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朱色を視しては一人待つ
朱色を視しては一人待つ11
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七井家と四方木の関連性が友人関係以外の何物でもないとしたのなら、この話には矛盾がある。
おそらく彼女は自殺か学園の暴力行為に巻き込まれた被害者だ。そしてその正体は、恐らく地縛霊の類だろう。制限があるからこそ一人で離れる事が出来ず、私を待っていた。
なら、彼女に七井家への怒りは無いのか?
この事態を起こしたのは七井家ではない。学園の崩壊の原因は、貯蔵された異品の影響だとしても否めない。そんな中、畑違いとは言え静観の立場を貫いた専門家。七井家を恨んだ事は無いのか?
屋上の幽霊が七井家の者ならば、彼らは対応をしていたのかもしれない。然し、潰れるまで奇奇怪怪の貯蔵に対して見当はついても対策が出来なかった七井家を見限る事もあったはずだ。犠牲者は出て、成果を得なかったのだから。
そして何より、七井家は彼女達を縛ったままこの場所を管理している。
四方木は理不尽さに八つ当たりもせず、二十年もこうして居る。
それでも信頼をしていた屋上の幽霊は一体、どんな友人だったのだろう。
「分かりました。兎も角。依頼は、貴方を連れて七井さんに会いに行くという事でよろしいでしょうか?」
「先輩、その言い方は語弊になりませんか?」
「区別できているからいいでしょ?」
「私が許せません」
それが抗議であるとでも言うように七井後輩が膨れたのでその頬に人差し指を付く。
まるで潰れた餅の様にしぼむ頬を見ながら、彼女は続ける。
【__よろしくお願いします】
七井後輩のやる気のない応援を背に、私と彼女はその場を後にした。
__なんて、スルースキルは持ち合わせていない。元凶の、脱兎のごとく逃げようとした後輩を捕まえ、比較的穏やかな表情に青筋を立ててみて事情を釈明を要求する。
もちろんこれには拒否権など存在しない。ホラーで涼しくなんて提案をしたのは後輩であり、此処まで私に面倒事を押し付けたのも彼女だ。その身をもって説明と事情を吐く義務が生じている。
”図書館を出るには先輩だけでなくてはならない”なんて曖昧な理由を信じる訳も無いが、その後、彼女の特性が関係していると続けられれば大人しく引き下がるしかなかった。
そもそも、足と腕があるのだから通常の人間であれば息を切らす事も無くここから出れるはずなのだ。それが出来ないという事は何かしらの縛りが存在するのだろう。
……という訳で。
【__大したことではないんですよ。本当は】
今は二人。
口数が少なく面白い話も提供できないなんて謙遜を貫く彼女に対して、初対面にありがちな気まずい沈黙が続くと少しばかり危惧していたのだが、その心配はこの学校や後輩の話をするにつれて薄れていった。四方木は後輩が時折差し入れる最近の書籍にもはまっており、話題の快作からマニアックなものまで話題作りに余念がない。
この学園での珍妙な奇譚さえも暇つぶしになり、そして次の話は……。
四方木と後輩の話になった。
「私は、何も言えなかった。下らない話で時間を潰してしまった。言わなければいけない言葉がたくさんあったのかもしれない。聞かなきゃいけない言葉がたくさんあったかもしれない。それを聞く事もしなかった。私は、彼女の事情を何も知らなかった」
様々な話を聞いた。
その多くには、後輩である七井友里の話題で埋もれていた。それ程彼女との思い出が色濃く残っていたのだろう。死体になっても、幽霊になっても色褪せなかった思い出だったのだろう。
【ただの先輩だったかもしれない。もしかしたら、友達だったかもしれない。そんな事さえ聞けなかったけれども、私にとっては大切な友人だったんです】
一つ息を吐いて、先輩幽霊は続ける。
自分が抱いている思いは、後輩に届かなかったのかもしれない。そんな諦めとも、懺悔ともとれる重い嘆息が耳に残った。
