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故に、今も
故に、今も5
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校舎屋上にて、私は待ち人と会う。
彼は私の姿を確認すると、立ち入り禁止の筈だと笑っていた。互に拘束を破りし仲なのだから、そんな些細なことはすぐに忘れてくれという。
それもそうだ。
半分にわかれた晴天は、栞を挟んだハンドブック片手に答える。
栞は如何やら手作りの様で、何かしらの押し花が施された力作だ。様々な花を贈ったが、どうやら彼の気分はそういう気分らしい。
クローバー片手に、約束を続ける。
私は今日も死なず、私は言葉を待っている。
数十gの質量を持つ魂が、存在するのなら。
私が生きる事に、意味はなくなる。
「何も無いし、ある訳がない」
言葉の答えは、実に簡素だった。
様々な雑音が支配する地上とは違い、屋上の一角はとてもシンプルに風だけが靡いていた。カーテンの様に曇り空が青空を覆い、例年の暑さを遮る。
暑い暑いと茹だれることも無いし、冬の寒さに身を縮める事も無い。精神体で生きていけるのなら、いっそアンドロイドにでもなろうかと私は笑う。
「君は幽霊を肯定すると思ったよ」
「味のある設定やSFの話なら否定はしないよ。でも、君の場合確かめそうだろ?」
否定はしない。
天城霧は、そういう人間だからだ。
「まあ、興味が無いというのは嘘になるかな?」
「興味本位で殺されたら、僕の立場が無いよ」
「先生でも親でもないのに?」
「幼馴染が殺されるんだ。僕が討たなきゃ誰が討つんだ?君の敵なんて」
ああ、そしたら君は嫌いになるのだろうか?
私を殺した私を恨んでくれるか。憐れんでくれるか。
___君の心に傷はつくのか?
君は私を、憶えてくれるだろうか?
「__私が私を殺すんだ。敵なんていないだろ?」
「__いっそ無理心中でもするか?」
毒を食べて二人で。
咀嚼し、飲み込み。そして同じ血を作って死のう。
その言葉は少し甘美だったけど、わたしの趣味に付き合わせる訳にもいかない。私の殺意は私の恋に向かわない。私の殺意は私だけに向けられるべきだ。
「__演目は楽しかったよ。演劇なんて久しぶりだった。私は、何時も君に救われていると実感するには」
続く言葉に、しかしを載せる。
だが、私の自殺を止める作品ではなさそうだ。
身を焦がす程の炎への欲求は、私を殺す私の衝動はこの程度で鎮火しない。私に出来る事は、私を殺す方法を選択する事だけだ。
「これからだ。アクアリウムの証明は、まだ終わっていない」
諦めきれない絞った言葉とは違う。
其処には、確かな熱がある。
私の好きな人は、私の死を諦められないようだった。
「”晴天”の最後の作品は終わってない。こんな程度で終わらせるか」
「君は舞台に居ないじゃないか__」
「ああ。作家は舞台に上がれない__けど」
だから。
渡部(わたべ)井辻(いつじ)としてなら。
晴天は、その溢れる感性で”私”を救うだろう。
それを私は、身をもって知っている。
屋上を去り、私は本番控える舞台上へと脚を進める。
夏の日差しを久々に浴びた様な、何処か
私という味の無い水に、清々しい青を与えてくれた人が居た。
アクアリウム。色取り取りの色彩が舞い、空っぽの水槽を証明のように色輝かせる。
その水槽に、私は確かに惹かれていた。
それを構成する大部分の青に目を奪われたのも事実だ。私はその光景を見て、幼心から其処で死にたいと思っていた。深く深く引かれたステージは、私の心臓を放さなかったからだ。
それを何故というのに、深い理由はない。
今でこそ言葉を並べてそれなりの言い訳が成り立つが、その時抱いた私の殺意は、私自身に対して純情で純粋な好奇心に似ていた。
第三公演。
趣味の延長線上に存在する私は、少しだけ大きくなる鼓動を呼吸で止める。
人前で他人を演じるのは、私の得意分野だ。何せ、この数年間私は他人に自分を隠していたから。いや、隠したというよりは乏しい私が伝えきれなかっただけだ。
壇上へと自分を固定し、私は”主人公”となる。
不埒な言動を多用する私は、その外面以上に内面を持たない。
思い付いたことを実行してみたら、それが他人から見れば奇怪な事だった。
私は、私の興味本位を実行する能力だけは持ち合わせていた。
それは感情を失った現在の話でもあり、君と見たアクアリウムの姿でもある。
__私は脆く、中身が無い。
私が失ったのは、喜怒哀楽だ。
天城霧は、恋心を失ってはいない。
感情が乏しい私の、唯一の起点を失ってはいない。
私が自殺という興味本位を実行しなかったのは、渡部(わたべ)井辻(いつじ)を愛しているからだろう。
私は今も、空白を抱きながら生きている。
私の青は諦めきれず、演目は変わらない。
希薄化された1がゼロだとしても。
私の喜怒哀楽が、ゼロになろうと。
今まで培われた君との時間は、この培われた思いだけは0にならない。
例え、君の思いを削り落とされても。
この限りない熱を持つ1は、決して何も無い訳ではないのだから。
「私は、君に恋をする」
たとえ無くしても。
私は、もう一度好きになろう。
覚えているだけで煌びやかな世界は、乏しい私の唯一の場所で。
隣にいるそれだけで、私は今を生きているのだ。
騒がしい雑談は消え、証明の消失と共に静寂を取り戻した。
カーテンが上がる。
演目は、”アクアリウムの残照”
私の、”光”と。
私の、”物語”。
彼は私の姿を確認すると、立ち入り禁止の筈だと笑っていた。互に拘束を破りし仲なのだから、そんな些細なことはすぐに忘れてくれという。
それもそうだ。
半分にわかれた晴天は、栞を挟んだハンドブック片手に答える。
栞は如何やら手作りの様で、何かしらの押し花が施された力作だ。様々な花を贈ったが、どうやら彼の気分はそういう気分らしい。
クローバー片手に、約束を続ける。
私は今日も死なず、私は言葉を待っている。
数十gの質量を持つ魂が、存在するのなら。
私が生きる事に、意味はなくなる。
「何も無いし、ある訳がない」
言葉の答えは、実に簡素だった。
様々な雑音が支配する地上とは違い、屋上の一角はとてもシンプルに風だけが靡いていた。カーテンの様に曇り空が青空を覆い、例年の暑さを遮る。
暑い暑いと茹だれることも無いし、冬の寒さに身を縮める事も無い。精神体で生きていけるのなら、いっそアンドロイドにでもなろうかと私は笑う。
「君は幽霊を肯定すると思ったよ」
「味のある設定やSFの話なら否定はしないよ。でも、君の場合確かめそうだろ?」
否定はしない。
天城霧は、そういう人間だからだ。
「まあ、興味が無いというのは嘘になるかな?」
「興味本位で殺されたら、僕の立場が無いよ」
「先生でも親でもないのに?」
「幼馴染が殺されるんだ。僕が討たなきゃ誰が討つんだ?君の敵なんて」
ああ、そしたら君は嫌いになるのだろうか?
