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第一章 海域
第十八話 アストライアとメルビレイ
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吹き出す血しぶき。近接部隊の大鋏による斬撃によって、メルビレイの肉体から大量の血液が溢れだし、絶命に至らしめた。
ウスカリーニェの襲撃でまだ混乱状態にあるメルビレイは、難なく近接部隊に撃破されていく。
凄まじい制圧能力だな、近接部隊は。父の精鋭部隊を筆頭に、巨大なメルビレイに張り付いて攻撃を食らわせていた。
彼らの危険度は俺たち魔法部隊の比ではないが、それでも彼らは己の役目を果たそうと尽力している。
たった12秒ののち、近接部隊は素早くその場から離脱した。圧力砲を警戒し、皆地面に潜り込んだのだ。
短い、あまりにも短い。近接部隊は全力を尽くしたが、時間があまりにも短すぎた。彼らは素晴らしい勢いでメルビレイを撃破していったが、たった12秒ではあの数を相手しきれないのだ。
倒せたメルビレイはわずか数体。わざわざウスカリーニェを呼び込んで狙った作戦だったが、爆裂魔法ほどの威力は発揮しなかった。
しかし爆裂魔法にウスカリーニェ、先程の襲撃の流れで、群れの大半を殲滅することができた。
これで数的有利を獲得し、俺たちアストライア族が圧倒的に優勢となったのは確実である。
それに、ウスカリーニェの用途はメルビレイの殲滅だけではない。彼らの存在と脅威を認識させることもまた、目的の一つなのだ。
メルビレイがウスカリーニェへ有効な対抗手段を持っていないことは分かっていた。今回のことで、少なくとも単独でウスカリーニェを相手できないのは示せただろう。
奴らはこの海域で暮らすに当たって、必ず複数人で行動しなければ、常に脅威に晒され続けるわけだ。
こんな場所、無理して住もうなんて思わないだろう。メルビレイの群れがこのまま引き返してくれればそれでも良い。
俺の目的は皆殺しだが、アストライア族の総意は部族を守ること。全面戦争ではない。
「来るぞ! 全員、衝撃に備えろ!」
皆が海底に潜り込んだ直後、数発の圧力砲が全員を襲った。
先程の教訓を活かし、今度は全員一斉にではなく数体ずつ圧力砲を放つことで、12秒間一方的に攻撃されるのを防いでいるのだろう。
やはりメルビレイは頭がいい。それに社会性も高い。たった一度で情報を交換し合い、全員が的確な対応を理解している。
今更ながら、彼らが野生動物でないことを改めて実感する。
正しい対応をされると、あれほど強力な攻撃はそうそうないだろう。
彼らの扱う圧力砲は魔法的な攻撃ではなく、生態の力によるものだ。例えるなら、拳で敵を殴るのと同じということ。
俺たちアストライア族には魔法障壁という魔法がある。魔法を遮断し防御する、空間系魔法の一種だ。
これは魔力をつぎ込めばつぎ込むだけ強度が上がる。アストライア族の魔術師で防御系と言えばこの魔法のことであり、近接部隊も必修スキルである。
しかしメルビレイの圧力砲は魔法にあらず、この魔法障壁で受け止めることはできないのだ。だから効率も強度も最低水準の土壁や、身体の大きいタイタンロブスターほど速度の下がる地中の移動をしなければならない。
魔法障壁を使えないウチョニーはこっちの方が簡単とか言っていたが、兵の負担は大きくなるばかりだ。