【私には、言葉が足りませんでした】
後悔だけが残っている。
そんな、重い感情だ。
【おしゃべりが過ぎました、独り言になって申し訳ありません】
伝えたい言葉があるのなら、それを言うのは私ではない。
そして彼女はそれを伝えようとしている。其処に私が関わる必要はない。
入り込む余地など無いのだから。
「そういえば、扉を開けると出現する幽霊がいるのでは?」
【大丈夫ですよ。七井さんにはいっていませんでしたが、実は確認をする方法があります】
「__それは?」
「トイレの花子さんと同じですよ。三回ノックです」
屋上の階段に踏み入る。
最上階までの道のりは遠からずとも、今までの疲労が身に染みる。
私はあまり運動が得意な人間ではない事を、身を知って思い出させてくれる。ガス欠気味の体を無理やり動かしながら、階段の感触を確かめる。
「ノック。もしくは返事が聞こえるといった具合ですか?」
【ええ。彼女は完全に扉を開けるまでランダムで移動していますが、校舎内限定でこの方法を使えば居場所を特定できます】
「後輩に教えなかった理由は?」
【自分で解くと言って聞かなかったもので】
実に七井後輩らしい答えだ。
【彼女以外にも、この学園で働く者たちを我々は形式上”学芸員”と呼んでいます。地下室の遺品により殺された被害者や、その影響の巻き添えを食らったモノが異形となった姿です】
司書というには物騒な人達だけれど、まあ金輪際関わらない事を祈るしかない。
階段を進めば、物静かさの中で何者かが動く気配が漂っている。先程の司書かもしれないが、大人しく登り切るのが先決だと、気持ち速足で進んだ。
先には、一つの扉が見える。
【ここを上がれば、屋上まで一直線です】
「__そういえば思うのですが、何故私が必要なのですか?」
【一番の理由は、私を人間として認識している協力者が必要だったから】
「あまり考えてはいけない理由の様ですね」
【本当に察しが良くて助かります。私とは違って】
それが後輩の言った特性に基づいているのだろう。
詮索はご法度という訳だ。
【ごめんなさい。自虐的になってしまうのは私の悪い癖なんです。直そうと思っても中々直せない癖の様なもので】
「気にしていないですよ」
【ありがとうございます。それともう一つ】
【あなたが所持する心臓の力を、借りさせてください】
おそらく彼女は自殺か学園の暴力行為に巻き込まれた被害者だ。そしてその正体は、恐らく地縛霊の類だろう。制限があるからこそ一人で離れる事が出来ず、私を待っていた。
なら、彼女に七井家への怒りは無いのか?
この事態を起こしたのは七井家ではない。学園の崩壊の原因は、貯蔵された異品の影響だとしても否めない。そんな中、畑違いとは言え静観の立場を貫いた専門家。七井家を恨んだ事は無いのか?
屋上の幽霊が七井家の者ならば、彼らは対応をしていたのかもしれない。然し、潰れるまで奇奇怪怪の貯蔵に対して見当はついても対策が出来なかった七井家を見限る事もあったはずだ。犠牲者は出て、成果を得なかったのだから。
そして何より、七井家は彼女達を縛ったままこの場所を管理している。
四方木は理不尽さに八つ当たりもせず、二十年もこうして居る。
それでも信頼をしていた屋上の幽霊は一体、どんな友人だったのだろう。
「分かりました。兎も角。依頼は、貴方を連れて七井さんに会いに行くという事でよろしいでしょうか?」
「先輩、その言い方は語弊になりませんか?」
「区別できているからいいでしょ?」
「私が許せません」
それが抗議であるとでも言うように七井後輩が膨れたのでその頬に人差し指を付く。
まるで潰れた餅の様にしぼむ頬を見ながら、彼女は続ける。
【__よろしくお願いします】
七井後輩のやる気のない応援を背に、私と彼女はその場を後にした。
__なんて、スルースキルは持ち合わせていない。元凶の、脱兎のごとく逃げようとした後輩を捕まえ、比較的穏やかな表情に青筋を立ててみて事情を釈明を要求する。
もちろんこれには拒否権など存在しない。ホラーで涼しくなんて提案をしたのは後輩であり、此処まで私に面倒事を押し付けたのも彼女だ。その身をもって説明と事情を吐く義務が生じている。
