ナキ症候群

言伝の詳細

栞

　七つ栞は、私の地元で行われている行事です。
　栞は何処までを読み進め何処までを理解したかを。未知の部分と既知の部分を区切る為の境界です。その場合、右手は既読になり左手は未読となりますよね？
　それ故にこの地域では七つ先を遡るな、七つ後を遡るな。なんて迷信がありまして。要は七つ先の未来のページを捲るな。もしくは、七つ後のページを捲り返すな。という風習が残っていました。
　それ以上は神様の領分であり、立ち入ってはならないのです。
　未来を見てはならない。過去を見てはならない。これは少し、見るなのタブーに近しい概念ですね。

　ああ、すみません。話が逸れてしまっていますね。でも、これはこの行事を理解するのに重要な事なのです。
　七つ栞は七五三の行事の代わりに行われる行事です。七五三と言いますと、11月15日が最も一般的な日付ですが、この行事は誕生日の前日と当日に行われます。

　七五三では千歳飴が手渡されると思いますが、七つ栞では一つの栞が手渡されます。それは、矢隠やがくれ神社と呼ばれるこの辺りでも古株の神社で一般的に販売されている物です。神主曰く、魔除けとして優秀な逸品と聞いています。実際、遠目からでも足を運ぶような方々がいる程、お守りとしては人気だそうです。
　栞を持ったご家庭では、寝る前に子供と共に本を読みます。それは絵本かもしれない。それとも、活字のすくない小説かもしれない。ジャンル自体は何でもいいのです。そして、半分程度に差し掛かったところで栞を挟み床へ着く。

　翌日、栞のページを開き残りの部分を読み進めます。ここで重要なのは、子供が分からないと言ったり、忘れたとしても決して戻ってはいけない。戻ったとはしても、七ページの先へと進んではいけないのです。逆も然りです。
　進んではいけない。七ページよりも先に。子供は神様とも言いますし、神様の子供です。それ以上進んでしまったら、さかのぼってしまったら･････････････。
　彼らが、神様になってしまわないように神様として有り続けないようにするために、人間としての起点を作るのです。

　要約すれば、それは人間になる為の儀式なんですよ。線引きなんです。
　神様の子供から、人間になる為のです。
　先程七五三に似たと言ったとも、そういった事情もあります。年齢を切り分ける行為には、具体的な通過点としてとらえるという意味が含まれているんです。ジョークや冗談の類で言えば、三十代以降の童貞は魔法使いになるでしょう？……いえ、本当の魔法使いなんて私も見た事がありませんよ。だから、これは冗談です。
　何が言いたいかと言いますと、人には年齢における通過点があり、それを踏みしめたからこそ成長を感じる事が出来るのだと解釈をしたのです、
　七歳という区切りの為に、神社へと赴きお参りをする。七五三という行事は、神様に感謝をするのと同時にその時、初めて七歳という通過点を通る為に行われるんです。
　そこで初めて。人は人間として年を取れるんです。

　その通過点を通ったという事実が必要なんですよ。法律的にも、そういった意味でも。



　
　あるべき通過点を通らず過ぎてしまった子供は、人間ではないんです。