魔法障壁は魔力消費が少ない魔法だが、土系魔法は結構な勢いで魔力を消費する。そもそも土系魔法を獲得していない戦士もいるのだ。
誰もがウチョニーのように力技で圧力砲を回避できるわけではない。
どうにかして、あの攻撃に有効な対抗手段を見つけ出さなければいけないな。
圧力砲の対抗手段と言えば、ムドラストはどうやってアレの前兆を察しているんだ。
俺には聞こえないレベルの、さらに周波数の高い超音波が存在するのか? 確かにムドラストなら俺より聴覚が鋭そうなもんだが。
それが出来れば、俺も指揮官として別の場所にいられたんだが。現在、圧力砲の前兆捉えられているのは、ムドラストと父アグロムニーの二人だけである。父は強力な戦士であり、近接部隊を離れることはできない。だから今はムドラストが一人で指揮している状態なのだ。
彼女の助けになればといつも思っているが、今の俺ではまだ力不足らしい。
これからはもっとよく考えて力を付けていく必要がある。
作戦変更だ。ここまでの流れでもまだ奴らを全滅させられていない以上、もう皆殺しを狙える作戦はない。
ならば最低限、二度と奴らがここを攻めてこないよう実力を見せつける必要がある。
そんなことを考えていた直後、一体のメルビレイが悠々と前へ進んできた。
かなり大きいメルビレイだ。周囲のものよりも1.5倍以上大きい。秘めるパワーも相当なものだろう。
「アストライア族の戦士たちよ、我らの完敗だ。これ以上の戦いは我らも望むところではない。ここは我らの習わしにより、そちらの最も強い一名と我の一騎打ちにてこの戦いを納めてはくれぬか」
そいつは低く、しかし良く通る声でそう告げた。とても威厳を感じさせる声だ。きっとこのメルビレイの群れの長なのだろう。
正直助かった。彼らは最初、縦列編成で突撃してきた。そのため後続の者は消耗が少ない。
対してこちらの軍は横列。それも途中で隊列を変形させ、凹型で薄めの陣形を取っている。
続く水槍の対抗魔法、爆裂魔法、音系魔法の連続で魔法部隊の消耗はかなりのものになってた。
近接部隊も、度重なる圧力砲の衝撃や、たった12秒の緊張感に包まれた近接戦。彼らも体力的には限界が近づいていることだろう。
ウスカリーニェが相手してくれたことで休憩を取れたが、それでももう半分のメルビレイを相手しきれるほど体力の余っている戦士は少ない。
一連の流れで仕留め切れなかったのが痛すぎる。
そのタイミングでこの宣言。俺たちにとっては嬉しい誤算だ。
「貴公、この群れの長と見える。貴公が死ねば、この群れは壊滅的な被害を被る。それを覚悟の上での発言か」
ムドラストが彼の言葉に応える。いつもの、凛とした声音だ。
戦場での彼女はやはり強く、たくましい。あんな化け物級のメルビレイに少しも怯まないとは。
「当然である。そも、群れの半数以上を失った今、これを凌ぐ被害はそうあるまいて。それで、一騎打ちを引き受けてくれるのか」
メルビレイには特殊な習慣があるらしい。
地球の日本で言うと、侍は降参したときに、大将が首を差し出す。家臣の命を守る代わりに、敗北の責任を取って自ら腹を斬るのだ。
彼らの場合、降参のケジメとして、群れの長が最も強い敵を一騎打ちをするのだろう。
しかしこの戦い、こちらの将が敗北した場合どうなるんだ?
向こうの長は自ら命を絶つのだろうか。それとも、勝利した時点で戦闘再開か?
