※異世界ロブスター※

Egimon

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第三章 転生王妃

第七十七話 協力者

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「な、なんだと!? リーンビレニーが復活しただと!?」

 ロンジェグイダ様よりも先に反応したのは、この森の王にして最強格の精霊種を束ねる者、霊王ウチェリトその人であった。彼もまた、この森を守護する精霊の一角だ。ロンジェグイダ様を通して、彼にも報告をしようと思っていた。これは都合がいい。

 霊峰ブルターニャの頂上にそびえる、約8000年の時を生きているという樹木の化身、大精霊ロンジェグイダ。その碧の眼光は鋭く、深緑の髪先一本すら、強大な魔力を感じさせる男だ。

 そして同じく、約8000年の時を生き続けるトンビの王。この世界において最も早く魔法に触れた存在であり、彼なくして現代に魔法という概念は存在しえなかっただろう。
 彼の操る幾百幾千通りの魔法は、如何な強者も撃滅しうる。

 この二人の協力が仰げるのならば、これほど心強いことはない。アストライア族の基準でいうのならば、ちょうど族長ムドラストと大英雄アグロムニーと言ったところか。その実力は、年齢も相まって最強というに相応しい。

 にしても、ロンジェグイダ様もウチェリト様も、リーンビレニーというタイタンロブスターを知っている様子だ。俺はまったく知らない名前であることから、おそらくは数百年前に登場した人物なのだろう。ウチョニーも心当たりがなさそうだ。

「して、リーンビレニー復活の知らせはわかったが、今アストライア族はどうなっているのだ。問題はそこだろう。彼女が復活したとて、必ずなるとは限らない。もしかしたら、大英雄も正気のままかもしれないだろう」

 一時は驚きひっくり返った大精霊ロンジェグイダ様だったが、すぐに落ち着きを取り戻し問いかけてきた。
 これほどの大物。想像はできていたことだが、やはり俺の父アグロムニーと何か関係があるようだな。それも、ロンジェグイダ様の発言と雰囲気から、相当深い関係のようだ。

「詳しい事情は聴いていませんが、大精霊ロンジェグイダ様と、霊王ウチェリト様を指名してのことです。あの族長ムドラスト自らの指名ですから、おそらくは戦闘になっているかと。今この瞬間にも、部族の皆が戦っているかもしれません。どうか、お二人にご助力を願いたいのです!」

 正直、俺にも何がなんだかよくわからない状態なのだ。この距離では、念話を継続するのも難しい。いくら大魔導士ムドラストといえど、短い言葉や要件を伝えるのが精いっぱいだったのだ。これ以上のことは、俺も予想することしかできない。

「ロンジェグイダ、あいつの心は狂っている。リーンビレニーが復活したということは、つまりそういうことだ。復活の秘術は、奴にしか扱えん。そして正義感の強い娘っ子が、あれを許せるとも思えない。戦だ」

「そう、だな。ウチェリトの言うとおりだ。これは戦争になる。それも、メルビレイや人間族などとは比べ物にならないほど大規模な戦争だ。この大陸を揺るがす。長い人生で、まだたったの二度しか経験していない大戦争の予感だ。気を引き締めていくぞ!」

 俺たちが手短に要件を伝えると、大精霊ロンジェグイダ様と霊王ウチェリト様は、それ以上何も聞かず準備を始めてくれた。
 きっと彼らにとって、リーンビレニー復活の知らせはそれほど重大なことなのだろう。

「事態は急を要する。他の精霊種を招集している暇はない。何より、アーキダハラよりも実力の低いものを連れて行こうが、なんの意味もないだろう。一方的に蹂躙されるのは目に見えている。少数精鋭、今いるメンバーで事態に当たるぞ!」

 頼もしいな。8000年も生きているロンジェグイダ様の指揮があると、それだけで勝てそうな雰囲気がしてくる。何せ、彼はこの世界の魔法すべてに精通し、あらゆる戦略、戦術を知り尽くしているのだ。真正面から彼とやりあって勝てる者は、片手ほどもいないだろう。

「悪いがロンジェグイダ、我は今回クーイクの相手をしなければいけないだろう。奴の相手をすることができない。そちらの方が大変だろうとは思うが、任せたぞ。誰か一人でも死なせたら、お前との縁を切るかもしれん」

