※異世界ロブスター※

Egimon

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第二章 アストライア大陸

第三十八話 かわいいペット

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「コイツを利用しましょう。俺が個人的な研究目的に捕獲してきた一匹です。上手く手なずけることが出来れば、群れがどこに集合しているのか分かるかもしれません。プロツィリャントの滞空時間はそう長くないはずですから、集合すれば一度地面に足を付けるでしょう。そこを狙って罠を仕掛ければ、上手く撃退できると思います」

 何も、罠だけに頼る必要はない。使えるものは全て使ってしまおう。コイツの協力を得ることもそう、村を救うのに必要なことは何でもする。

「うむ、それが良いであろうな。して、そやつをどうやって手なずける? 吾輩も確かにプロツィリャントの研究をしていたが、手なずけたことはない。基本的には遠くから観察したり、誰もいない状態を作って自然のままを記録したりといったことが主だ」

「それを、これから考えるんですよ。まぁ任せてください。これでも、動物に好かれやすい男として、巷では有名だったんですから」

 アストライア族では、俺の武勇伝が数多く語られている。
 曰く、ペアーと友好関係を結び、大規模な侵攻を止めさせた。
 曰く、ウスカリーニェを従え、奴らの産卵地域を特定。大量発生を未然に防いだ。
 曰く、メルビレイの使者と交渉し、被害を食い止めた。

 マジで出所の分からない眉唾ものだが、そのくらい俺は信頼されているし、評価もされている。こと魔獣相手において、俺の右に出る者はいないのだ。
 現に、俺が捕まえてきたプロツィリャントも、俺の腕の中で大人しくしている。

「あの~ニー? さっきからずっと気になってたんだけど、その子にありえないくらい噛まれてるよ。その腕大丈夫?」

「ハハハ、大丈夫だよウチョニー。ちょっと血が出てるだけさ。人間のボディは脆いからな、この子がちょっと甘噛みするだけで傷ついてしまう。だけど、俺を攻撃している訳ではないよ。ただじゃれているだけさ」

 俺の腕からはドクドクと血が流れだしていた。ちょっと生態魔法をミスったか、普通の人間よりも皮膚が弱いらしい。何、どうせ魔法で作り出したボディだ。この程度は怪我の内にも入らない。

「そ、それは良かったですな。ニーズベステニー殿には懐いている様子。我々が手を出さなくても良いのではないでしょうか」

「オイオイ、何言ってるんだ村長。俺たちはこの仕事が終わったら、賊をしばきに行くんだ。ずっとこの村を守ってやることは出来ない。アンタがこの子を従えて、これからこの村を守っていくんだぞ」

 まったく、村長は俺たちに頼ろうとしすぎる。確かに今はそれでも良いが、俺たちがこの村に居続けることは出来ないんだ。彼ら自身の力で、どうにか出来るようにならなければいけない。

「や、やはりそうですか。ですがその……いえ、この村のためです。男を見せるとしましょう。物怖じしていては、村長の名が泣きます」

 村長が恐る恐る手を伸ばしてくる。そうか、俺の手から血が流れているのが怖いんだ。確かにこんな光景を見たら、甘噛みといっても信じてはもらえない。だが村長は、この村のことを思って勇気を振り絞っている。尊敬に値する人物だと、改めて思った。

 まずは撫でてあげるところからだな。顔から遠い、お尻側の部分を村長に向ける。羽が邪魔だから、お尻を触る分にはプロツィリャントの顎が届くはずもないのだ。

 この子は見知らぬ人が急にお尻を触り始めたので少し怒っているが、今は我慢してもらおう。大丈夫、村長も力いっぱいひっぱたいている訳ではないんだ。しばらくすれば、村長が悪い人間ではないと分かってくれるはず。

「おお、意外にも体毛ががっしりしているんですね。プロツィリャントに触れられる日がこようとは、以前までなら考えもしませんでした。こんな貴重な体験が出来るのも、ニーズベステニー殿の協力のおかげです」

「そう言ってもらえると、俺も頑張った甲斐があるな。どうだ、この子はとても可愛らしいだろう? こうして撫でていると、恐ろしいとは思わないはずだ」

 村長が笑顔で同意してくれる。やはり動物のセラピー効果というのは絶大なもので、先程までこの子を警戒していた村長が、今は朗らかな笑みでこの子を可愛がっていた。

「じゃあこの子に名前を付けてあげないとね。いつまでもプロツィリャントって種族名で呼ぶのも可哀そうだし。どんな名前が良いかな~?」

 名前か、そういえばまだ付けていなかった。どんなのにしようか。
 この子の身体的特徴を上げるとすれば、まだら模様か。あと、額の部分に白いひし形のような模様がある。これは他のプロツィリャントにはなかった。そこから名前をとると……。