「良いだろう。こちらからは近接精鋭部隊の隊長、大英雄アグロムニーを出す。それで構わないな」
そう言われ、父改め大英雄アグロムニーは何も言わずに前へ進んだ。
部下の精鋭部隊も連れず、たった一人で自身の体調を遥かに上回るメルビレイの長に立ち向かおうというのだ。
「こちらの習わしを受け入れていただき感謝する。それと、仮に我がこの御仁に勝利した場合だが……」
「ああそれなら気にしなくていい。貴公は必ず敗北する。その男は、勇猛な戦士の揃ったこのアストライア族の中でも私が殊更に信頼している男よ。万に一つも、貴公が勝利することはありえない」
ムドラストは食い気味に彼の言葉を遮り、強い口調でそう言い切った。
メルビレイの長は苦虫を噛みつぶしたような表情をしている。クジラの表情なんてそうハッキリわかるものではないが、その時だけは確実に分かった。
「と、言うことらしいぞ。クジラの長、ここからは我が相手をしよう。覚悟すると良いぞ、お前がその瞳の内で考えている全ての企みは、この我の拳で考えられなくしてやる」
「ッ!? 貴様、どこまで理解している」
メルビレイの長にとてつもない緊張が走る。対するアグロムニーは、とてもラフな状態だ。
いったい二人の間にどんなやり取りがあったというのか。
ウスカリーニェの襲撃でまだ混乱状態にあるメルビレイは、難なく近接部隊に撃破されていく。
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倒せたメルビレイはわずか数体。わざわざウスカリーニェを呼び込んで狙った作戦だったが、爆裂魔法ほどの威力は発揮しなかった。
しかし爆裂魔法にウスカリーニェ、先程の襲撃の流れで、群れの大半を殲滅することができた。
これで数的有利を獲得し、俺たちアストライア族が圧倒的に優勢となったのは確実である。
それに、ウスカリーニェの用途はメルビレイの殲滅だけではない。彼らの存在と脅威を認識させることもまた、目的の一つなのだ。
メルビレイがウスカリーニェへ有効な対抗手段を持っていないことは分かっていた。今回のことで、少なくとも単独でウスカリーニェを相手できないのは示せただろう。
奴らはこの海域で暮らすに当たって、必ず複数人で行動しなければ、常に脅威に晒され続けるわけだ。
こんな場所、無理して住もうなんて思わないだろう。メルビレイの群れがこのまま引き返してくれればそれでも良い。
俺の目的は皆殺しだが、アストライア族の総意は部族を守ること。全面戦争ではない。
「来るぞ! 全員、衝撃に備えろ!」
皆が海底に潜り込んだ直後、数発の圧力砲が全員を襲った。
先程の教訓を活かし、今度は全員一斉にではなく数体ずつ圧力砲を放つことで、12秒間一方的に攻撃されるのを防いでいるのだろう。
やはりメルビレイは頭がいい。それに社会性も高い。たった一度で情報を交換し合い、全員が的確な対応を理解している。
今更ながら、彼らが野生動物でないことを改めて実感する。
正しい対応をされると、あれほど強力な攻撃はそうそうないだろう。
彼らの扱う圧力砲は魔法的な攻撃ではなく、生態の力によるものだ。例えるなら、拳で敵を殴るのと同じということ。
俺たちアストライア族には魔法障壁という魔法がある。魔法を遮断し防御する、空間系魔法の一種だ。
これは魔力をつぎ込めばつぎ込むだけ強度が上がる。アストライア族の魔術師で防御系と言えばこの魔法のことであり、近接部隊も必修スキルである。
しかしメルビレイの圧力砲は魔法にあらず、この魔法障壁で受け止めることはできないのだ。だから効率も強度も最低水準の土壁や、身体の大きいタイタンロブスターほど速度の下がる地中の移動をしなければならない。
魔法障壁を使えないウチョニーはこっちの方が簡単とか言っていたが、兵の負担は大きくなるばかりだ。
魔法障壁は魔力消費が少ない魔法だが、土系魔法は結構な勢いで魔力を消費する。そもそも土系魔法を獲得していない戦士もいるのだ。
誰もがウチョニーのように力技で圧力砲を回避できるわけではない。
どうにかして、あの攻撃に有効な対抗手段を見つけ出さなければいけないな。
圧力砲の対抗手段と言えば、ムドラストはどうやってアレの前兆を察しているんだ。
