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朱色を視しては一人待つ
主色を視しては一人待つ10
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「この朱色は、私の色なんですよ」
図書館一階のカフェテリア。
活動拠点の学習室はクーラーが備え付けていないし、何より資料として書籍を借りるのにも便利だ。
だから、活動拠点が図書館のカフェテリアになる事も珍しくない。眠気覚ましのアイスティを啜りながら原稿用紙に頭を悩ませている私の前では、苦手な教科に苦悶する後輩の姿があった。
如何やら運動部の活動と上手く共有している様で、彼女の活躍は陰湿な私の耳にも嫌でも入った。私から見たら優秀な後輩にも弱点はあるようで、先程から教科書相手にボールペンが動かない。
沈黙が苦手という訳ではないが、筆の停滞を解決しようとしたのかもしれない。
私はふと、思い付いて言葉を紡ぐ。
それは七井後輩が何時も使用している筆入れの話だった。
「先輩は、藍色って感じですね」
「__まあ、何色でも構わないけど」
藍色は青に近い。藍染めと言われる程浸透した染め色だから、私には合わないだろう。明確に何処が?と言われれば、どうにも私の認識としては高級感があるところが合わない。比較的庶民な私には灰色が似合うだろう。
地味という意味合いで。
「そういえば、先輩。最近この学校で失踪事件が出たそうですよ」
「へえ、そうなんだ」
それは初めて聞く話だった。
何せそういったことがあるのなら全校集会や保護者会で説明がある筈。話題作りとしては、たとえ嘘だとしても興味の範疇に無い話だろう。
「もう少し興味を持ってくれてもいいじゃないですか?」
「それよりも手を動かしてくれませんか?」
互いに手が動かない状況が十五分も過ぎれば、それはきっとただの雑談会になってしまうだろう。今まさにその状況だ。日常の雑談で停滞するのは甘美だろうけど、進まない原稿と宿題は現実である。
しかし、休憩も必要だ。人は働きすぎると死ぬのだから。
それは後輩も分かっている様で……。
「休憩時間ですよ。先輩、私を構ってください」
訂正。彼女は、己の欲に忠実らしい。
ふと目を逸らした先にはカレンダーが飾られていて、そういえば今日は陸上の練習の日である事を思い出した。目の前の後輩はこうして私とお茶をしている暇はない筈だし、何時も通りの食事管理をしているようには見えない。まあ、それでも如何にか勝ってしまう運動神経があるのだからこの学園も手放せないのだろうが……。
サボりはよくない。
そんな意識を、瞳に含めた。
「……陸上は?」
「ばっちりです。意外と走るのは得意なので」
__となれば、此方はさいですかとしか言えない。
所で話に戻るが、何故この後輩は失踪事件の話を投げかけたのだろう?生憎交友関係に優れている訳では無いからか聞いた事は無い。私の注目を引かせる話題としても……少し、変だ。
「失踪事件?この辺りで?」
「この学校の生徒が連れ去られたらしいですよ?__しかも、それは」
妙に聲を落とした七井後輩が、耳元で呟く。
「如何やら、校内での惨事だそうで」
他の学校と比べれば、この学園は警備に力を入れている方だと思う。一般の人に解放されているという子のカフェテリアでさえ、事務所にあるネームプレートが無ければ利用できないし、それほど往来が激しいという程でもない。敷地内での誘拐やらならば、心理的にも重いだろう。
「__少なくとも、誘拐ではなさそうだね」
「ま、先輩には関係なさそうですけど」
「なんで?」
「先輩友達少なそうだし」
正論は時折、人を殺すと後輩は学ぶべきだ。
「……それも褒め言葉ですかね?」
「そう言う事にしてください。少なくとも、私は安心していますよ。先輩が犯人じゃないって分かっているから」
「…」
私には、頼ってもいいという言葉が足りなかった。
その信頼ともからかいとも取れる言葉を、彼女は笑って口にした。
その言葉を最後に、彼女は屋上から飛び降りた。
本当に、信頼はあったのだろうか?
本当に、私達は友達だったのだろうか?