「スターダティル、それが故奴の名だ。意味は特にない。ただなんとなく、今浮かんできただけの単語よ」

 スターダティル。精霊種の長ロンジェグイダが、この子に名前を付けてくれた。
 正直語呂が悪い感じもしたが、何故か俺にはそれがとても良い名前のように感じる。彼が名付けてくれたのだから、間違いない。

 ウチョニーも村長も、この子の名前はスターダティルということで納得している様子だ。
 しかしこんなに良い名前、どうしてすぐに思いつくんだろうか。やはり亀の甲より年の劫、という奴か? 彼ほど長生きな精霊もいないだろうし。

「じゃあお前の名はスターダティルだ。これからよろしくな。お前は群れを裏切って、俺たちの味方をするんだぞ~。けど、村を裏切ったりはしないでくれよな」

 これからコイツを調教して、一生群れに戻れない身体にしてやる。人間の力なくして生きられないようにするのだ。精霊の血を引く者が、人間との協力を強いられるとは。これほど面白い話もないだろう。

「フフフ、調教第一弾はそうだな。おいしいご飯をくれてやる。森では絶対に食えない、海の幸がここには沢山あるぞ~。覚悟していろ、これからお前をでろでろに篭絡してやるからな」

 コイツが何を普段何を食べているのか、逆に何を嫌うのか。そんなことはとっくの昔に調べが付いている。そしてその情報から、海の幸の中で好きそうなものもピックアップしてあるのだ。今村の漁師にとってきてもらっている。

「持ってきました! ニーズベステニー様、これでよろしかったですか!?」

 若い村人がデカい声を出し村長宅に入ってくる。元気があって何より。
 彼の手には、数匹魚が握られている。恐らくは今朝とってきたばかりなのだろう。とても新鮮さを感じる。

「おお、これがプロツィリャント。漁師の俺は初めて見ました! とても神聖な生き物ですね。ただ眺めているだけでも、神々しさを感じます」

 は? 何言ってんだこいつ。顔面と羽をがっしり捕まれ、村長にケツ撫でられてるスターダティルが神々しいだと? 意味不明なこと言ってるな。いや、コイツが精霊の近縁種であると感じ取ったのか? 村長よりは魔法の才能が有りそうだ。

「面白い感性してるなお前。コイツの名前はスターダティルって言うんだ。お前も餌あげてみるか?」

「ま、マジっすか!? 良いんスか!? ありがたいっス! ぜひ、この方にお食事を差し上げたいです!」

 中々コミカルな奴だ。こういう男は嫌いじゃない。むしろ好きな部類である。
 少々言葉遣いがおかしいが、彼も緊張しているのだろう。何せこの場には、タイタンロブスター二体に森の主ロンジェグイダ。おまけの村長がいる。これで緊張しない人間はそういないだろう。

「ホホホレ、お前、白身の川魚が好きなんだってなぁ。森の中で川魚を探すのはさぞ難しいだろ。ここにいれば、毎日でもこれが食えるぞ~」

 そう、プロツィリャントの好物はイワナ。だがあれらは山の渓流で捕獲するのが難しく、狩りに失敗することが多いのだ。
 しかしこの村では、それによく似た魚が沢山とれる。なんかサケを小さくしたみたいな魚だ。

 一応流水魔法で塩気を完全に取り除き、塩分濃度が高くなり過ぎないよう配慮もしている。
 プロツィリャントは雑食性が強く、腐肉も消化できるそうだから、多少寄生虫がいても問題はないだろう。そも、イワナにも寄生虫はいるしな。

 俺はスターダティルの眼前に魚を突き出した。さあ食え。コイツが大好きなんだろう?

 パクリ、スターダティルは迷うことなく魚に食いついた。可愛かった表情が一点、たくましい野生動物の雰囲気を醸し出す。
 ムシャムシャ、バキバキ、骨ごと食いつき血を流すその様は、まさに森の悪魔だ。

「おお、カッコいいっス。自分も上げてみて良いですか!」

「もちろん。抑えといてやるから、食わせてみろよ」

 俺がそう言うと、青年は手づかみした魚をスターダティルの口元に突き出した。俺のやり方を真似しているのだろう。まだ満腹ではないスターダティルは、これに勢いよく食らいつく。

「ごぼぉぅがぁッ!!??」

 瞬間、魚を持っていた青年がとんでもない勢いで弾き飛ばされ、後方の壁に頭を打ち付けその場にうずくまった。

「は? っちょ、っはァ!? 今、何が起きた!?」

 スターダティルは何食わぬ顔で魚をほおばっている。マジで何が起きたのか分からなかった。

「はぁ、ニーズベステニー、先程も言ったが、そやつは精霊の近縁種だ。人間を吹き飛ばすことくらい、なんてことはない。タイタンロブスターの其方には弱すぎるかもしれないがな。其方がその万力を緩めたから、彼は吹き飛ばされてしまったのだ」

 ま、マジかよ。こいつそんなに強かったのか。こんなに小さいのに、働き盛りの青年をぶっ飛ばせるほどとは。これは、人間と共存するのに時間がかかりそうだぞ。
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