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怪談話としては非情な方法 そのB
side”N”の調査
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目は口程に物を言うらしい。
その時の俺は、大層ぎこちなく見えただろう。
「矢ヶ暮研究会……ですか?」
「ええ。矢ヶ暮先輩から連絡して戴いていると思いますが。視聴覚室で噂話の調査をしたくて」
「__はあ、また彼女ですか。鍵は開いていますので、どうぞ。六時には締まりますので、注意してください」
唯波と書かれた彼女は、ぶっきらぼうに来客用の吊り下げ名札を渡す。
六月の中盤、矢ヶ暮先輩の母校に顔を出した。
この中学校には二年前、児童一人が自殺したという記録がある。そしてその近くには印様と呼ばれる神的実体が存在したという情報があった。
調査を始めて二日目。友人とその後輩から、とある情報を耳にする。
それは、この学校にある噂話。
百物語の噂話だ。
「__潜入した。」
『現場は視聴覚室。三階です』
話によれば、三か月前程まで足しげなく後輩の顔を見に訪れていたそうだ。矢ヶ暮神社のご息女である彼女は、どうやらこの辺り一帯でも有名な人だそうで、その多くの伝説は怪談に似たものが多い。
彼女の世代にあった噂話。後輩の代へと受け継がれながら、今もその話は実在するらしい。
その百物語は、曰く六時頃に現れる。
百の光が煌々と燃える蝋燭が出現し、怪談を終える事で部屋から退出できる。日に一つ、怪談話を行う事で一つの蝋燭を消す事が出来る。概要を説明するならそんな話だ。
「中坊共の話によれば、この辺りにも印様の都市伝説が根付いているようだ。一昨年の事件もあって、関係性は濃厚だろう」
『被害者の#七井和也__なないかずや__#氏は頭蓋骨の前頭葉が陥没され、脳挫傷によって死亡しています。そしてそれは、自身の力で机に頭を打ち続けたことが原因と考えられます』
「普通の人間がそんな事が出来ると思うか?」
『抵抗した痕跡も無く、入眠剤などの反応もありません。いくら奇怪とは言っても、その可能性が高いですから』
「__これも異常のせい。っては断言しないのな」
『それを調べるのが私たちの仕事です。直哉君』
廊下を渡り、怪談へと足を進める。
途中横切る生徒にまるで珍しいような眼差しを向けられるが、お構いなしに階段を進む。
視聴覚室に当たる廊下には人影はなく、唯西日が射している。
『彼の目撃情報が途絶えたのが17:30。そして、発見されたのは18:45。この約一時間で、彼は奇行に走ったと思われます。異常性が顕現するのも、この時間帯だと思われます。また、一年ほど前に存在した百物語の流行は無関係とも言えないでしょう』
「で、そんな事件があったのに何で出張らなかったんだ?」
『それが連続性を持たなかった事件だったから。__ですよ』
”最初の被害者”である七井八重とは違い、被害者は頭部を欠損する怪死事件ではあるが、連続性を持たない不自然師として処理された。それは印様という代表的な脅威に関する事象ではない、あくまで個人に起こった自殺である事が主な原因だった。
部屋の前にたち、扉に手をかける。
視聴覚室は施錠されていないと彼女は言っていたが、果たして。
「学習室前に着いた。これより調査に入る」
『MOEの起動をお願いします』
胸に収めてあるデバイスを操作し、横目で確認。
「起動」
『確認しました。計測結果は問題なし』
特に怪しい気配はない。
「でしょうね」
視聴覚室内部は、その名称同様多数の机と少数のパソコンがあるのみで殆ど物という物がない。
山岳の青々しい緑が一望できる窓辺には、鉢に植えられた花が飾られている程度だ。
『視聴覚室は、過去の事件以降立ち入りを制限されていました。今では一年前に正常化し、以降はそのままの形で使用されています』
「今のところ目立ったモノは無い。探索を続ける」
あるとすれば、蝋燭が現れるという準備室だろう。
『準備室。ですね』
「MOEの反応は?」
『__少し待って』
足を止める。
