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探偵は骸に
探偵は骸に8
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お開きとなった会場で、一人黄昏る様にスマホを弄る友人の頭を叩いた。
様々な言葉が浮かんだが、言葉よりも手が早い。抗議する友人を放って、次の次の予定を組み立てる。時刻は七時を過ぎ、そうして時間は終わる。
誰も居なくなった一室で、今後のスケジュールを早々に仕舞い帰ろうと目論んでいる友人に、奢るからまだ帰るなと答えると、井辻は怪しげな顔で答える。
「君、手が早いって言われない?」
「お前のせいでな」
今度は拳で答えよう。
等と思いながら、身支度を整えてその場を後にした。会議室を閉めるからと、友人が待つようにごねるので少しばかりの猶予を持たせながら歩を待つ。
受付を兼ねたエントランスホールでは、多少珍しい自販機が置いてあり、古めかしい一台を友人は気に入っている。今では見る事も少なくなった銘柄の炭酸水を煽る井辻に、同じ炭酸水の冷たさをかみしめながら話をする。
「最近どうだ?」
「何が?」
「最近。近況報告」
__俺は、探偵としてそう聞いた。
この一年で数百人の人間を見てきたが、主だった精神異常は見られない。感情の欠陥によるものと思われる依存の件数は、年々を通じて減少傾向にあるようだ。
その理由は未だに分からないが、探偵が探偵としての役目を終える事は近い将来になるだろう。それまで、俺は探偵を続けなければならない。
探偵の代用品として。
この街を、守らなければならない。
「__とはいっても、別段変わりないでしょ?」
「ま、__そうだよな」
俺の友人は、相変わらず変わりがない。
その事実に安堵をしながら、俺はもう一人の友人の事を考える。
「覚えているか?感情が無くなる街の話だ。お前みたいな発火物が、何を無くしても変わらんだろうがな__」
発火物である天城霧は、二年以上自分を模している。
記憶通りの自分を演じている。それは、並大抵の努力ではないだろう。
彼女はもう限界だ。
目の前の晴天は、それを知る事は無い。
「__もし、俺が感情を無くした人間になったら、お前はどう思う?」
「森治が変る訳ないだろ?そんな程度で」
そういえば、彼女が言っていた。
「君は変わらないよ。相変わらず論理的で冷ややかになるだけさ。安心しな、僕がそれを証明する」
華やかであれ。
自信過剰であれ。
__目標であれ。
その確かな”証”を常に忘れずに、その”晴天”は歩く事が仕事だ。
彼は、今なお続いている。
彼は、確かに輝いている。
たとえ火に溢れていても、仰ぐ空は美しい群青なのだから。
晴れやかに天を仰ぐ。故に、晴天であれ。
「__そうだな」
渡部(わたべ)井辻(いつじ)が晴天である限り、天城霧は自殺をしない。
可能性の話だとしても、可能性だけだとしても。
それを信じるのに、俺は此奴の横に居すぎたのだ、
「君は考え過ぎで、もう少し柔軟になるべきだ」
「お前はもう少し、考えてほしいがな」
「天城さんの事かな?」
晴天の問いには答えず、唯炭酸水を煽る。
「確かに、最近の彼女どこかおかしいと思うけど。でも、その話に他人を載せるのは感心しないな。天城さんがいくら変わったって、僕が変る訳じゃないし、変わる事は決して悪い事でもない」
事態は悪い方向に進行していない。
緩やかながら、解決に導かれている。
それが嵐の前の静けさのようにも感じ、言葉通りに収束に向かっているとも思える。
「__だと、いいんだがな」
「友人を心配するのは構わないけど、信頼しないのも駄目だよ。何事も程々だ」
信頼、か。
「__俺は、おまえがうらやましいよ」
「何言ってんの。君が僕にあこがれる訳ないだろ?」
友人は自虐的に答える。
俺も晴天であれば、探偵を救う事が出来たのだろうか?
__答えは分からない。だが、少なくとも探偵も兼任するには俺は未熟であるのは理解できる。どちらかしかなれなかった。なら、得意な方を受け継ぐに限る。
彼の役目が背負えないように、探偵(オレ)の役目を背負う事は出来ない。
これは、俺だけの重荷なのだから。
俺は探偵を受け継いで、探偵となった。
心情的にも、形式的にも。俺は探偵事務所の一員となった。
何かになる動機に、深い意味はない。
俺が探偵となる動機も、深い意味などなかった。
欠けた部分を補うように、欠けた誰かの代わりに補っただけだ。
其処に深い意味も価値も無い。
この街に居なくなった一人の探偵の代わりに、俺は探偵となった。
これは、天城霧を救う話だ。
天城霧の自殺を止めたのは先代の探偵だった。
先代の探偵は楔を使う事により、彼女の自殺を一年延期した。
その間の監視と、彼女の心境の変化の管理を俺に押し付けながら。
天城霧の楔は、俺の友人でもある”井辻”である。
彼女は、天城霧の恋心を利用し、殆どの感情を失った今でも繋がりを保っているその感情に賭けた。
焼死以外では、この現象は発現しない。
故に、その選択に至らない隣人を作る事にした。
自身を繋ぎ止める楔を作る事で、人を生かす事を考え着いていた。
つまり、天城霧を自殺させない方法は。
渡部(わたべ)井辻(いつじ)に、告白させる事。
__らしい。
馬鹿馬鹿しい作戦の裏で、彼女が伝えたい事というのは_だ。
人の思いというのは、そう簡単に千切れないという話を彼女は信じていた。