俺には聞こえないレベルの、さらに周波数の高い超音波が存在するのか? 確かにムドラストなら俺より聴覚が鋭そうなもんだが。
それが出来れば、俺も指揮官として別の場所にいられたんだが。現在、圧力砲の前兆捉えられているのは、ムドラストと父アグロムニーの二人だけである。父は強力な戦士であり、近接部隊を離れることはできない。だから今はムドラストが一人で指揮している状態なのだ。
彼女の助けになればといつも思っているが、今の俺ではまだ力不足らしい。
これからはもっとよく考えて力を付けていく必要がある。
作戦変更だ。ここまでの流れでもまだ奴らを全滅させられていない以上、もう皆殺しを狙える作戦はない。
ならば最低限、二度と奴らがここを攻めてこないよう実力を見せつける必要がある。
そんなことを考えていた直後、一体のメルビレイが悠々と前へ進んできた。
かなり大きいメルビレイだ。周囲のものよりも1.5倍以上大きい。秘めるパワーも相当なものだろう。
「アストライア族の戦士たちよ、我らの完敗だ。これ以上の戦いは我らも望むところではない。ここは我らの習わしにより、そちらの最も強い一名と我の一騎打ちにてこの戦いを納めてはくれぬか」
そいつは低く、しかし良く通る声でそう告げた。とても威厳を感じさせる声だ。きっとこのメルビレイの群れの長なのだろう。
正直助かった。彼らは最初、縦列編成で突撃してきた。そのため後続の者は消耗が少ない。
対してこちらの軍は横列。それも途中で隊列を変形させ、凹型で薄めの陣形を取っている。
続く水槍の対抗魔法、爆裂魔法、音系魔法の連続で魔法部隊の消耗はかなりのものになってた。
近接部隊も、度重なる圧力砲の衝撃や、たった12秒の緊張感に包まれた近接戦。彼らも体力的には限界が近づいていることだろう。
ウスカリーニェが相手してくれたことで休憩を取れたが、それでももう半分のメルビレイを相手しきれるほど体力の余っている戦士は少ない。
一連の流れで仕留め切れなかったのが痛すぎる。
そのタイミングでこの宣言。俺たちにとっては嬉しい誤算だ。
「貴公、この群れの長と見える。貴公が死ねば、この群れは壊滅的な被害を被る。それを覚悟の上での発言か」
ムドラストが彼の言葉に応える。いつもの、凛とした声音だ。
戦場での彼女はやはり強く、たくましい。あんな化け物級のメルビレイに少しも怯まないとは。
「当然である。そも、群れの半数以上を失った今、これを凌ぐ被害はそうあるまいて。それで、一騎打ちを引き受けてくれるのか」
メルビレイには特殊な習慣があるらしい。
地球の日本で言うと、侍は降参したときに、大将が首を差し出す。家臣の命を守る代わりに、敗北の責任を取って自ら腹を斬るのだ。
彼らの場合、降参のケジメとして、群れの長が最も強い敵を一騎打ちをするのだろう。
しかしこの戦い、こちらの将が敗北した場合どうなるんだ?
向こうの長は自ら命を絶つのだろうか。それとも、勝利した時点で戦闘再開か?
「良いだろう。こちらからは近接精鋭部隊の隊長、大英雄アグロムニーを出す。それで構わないな」
そう言われ、父改め大英雄アグロムニーは何も言わずに前へ進んだ。
部下の精鋭部隊も連れず、たった一人で自身の体調を遥かに上回るメルビレイの長に立ち向かおうというのだ。
「こちらの習わしを受け入れていただき感謝する。それと、仮に我がこの御仁に勝利した場合だが……」
「ああそれなら気にしなくていい。貴公は必ず敗北する。その男は、勇猛な戦士の揃ったこのアストライア族の中でも私が殊更に信頼している男よ。万に一つも、貴公が勝利することはありえない」
ムドラストは食い気味に彼の言葉を遮り、強い口調でそう言い切った。
メルビレイの長は苦虫を噛みつぶしたような表情をしている。クジラの表情なんてそうハッキリわかるものではないが、その時だけは確実に分かった。
「と、言うことらしいぞ。クジラの長、ここからは我が相手をしよう。覚悟すると良いぞ、お前がその瞳の内で考えている全ての企みは、この我の拳で考えられなくしてやる」
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