「ほう、それは怖いな。しかし、ウチェリトは自分が死なないことを考えるべきではないか? 海龍クーイクは強敵だ。いくら精霊種最強格の其方といえど、苦戦は強いられるだろう。其方が死んだのなら、それこそ吾輩から縁を切る

 ……なんか、こういうの良いな。お互いの実力を認め合っているからこそ、彼らはこんなことを言っているのだ。でなければ、8000年来の親友に「縁を切る」などという残酷なことは言えないだろう。とても輝かしい友情だ。

 ……待て、先ほどウチェリト様は、何と言ったか。海龍クーイクの相手をする? それはいったい、どういうことだ。海龍クーイクは父の眷属だ。それがなぜ、ウチェリト様の相手をすることになる?

 まさか、リーンビレニーというタイタンロブスターには、眷属を上書きする力でも備わっているのか?

 いや、それはあり得ないだろう。海龍クーイクは正義の龍だ。決して誰の拘束も受けず、自ら判断して正義の名のもとに力を行使する。それに、族長ムドラストが施した思考制御の魔法もある。彼には、洗脳系や催眠系の魔法など通用しないのだ。

 では考えられる可能性は……。

「さあ皆、準備は整っているようだな! ここまで急ぎ魔力を使ってくれたニーズベステニーとアーキダハラには悪いが、このまま出陣する。心配することはない、お前たち二人分の働きは、隣にいるロンジェグイダがしてくれるだろう。何も気にせず、しばらくは休んでいるといい! 行くぞ、ゲート!」

 !? これは、俺とアーキダハラで生み出した最新の魔法、ゲート!
 そのうち二人の意見も聞きたいと思っていたが、まだ彼らにはこの魔法を伝えていなかった。にもかかわらず、ウチェリト様は軽々と新魔法を使ってしまっている。

 ウチェリト様のゲートをくぐると、そこはもう浜辺であった。俺とウチョニーが上陸した場所にほど近い。ここまで相当な距離があるが、さすがはウチェリト様だ。俺たちの数十倍の威力を持つ魔法を、こうも簡単に行使できてしまう。

 俺とウチョニーは生態魔法を解きタイタンロブスターの姿になった。やはり、こちらの身体の方がずっと使い勝手がいい。特に水中では、人間の身体などただの足かせにしかならない。俺たちはアーキダハラほど空間系魔法に秀でていないからな。

 そして、精霊王たちに気圧されていたスターダティルはというと、何とそのまま潜水していく。彼には今、超巨大クジラ、メルビレイと、同じく超巨大イカであるペアーの魔力が宿っていた。水生生物ではないが、水中での戦闘を可能にしているのだ。

 ちらと横を見ると、ロンジェグイダ様もウチェリト様も、海水などお構いなしに入っていく。彼らほど卓越した魔法の使い手ならば、どんな環境であろうと関係ないのだ。

 しばらく泳ぐと、陸地からそう離れていない場所に早速里が見えた。タイタンロブスターの子どもたちが元気にはしゃぎ、知能を持っていない大型の者は狩りをしている。知能のあるものは、相変わらず物陰でじっとしていた。

 世界中に分布するタイタンロブスターという種族の中でも、特に巨大な支配領域を持つのが、ここアストライア族だ。この大陸の由来でもあり、大陸を囲むように、上は河口ギリギリまで、下は太陽の光もささないほどの深海まで。途方もなく巨大な領域を治めているのだ。

 俺たちはそんなアストライア大陸の領地を、急いで駆け抜ける。ムドラストの邸宅は、ここからまだ少し距離があるのだ。

 部族を見たところ、どうやらまだ大きな戦闘は起きていないらしい。いつも通りの生活を、皆そのままに送っている。知能あるものもそうでないものも、俺が出発した時から何も変わっていない様子だ。

「ムドラスト殿! 報告は聴いたぞ!」

 ムドラスト宅に入った途端、ロンジェグイダ様がそう叫んだ。すると、門からムドラストが一人で出てくる。そこに、父の姿はない。
緊急事態だ。てっきり一緒にいるものかと思っていた。

「よく来てくれた、大精霊ロンジェグイダに、霊王ウチェリト。……単刀直入に言おう。二人も察しがついていると思うが……。アグロムニーが、禁忌を犯した。いくら大英雄といえど、このままにしておくわけにはいかん」
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