実体験を伴う真実は、決して偽りで無い物なのだから。
人生は、限りなく続いていくものだ。
様々な言葉が浮かんだが、言葉よりも手が早い。抗議する友人を放って、次の次の予定を組み立てる。時刻は七時を過ぎ、そうして時間は終わる。
誰も居なくなった一室で、今後のスケジュールを早々に仕舞い帰ろうと目論んでいる友人に、奢るからまだ帰るなと答えると、井辻は怪しげな顔で答える。
「君、手が早いって言われない?」
「お前のせいでな」
今度は拳で答えよう。
等と思いながら、身支度を整えてその場を後にした。会議室を閉めるからと、友人が待つようにごねるので少しばかりの猶予を持たせながら歩を待つ。
受付を兼ねたエントランスホールでは、多少珍しい自販機が置いてあり、古めかしい一台を友人は気に入っている。今では見る事も少なくなった銘柄の炭酸水を煽る井辻に、同じ炭酸水の冷たさをかみしめながら話をする。
「最近どうだ?」
「何が?」
「最近。近況報告」
__俺は、探偵としてそう聞いた。
この一年で数百人の人間を見てきたが、主だった精神異常は見られない。感情の欠陥によるものと思われる依存の件数は、年々を通じて減少傾向にあるようだ。
その理由は未だに分からないが、探偵が探偵としての役目を終える事は近い将来になるだろう。それまで、俺は探偵を続けなければならない。
探偵の代用品として。
この街を、守らなければならない。
「__とはいっても、別段変わりないでしょ?」
「ま、__そうだよな」
俺の友人は、相変わらず変わりがない。
その事実に安堵をしながら、俺はもう一人の友人の事を考える。
「覚えているか?感情が無くなる街の話だ。お前みたいな発火物が、何を無くしても変わらんだろうがな__」
発火物である天城霧は、二年以上自分を模している。
記憶通りの自分を演じている。それは、並大抵の努力ではないだろう。
彼女はもう限界だ。
目の前の晴天は、それを知る事は無い。
「__もし、俺が感情を無くした人間になったら、お前はどう思う?」
「森治が変る訳ないだろ?そんな程度で」
そういえば、彼女が言っていた。
「君は変わらないよ。相変わらず論理的で冷ややかになるだけさ。安心しな、僕がそれを証明する」
華やかであれ。
自信過剰であれ。
__目標であれ。
その確かな”証”を常に忘れずに、その”晴天”は歩く事が仕事だ。
彼は、今なお続いている。
彼は、確かに輝いている。
たとえ火に溢れていても、仰ぐ空は美しい群青なのだから。
晴れやかに天を仰ぐ。故に、晴天であれ。
「__そうだな」
渡部(わたべ)井辻(いつじ)が晴天である限り、天城霧は自殺をしない。
可能性の話だとしても、可能性だけだとしても。
それを信じるのに、俺は此奴の横に居すぎたのだ、
「君は考え過ぎで、もう少し柔軟になるべきだ」
「お前はもう少し、考えてほしいがな」
「天城さんの事かな?」
晴天の問いには答えず、唯炭酸水を煽る。
「確かに、最近の彼女どこかおかしいと思うけど。でも、その話に他人を載せるのは感心しないな。天城さんがいくら変わったって、僕が変る訳じゃないし、変わる事は決して悪い事でもない」
事態は悪い方向に進行していない。
緩やかながら、解決に導かれている。
それが嵐の前の静けさのようにも感じ、言葉通りに収束に向かっているとも思える。
「__だと、いいんだがな」
「友人を心配するのは構わないけど、信頼しないのも駄目だよ。何事も程々だ」
信頼、か。
「__俺は、おまえがうらやましいよ」
「何言ってんの。君が僕にあこがれる訳ないだろ?」
友人は自虐的に答える。
俺も晴天であれば、探偵を救う事が出来たのだろうか?
__答えは分からない。だが、少なくとも探偵も兼任するには俺は未熟であるのは理解できる。どちらかしかなれなかった。なら、得意な方を受け継ぐに限る。
彼の役目が背負えないように、探偵(オレ)の役目を背負う事は出来ない。
これは、俺だけの重荷なのだから。
俺は探偵を受け継いで、探偵となった。
心情的にも、形式的にも。俺は探偵事務所の一員となった。
何かになる動機に、深い意味はない。
俺が探偵となる動機も、深い意味などなかった。
欠けた部分を補うように、欠けた誰かの代わりに補っただけだ。
其処に深い意味も価値も無い。
この街に居なくなった一人の探偵の代わりに、俺は探偵となった。
これは、天城霧を救う話だ。
天城霧の自殺を止めたのは先代の探偵だった。
先代の探偵は楔を使う事により、彼女の自殺を一年延期した。
その間の監視と、彼女の心境の変化の管理を俺に押し付けながら。
天城霧の楔は、俺の友人でもある”井辻”である。
彼女は、天城霧の恋心を利用し、殆どの感情を失った今でも繋がりを保っているその感情に賭けた。
焼死以外では、この現象は発現しない。
故に、その選択に至らない隣人を作る事にした。
自身を繋ぎ止める楔を作る事で、人を生かす事を考え着いていた。
つまり、天城霧を自殺させない方法は。
渡部(わたべ)井辻(いつじ)に、告白させる事。
__らしい。
馬鹿馬鹿しい作戦の裏で、彼女が伝えたい事というのは_だ。
人の思いというのは、そう簡単に千切れないという話を彼女は信じていた。
実体験を伴う真実は、決して偽りで無い物なのだから。
人生は、限りなく続いていくものだ。
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