扉には窓が無く、なこの様子は確認できない。
確かに奥から異質な雰囲気を感じる。警戒する事に越した事は無いだろう。こちらでもモニターを見る事は出来るが、視覚を外した瞬間に何が起こるか分からない。視線をそらさず、ただ報告を待つ。
『イエロー。何かしらの異常が見られます』
「空間異常だと思うか?」
『周囲全体に異常性が確認できます。性質が分からない以上、慎重に行動をお願いします』
了解、そう呟いた。
情報が正しければこの奥には蝋燭があり、高校と火が照らされている空間がある。
「開けるぞ」
扉を開ける。
しかし、その場所には予想した光景は広がっていなかった。
其処には、大量の書類と当社気が合った。書類は紐で分別はされている物のお粗末にも奇麗な整頓をされている訳ではなさそうだ。段ボールの存在もあり、どちらかというと物置に近い。しかし、設置してあるパソコンと机は職員が作業しているスペースである事を簡素にも思わせる。
警戒を解き、蝋燭の類の確認を行うが、噂にあるそれは見つからない。
『周囲の異常性消失。問題はありません』
「空間系だな。周囲は資料室の様になっている。というか、物置小屋みたいだ。机は一応あるが。……大量のプリントと」
”隔絶された空間”という異常性。
恐らく、情報の類が一切出ない異常性だ。
そんな中。足元にある何かを踏んだ気がした。
「__何だこれ?」
『どうしました?』
「壊れた蝋燭だ」
『……詳細をお願いします』
その音は彼女にも聞こえたのだろう。
壊れた。デハナク、壊した蝋燭を摘まむ。
「電気蝋燭の様だが、ライト部分から見事に割れて使い物になってなさそうだ」
『そのほかに、手掛かりはありそうですか?』
「__手掛かりといっても。な」
俺の視線は、扉に向かっていた。
『閉めてみます?』
「通信が途切れる可能性がある。閉めていいか?」
「少し待って。__大丈夫、お願いします」
「扉をしめる」
無線通信は、余程厚い壁でなくては遮断できない。
部屋を隔てる程度の扉ならば、通信が途切れる事は無いだろう。これが途切れたとするなら、「先程の仮説が正しいという事だ。
扉を閉めると、案の定応答が途切れる。
「通信は……繋がっていないが」
何か変わった訳ではないな。MOE反応はイエロー。
空間異常で間違いはない。恐らく、別な空間に隔離されている。
MOEの画面を見れば、この部屋以外の表示が消えている。この装置は周辺の気温、気圧、重力。その他諸々で構成される著しい変化を感知し、知らせる装置だ。
画面外の表示は黒く塗りつぶされ、検地がされていない事を示している。
今この空間が隔絶されている証拠だ。
俺はライターを取り出し、その場で火を付ける。
熱感知のシステムは機能せず、唯高校と火が揺れる。
「どうでした?」
「扉を閉める行為が空間を作るのは確かの様だな。MOEはイエローだ」
『此方の通信も届いていませんでした。何処かに飛ばされるタイプではなく、それ自体が別な空間に隔絶されると言った方が正しいと思われます』
GPSは室内で作用できず、位置を知らせるにはビーコンを使用することが望ましい。
だが、空間がどのような状態であれ観測できないのだからこれ以上の推測は無駄だろう。
それよりも。
見つかった異空間は噂話の規模程ではないとはいえ、それを肯定した。
恐らく何かしらの儀式で誰かが使用した可能性は十分にある。異界の中で蠟燭の火を灯す事は学校設備の探知に引っかからない。
この異常性と、噂話は単なる妄想ではない。
「おそらく、何かしらの儀式を施した可能性は考えられる。異空間では電気設備が機能しない様で、熱感知が反応しなかった。__だが、電気蝋燭で行う儀式なんて俺は知らないが」
「私も知りません。__取り合えず、上に報告と詳しい調査の為の人員を派遣します」
「よろしく頼む。……そろそろ、六時か」
秒針が十二を指した時、俺は。
何か、異様ない寒気を覚えた。
「__異常事態発生。部屋が変異した」
目は口程に物を言う。
成程、それはそうらしい。
「詳しい状況を」
「目を放した瞬間に蝋燭が出現。明らかに異常性が進行していると思われる。周囲の映像は?」
「此方でも蝋燭を確認」