私を殺した私を恨んでくれるか。憐れんでくれるか。
___君の心に傷はつくのか?
君は私を、憶えてくれるだろうか?
「__私が私を殺すんだ。敵なんていないだろ?」
「__いっそ無理心中でもするか?」
毒を食べて二人で。
咀嚼し、飲み込み。そして同じ血を作って死のう。
その言葉は少し甘美だったけど、わたしの趣味に付き合わせる訳にもいかない。私の殺意は私の恋に向かわない。私の殺意は私だけに向けられるべきだ。
「__演目は楽しかったよ。演劇なんて久しぶりだった。私は、何時も君に救われていると実感するには」
続く言葉に、しかしを載せる。
だが、私の自殺を止める作品ではなさそうだ。
身を焦がす程の炎への欲求は、私を殺す私の衝動はこの程度で鎮火しない。私に出来る事は、私を殺す方法を選択する事だけだ。
「これからだ。アクアリウムの証明は、まだ終わっていない」
諦めきれない絞った言葉とは違う。
其処には、確かな熱がある。
私の好きな人は、私の死を諦められないようだった。
「”晴天”の最後の作品は終わってない。こんな程度で終わらせるか」
「君は舞台に居ないじゃないか__」
「ああ。作家は舞台に上がれない__けど」
だから。
渡部(わたべ)井辻(いつじ)としてなら。
晴天は、その溢れる感性で”私”を救うだろう。
それを私は、身をもって知っている。
屋上を去り、私は本番控える舞台上へと脚を進める。
夏の日差しを久々に浴びた様な、何処か
私という味の無い水に、清々しい青を与えてくれた人が居た。
アクアリウム。色取り取りの色彩が舞い、空っぽの水槽を証明のように色輝かせる。
その水槽に、私は確かに惹かれていた。
それを構成する大部分の青に目を奪われたのも事実だ。私はその光景を見て、幼心から其処で死にたいと思っていた。深く深く引かれたステージは、私の心臓を放さなかったからだ。
それを何故というのに、深い理由はない。
今でこそ言葉を並べてそれなりの言い訳が成り立つが、その時抱いた私の殺意は、私自身に対して純情で純粋な好奇心に似ていた。
第三公演。
趣味の延長線上に存在する私は、少しだけ大きくなる鼓動を呼吸で止める。
人前で他人を演じるのは、私の得意分野だ。何せ、この数年間私は他人に自分を隠していたから。いや、隠したというよりは乏しい私が伝えきれなかっただけだ。
壇上へと自分を固定し、私は”主人公”となる。
不埒な言動を多用する私は、その外面以上に内面を持たない。
思い付いたことを実行してみたら、それが他人から見れば奇怪な事だった。
私は、私の興味本位を実行する能力だけは持ち合わせていた。
それは感情を失った現在の話でもあり、君と見たアクアリウムの姿でもある。
__私は脆く、中身が無い。
私が失ったのは、喜怒哀楽だ。
天城霧は、恋心を失ってはいない。
感情が乏しい私の、唯一の起点を失ってはいない。
私が自殺という興味本位を実行しなかったのは、渡部(わたべ)井辻(いつじ)を愛しているからだろう。
私は今も、空白を抱きながら生きている。
私の青は諦めきれず、演目は変わらない。
希薄化された1がゼロだとしても。
私の喜怒哀楽が、ゼロになろうと。
今まで培われた君との時間は、この培われた思いだけは0にならない。
例え、君の思いを削り落とされても。
この限りない熱を持つ1は、決して何も無い訳ではないのだから。
「私は、君に恋をする」
たとえ無くしても。
私は、もう一度好きになろう。
覚えているだけで煌びやかな世界は、乏しい私の唯一の場所で。
隣にいるそれだけで、私は今を生きているのだ。
騒がしい雑談は消え、証明の消失と共に静寂を取り戻した。
カーテンが上がる。
演目は、”アクアリウムの残照”
私の、”光”と。
私の、”物語”。
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