニーズベステニー、やはりお前ほどの技術者は他にいない。私は奴らの突撃を恐れていたが、まさかこれほどの威力を持った罠を用意できていたとは。向こうがこちらに対抗すべく縦列を組んで突撃してきたときはどうしたものかと思っていた。だがずっとお前の手のひらの上だったのか」
ムドラストから呆れたような声が漏れる。感心しているようでもあり、怒っているようでもある。
「褒め過ぎですよ師匠。今回は運の要素も強かった。もし彼らが並列を組みなおして総力戦を開始していたら、近接部隊の皆に頑張ってもらうしかありませんでした」
「いや、今確信したぞ。お前、メルビレイが超音波を用いてこちらを索敵し、縦列編成でもって突撃してくることを知っていたな。そして私に黙っていた。それを聞いていれば、私が中央の守りを固めるよう部隊を編成すると、そう考えたな」
こんな風に問い詰められたのはいつぶりか。俺がもっと若いころに新技術をポンポン発明し、ムドラストの魔法の功績を塗り替えてしまった時以来だ。
「先程の爆裂魔法はその範囲が広ければ広いほどその真価を発揮する。もし私が中央を固めていたら、あれほどの威力は出せなかっただろう。そしてお前は、奴らの動きを最初から最後まで把握し、誘導していた。メルビレイが六列を組むことも分かっていたのだな」
六列編成の横幅はちょうど罠が設置してあった地点と同じ程度だ。確かにそう思うのも無理はないだろう。本当は全然そんなことないが。
しかしおかげで爆裂魔法は最大の効力を発揮した。
「いやいや本当に、師匠は俺のことを買いかぶり過ぎてますよ。少なくとも、向こうが六列編成を組んだのは確実に運です。それ以外はまぁ、へへ、仕組ませてもらいました」
少し軽いような口調になってしまっただろうか。しかし彼女に褒められるほど嬉しいことは中々ない。
ただ彼女の言うことは事実だ。俺はメルビレイの群れが縦列を組んで突撃してくることを知っていた。というか、最初からそれを想定して罠を設置していた。
奴らが水系魔法しか使ってこないことも事前に分かっていたから、罠以外の準備も簡単だったよ。
もし予想から外れていたら別の方法を使うしかなかったが、近接部隊の負担を減らす最善の策はこれだった。
カッコいいところは見せられないが、縁の下の力持ちも個人的には大好きである。ウチョニーがあそこにいるのに、彼女を危険に晒すわけにはいかない。
「それと師匠、罠はこれで終わりではありませんよ」
「な、何を言っているんだニーズベステニー。奴らの軍は半壊。もう戦える状況ではない。向こうも知能のない野生動物ではないのだから、ここからは交渉の出番だ」
ムドラストが驚きの声を上げている。戦場で凛とした彼女の雰囲気を崩すことが出来た。これは一本取ってしまったかな。
「ありえないですね。奴らはこちらと交渉なんてする気ありませんよ。メルビレイは、根っからこちらを見下している種族だ。初めましての時にさんざん感じましたから」
彼女の言うことも確かに正しい。交渉して戦う必要がなくなるなら、その方が断然いい。
しかし彼女は思考が近代的すぎる。というか、アストライアの民はかなり近代の地球に近い考え方をする。
それではダメだ。人間たちにそれが通じても、自分たちが絶対的強者だと驕り高ぶっているイキリ野郎には関係ない。
「皆殺しです、奴らは全て。深海に残った者以外は全て殺します。そうでなければ、奴らはまた襲ってきますよ。知能のあるものは誇りがある限り戦える。戦えてしまうんです」
そのための容易も充分にした。何故わざわざ近接部隊に血をまき散らすように依頼したのか。何故わざわざエネルギー効率の悪い渦巻き魔法を使わせたのか。
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