「更なる進行が予想される。恐らくは」
怪談話を語る事により、この事象は。
蝋燭の火を確認すると消された本数は六十を超えていた。噂話として多くの生徒が利用していたのだろう。
「十分です。撤退行動を行ってください。増援隊が来るまで少し時間がかかります」
「了解した。扉に向かう」
噂話が正しければ、怪談話を行う事で扉は開かれるはずだ。
しかし、一応の確認の為に扉を開けると気配は消えた。その代わり、先程の顔が眼前にある。驚きながら目をぱちくりしていると、相手方も同じだったのだろう。
「……あの」
何かしら言いかけた言葉が出ず、代わりに先走ったような声だった。
「すみません。もう六時でしたね」
「そろそろカギを閉めますので、退去をお願いします」
「手間を掛けさせてしまいすみません」
そう言ってカギを返し、そそくさとその場を後にする。
夕暮れの廊下からは中庭と反対側の廊下が見渡せ、先程までポツポツといた生徒は見えず、いつの間にか合唱と疎らな楽器の音が無くなっていた。耳元の通信機を押さえ、階段を降りながら通信を続ける。
「視聴覚室入り口。__特に異常なく開いた」
『MOEの反応に異常はありません。先程の異常性も消失』
「大量にあった蝋燭。恐らく、百物語の噂話は本当だな。百物語の儀式性を利用した何かを行った可能性はある」
『どのような儀式かは判別が付きませんが、恐らく今回の事件に関連する可能性は大きいでしょう』
「後輩共の話を統合するなら、この場所は百物語を行うための舞台装置としての機能がある可能性が高い。見た所、半数近くの火が消えていた。更なる、得体のしれない何かが召喚される可能性が高い」
『上への報告が必要ですね』
この儀式により印様という実態が復活したとするなら、このまま放っておけば更なる神格が出現する可能性が高い。更なる対策が必要になる。
「全くだ。これより帰投する」
『了解。お疲れ様でした』
駐輪場へと足を進め、黄昏る様に背を預けた。
調査記録である物品を届ける為に、駐車場には部隊が待機している。しかし、気疲れは思った程肩にのしかかっていた。だから、少しだけ休憩してから向かう予定だ。
『早く帰還をお願いします』
「分かっている、人使いが荒いぜ」
その時の俺は、大層ぎこちなく見えただろう。
「矢ヶ暮研究会……ですか?」
「ええ。矢ヶ暮先輩から連絡して戴いていると思いますが。視聴覚室で噂話の調査をしたくて」
「__はあ、また彼女ですか。鍵は開いていますので、どうぞ。六時には締まりますので、注意してください」
唯波と書かれた彼女は、ぶっきらぼうに来客用の吊り下げ名札を渡す。
六月の中盤、矢ヶ暮先輩の母校に顔を出した。
この中学校には二年前、児童一人が自殺したという記録がある。そしてその近くには印様と呼ばれる神的実体が存在したという情報があった。
調査を始めて二日目。友人とその後輩から、とある情報を耳にする。
それは、この学校にある噂話。
百物語の噂話だ。
「__潜入した。」
『現場は視聴覚室。三階です』
話によれば、三か月前程まで足しげなく後輩の顔を見に訪れていたそうだ。矢ヶ暮神社のご息女である彼女は、どうやらこの辺り一帯でも有名な人だそうで、その多くの伝説は怪談に似たものが多い。
彼女の世代にあった噂話。後輩の代へと受け継がれながら、今もその話は実在するらしい。
その百物語は、曰く六時頃に現れる。
百の光が煌々と燃える蝋燭が出現し、怪談を終える事で部屋から退出できる。日に一つ、怪談話を行う事で一つの蝋燭を消す事が出来る。概要を説明するならそんな話だ。
「中坊共の話によれば、この辺りにも印様の都市伝説が根付いているようだ。一昨年の事件もあって、関係性は濃厚だろう」
『被害者の#七井和也__なないかずや__#氏は頭蓋骨の前頭葉が陥没され、脳挫傷によって死亡しています。そしてそれは、自身の力で机に頭を打ち続けたことが原因と考えられます』
「普通の人間がそんな事が出来ると思うか?」
『抵抗した痕跡も無く、入眠剤などの反応もありません。いくら奇怪とは言っても、その可能性が高いですから』
「__これも異常のせい。っては断言しないのな」