伝えられなかった言葉は多くて、一言でまとめる事は出来ない。
伝えられなかった言葉が多すぎて、私は一言さえも答えられなかった。
それでいて正解を答える事が出来なかったから、私は言葉を失ったのだろう。
私には、言葉が足りなかった。
図書館一階のカフェテリア。
活動拠点の学習室はクーラーが備え付けていないし、何より資料として書籍を借りるのにも便利だ。
だから、活動拠点が図書館のカフェテリアになる事も珍しくない。眠気覚ましのアイスティを啜りながら原稿用紙に頭を悩ませている私の前では、苦手な教科に苦悶する後輩の姿があった。
如何やら運動部の活動と上手く共有している様で、彼女の活躍は陰湿な私の耳にも嫌でも入った。私から見たら優秀な後輩にも弱点はあるようで、先程から教科書相手にボールペンが動かない。
沈黙が苦手という訳ではないが、筆の停滞を解決しようとしたのかもしれない。
私はふと、思い付いて言葉を紡ぐ。
それは七井後輩が何時も使用している筆入れの話だった。
「先輩は、藍色って感じですね」
「__まあ、何色でも構わないけど」
藍色は青に近い。藍染めと言われる程浸透した染め色だから、私には合わないだろう。明確に何処が?と言われれば、どうにも私の認識としては高級感があるところが合わない。比較的庶民な私には灰色が似合うだろう。
地味という意味合いで。
「そういえば、先輩。最近この学校で失踪事件が出たそうですよ」
「へえ、そうなんだ」
それは初めて聞く話だった。
何せそういったことがあるのなら全校集会や保護者会で説明がある筈。話題作りとしては、たとえ嘘だとしても興味の範疇に無い話だろう。
「もう少し興味を持ってくれてもいいじゃないですか?」
「それよりも手を動かしてくれませんか?」
互いに手が動かない状況が十五分も過ぎれば、それはきっとただの雑談会になってしまうだろう。今まさにその状況だ。日常の雑談で停滞するのは甘美だろうけど、進まない原稿と宿題は現実である。
しかし、休憩も必要だ。人は働きすぎると死ぬのだから。
それは後輩も分かっている様で……。
「休憩時間ですよ。先輩、私を構ってください」
訂正。彼女は、己の欲に忠実らしい。
ふと目を逸らした先にはカレンダーが飾られていて、そういえば今日は陸上の練習の日である事を思い出した。目の前の後輩はこうして私とお茶をしている暇はない筈だし、何時も通りの食事管理をしているようには見えない。まあ、それでも如何にか勝ってしまう運動神経があるのだからこの学園も手放せないのだろうが……。
サボりはよくない。
そんな意識を、瞳に含めた。
「……陸上は?」
「ばっちりです。意外と走るのは得意なので」
__となれば、此方はさいですかとしか言えない。
所で話に戻るが、何故この後輩は失踪事件の話を投げかけたのだろう?生憎交友関係に優れている訳では無いからか聞いた事は無い。私の注目を引かせる話題としても……少し、変だ。
「失踪事件?この辺りで?」
「この学校の生徒が連れ去られたらしいですよ?__しかも、それは」
妙に聲を落とした七井後輩が、耳元で呟く。
「如何やら、校内での惨事だそうで」
他の学校と比べれば、この学園は警備に力を入れている方だと思う。一般の人に解放されているという子のカフェテリアでさえ、事務所にあるネームプレートが無ければ利用できないし、それほど往来が激しいという程でもない。敷地内での誘拐やらならば、心理的にも重いだろう。
「__少なくとも、誘拐ではなさそうだね」
「ま、先輩には関係なさそうですけど」
「なんで?」
「先輩友達少なそうだし」
正論は時折、人を殺すと後輩は学ぶべきだ。
「……それも褒め言葉ですかね?」
「そう言う事にしてください。少なくとも、私は安心していますよ。先輩が犯人じゃないって分かっているから」
「…」
私には、頼ってもいいという言葉が足りなかった。
その信頼ともからかいとも取れる言葉を、彼女は笑って口にした。
その言葉を最後に、彼女は屋上から飛び降りた。
本当に、信頼はあったのだろうか?
本当に、私達は友達だったのだろうか?
伝えられなかった言葉は多くて、一言でまとめる事は出来ない。
伝えられなかった言葉が多すぎて、私は一言さえも答えられなかった。
それでいて正解を答える事が出来なかったから、私は言葉を失ったのだろう。
私には、言葉が足りなかった。
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