『それを調べるのが私たちの仕事です。直哉君』
廊下を渡り、怪談へと足を進める。
途中横切る生徒にまるで珍しいような眼差しを向けられるが、お構いなしに階段を進む。
視聴覚室に当たる廊下には人影はなく、唯西日が射している。
『彼の目撃情報が途絶えたのが17:30。そして、発見されたのは18:45。この約一時間で、彼は奇行に走ったと思われます。異常性が顕現するのも、この時間帯だと思われます。また、一年ほど前に存在した百物語の流行は無関係とも言えないでしょう』
「で、そんな事件があったのに何で出張らなかったんだ?」
『それが連続性を持たなかった事件だったから。__ですよ』
”最初の被害者”である七井八重とは違い、被害者は頭部を欠損する怪死事件ではあるが、連続性を持たない不自然師として処理された。それは印様という代表的な脅威に関する事象ではない、あくまで個人に起こった自殺である事が主な原因だった。
部屋の前にたち、扉に手をかける。
視聴覚室は施錠されていないと彼女は言っていたが、果たして。
「学習室前に着いた。これより調査に入る」
『MOEの起動をお願いします』
胸に収めてあるデバイスを操作し、横目で確認。
「起動」
『確認しました。計測結果は問題なし』
特に怪しい気配はない。
「でしょうね」
視聴覚室内部は、その名称同様多数の机と少数のパソコンがあるのみで殆ど物という物がない。
山岳の青々しい緑が一望できる窓辺には、鉢に植えられた花が飾られている程度だ。
『視聴覚室は、過去の事件以降立ち入りを制限されていました。今では一年前に正常化し、以降はそのままの形で使用されています』
「今のところ目立ったモノは無い。探索を続ける」
あるとすれば、蝋燭が現れるという準備室だろう。
『準備室。ですね』
「MOEの反応は?」
『__少し待って』
足を止める。
扉には窓が無く、なこの様子は確認できない。
確かに奥から異質な雰囲気を感じる。警戒する事に越した事は無いだろう。こちらでもモニターを見る事は出来るが、視覚を外した瞬間に何が起こるか分からない。視線をそらさず、ただ報告を待つ。
『イエロー。何かしらの異常が見られます』
「空間異常だと思うか?」
『周囲全体に異常性が確認できます。性質が分からない以上、慎重に行動をお願いします』
了解、そう呟いた。
情報が正しければこの奥には蝋燭があり、高校と火が照らされている空間がある。
「開けるぞ」
扉を開ける。
しかし、その場所には予想した光景は広がっていなかった。
其処には、大量の書類と当社気が合った。書類は紐で分別はされている物のお粗末にも奇麗な整頓をされている訳ではなさそうだ。段ボールの存在もあり、どちらかというと物置に近い。しかし、設置してあるパソコンと机は職員が作業しているスペースである事を簡素にも思わせる。
警戒を解き、蝋燭の類の確認を行うが、噂にあるそれは見つからない。
『周囲の異常性消失。問題はありません』
「空間系だな。周囲は資料室の様になっている。というか、物置小屋みたいだ。机は一応あるが。……大量のプリントと」
”隔絶された空間”という異常性。
恐らく、情報の類が一切出ない異常性だ。
そんな中。足元にある何かを踏んだ気がした。
「__何だこれ?」
『どうしました?』
「壊れた蝋燭だ」
『……詳細をお願いします』
その音は彼女にも聞こえたのだろう。
壊れた。デハナク、壊した蝋燭を摘まむ。
「電気蝋燭の様だが、ライト部分から見事に割れて使い物になってなさそうだ」
『そのほかに、手掛かりはありそうですか?』
「__手掛かりといっても。な」
俺の視線は、扉に向かっていた。
『閉めてみます?』
「通信が途切れる可能性がある。閉めていいか?」
「少し待って。__大丈夫、お願いします」
「扉をしめる」
無線通信は、余程厚い壁でなくては遮断できない。
部屋を隔てる程度の扉ならば、通信が途切れる事は無いだろう。これが途切れたとするなら、「先程の仮説が正しいという事だ。
扉を閉めると、案の定応答が途切れる。
「通信は……繋がっていないが」
何か変わった訳ではないな。MOE反応はイエロー。
空間異常で間違いはない。恐らく、別な空間に隔離されている。
MOEの画面を見れば、この部屋以外の表示が消えている。この装置は周辺の気温、気圧、重力。その他諸々で構成される著しい変化を感知し、知らせる装置だ。
画面外の表示は黒く塗りつぶされ、検地がされていない事を示している。
今この空間が隔絶されている証拠だ。
俺はライターを取り出し、その場で火を付ける。
熱感知のシステムは機能せず、唯高校と火が揺れる。
「どうでした?」
「扉を閉める行為が空間を作るのは確かの様だな。MOEはイエローだ」
『此方の通信も届いていませんでした。何処かに飛ばされるタイプではなく、それ自体が別な空間に隔絶されると言った方が正しいと思われます』
GPSは室内で作用できず、位置を知らせるにはビーコンを使用することが望ましい。
だが、空間がどのような状態であれ観測できないのだからこれ以上の推測は無駄だろう。
それよりも。
見つかった異空間は噂話の規模程ではないとはいえ、それを肯定した。
恐らく何かしらの儀式で誰かが使用した可能性は十分にある。異界の中で蠟燭の火を灯す事は学校設備の探知に引っかからない。
この異常性と、噂話は単なる妄想ではない。
「おそらく、何かしらの儀式を施した可能性は考えられる。異空間では電気設備が機能しない様で、熱感知が反応しなかった。__だが、電気蝋燭で行う儀式なんて俺は知らないが」
「私も知りません。__取り合えず、上に報告と詳しい調査の為の人員を派遣します」
「よろしく頼む。……そろそろ、六時か」
秒針が十二を指した時、俺は。
何か、異様ない寒気を覚えた。
「__異常事態発生。部屋が変異した」
目は口程に物を言う。
成程、それはそうらしい。
「詳しい状況を」
「目を放した瞬間に蝋燭が出現。明らかに異常性が進行していると思われる。周囲の映像は?」
「此方でも蝋燭を確認」
「更なる進行が予想される。恐らくは」
怪談話を語る事により、この事象は。
蝋燭の火を確認すると消された本数は六十を超えていた。噂話として多くの生徒が利用していたのだろう。
「十分です。撤退行動を行ってください。増援隊が来るまで少し時間がかかります」
「了解した。扉に向かう」
噂話が正しければ、怪談話を行う事で扉は開かれるはずだ。
しかし、一応の確認の為に扉を開けると気配は消えた。その代わり、先程の顔が眼前にある。驚きながら目をぱちくりしていると、相手方も同じだったのだろう。
「……あの」
何かしら言いかけた言葉が出ず、代わりに先走ったような声だった。
「すみません。もう六時でしたね」
「そろそろカギを閉めますので、退去をお願いします」
「手間を掛けさせてしまいすみません」
そう言ってカギを返し、そそくさとその場を後にする。
夕暮れの廊下からは中庭と反対側の廊下が見渡せ、先程までポツポツといた生徒は見えず、いつの間にか合唱と疎らな楽器の音が無くなっていた。耳元の通信機を押さえ、階段を降りながら通信を続ける。
「視聴覚室入り口。__特に異常なく開いた」
『MOEの反応に異常はありません。先程の異常性も消失』
「大量にあった蝋燭。恐らく、百物語の噂話は本当だな。百物語の儀式性を利用した何かを行った可能性はある」
『どのような儀式かは判別が付きませんが、恐らく今回の事件に関連する可能性は大きいでしょう』
「後輩共の話を統合するなら、この場所は百物語を行うための舞台装置としての機能がある可能性が高い。見た所、半数近くの火が消えていた。更なる、得体のしれない何かが召喚される可能性が高い」
『上への報告が必要ですね』
この儀式により印様という実態が復活したとするなら、このまま放っておけば更なる神格が出現する可能性が高い。更なる対策が必要になる。
「全くだ。これより帰投する」
『了解。お疲れ様でした』
駐輪場へと足を進め、黄昏る様に背を預けた。
調査記録である物品を届ける為に、駐車場には部隊が待機している。しかし、気疲れは思った程肩にのしかかっていた。だから、少しだけ休憩してから向かう予定だ。
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