”図書館を出るには先輩だけでなくてはならない”なんて曖昧な理由を信じる訳も無いが、その後、彼女の特性が関係していると続けられれば大人しく引き下がるしかなかった。
そもそも、足と腕があるのだから通常の人間であれば息を切らす事も無くここから出れるはずなのだ。それが出来ないという事は何かしらの縛りが存在するのだろう。
……という訳で。
【__大したことではないんですよ。本当は】
今は二人。
口数が少なく面白い話も提供できないなんて謙遜を貫く彼女に対して、初対面にありがちな気まずい沈黙が続くと少しばかり危惧していたのだが、その心配はこの学校や後輩の話をするにつれて薄れていった。四方木は後輩が時折差し入れる最近の書籍にもはまっており、話題の快作からマニアックなものまで話題作りに余念がない。
この学園での珍妙な奇譚さえも暇つぶしになり、そして次の話は……。
四方木と後輩の話になった。
「私は、何も言えなかった。下らない話で時間を潰してしまった。言わなければいけない言葉がたくさんあったのかもしれない。聞かなきゃいけない言葉がたくさんあったかもしれない。それを聞く事もしなかった。私は、彼女の事情を何も知らなかった」
様々な話を聞いた。
その多くには、後輩である七井友里の話題で埋もれていた。それ程彼女との思い出が色濃く残っていたのだろう。死体になっても、幽霊になっても色褪せなかった思い出だったのだろう。
【ただの先輩だったかもしれない。もしかしたら、友達だったかもしれない。そんな事さえ聞けなかったけれども、私にとっては大切な友人だったんです】
一つ息を吐いて、先輩幽霊は続ける。
自分が抱いている思いは、後輩に届かなかったのかもしれない。そんな諦めとも、懺悔ともとれる重い嘆息が耳に残った。
【私には、言葉が足りませんでした】
後悔だけが残っている。
そんな、重い感情だ。
【おしゃべりが過ぎました、独り言になって申し訳ありません】
伝えたい言葉があるのなら、それを言うのは私ではない。
そして彼女はそれを伝えようとしている。其処に私が関わる必要はない。
入り込む余地など無いのだから。
「そういえば、扉を開けると出現する幽霊がいるのでは?」
【大丈夫ですよ。七井さんにはいっていませんでしたが、実は確認をする方法があります】
「__それは?」
「トイレの花子さんと同じですよ。三回ノックです」
屋上の階段に踏み入る。
最上階までの道のりは遠からずとも、今までの疲労が身に染みる。
私はあまり運動が得意な人間ではない事を、身を知って思い出させてくれる。ガス欠気味の体を無理やり動かしながら、階段の感触を確かめる。
「ノック。もしくは返事が聞こえるといった具合ですか?」
【ええ。彼女は完全に扉を開けるまでランダムで移動していますが、校舎内限定でこの方法を使えば居場所を特定できます】
「後輩に教えなかった理由は?」
【自分で解くと言って聞かなかったもので】
実に七井後輩らしい答えだ。
【彼女以外にも、この学園で働く者たちを我々は形式上”学芸員”と呼んでいます。地下室の遺品により殺された被害者や、その影響の巻き添えを食らったモノが異形となった姿です】
司書というには物騒な人達だけれど、まあ金輪際関わらない事を祈るしかない。
階段を進めば、物静かさの中で何者かが動く気配が漂っている。先程の司書かもしれないが、大人しく登り切るのが先決だと、気持ち速足で進んだ。
先には、一つの扉が見える。
【ここを上がれば、屋上まで一直線です】
「__そういえば思うのですが、何故私が必要なのですか?」
【一番の理由は、私を人間として認識している協力者が必要だったから】
「あまり考えてはいけない理由の様ですね」
【本当に察しが良くて助かります。私とは違って】
それが後輩の言った特性に基づいているのだろう。
詮索はご法度という訳だ。
【ごめんなさい。自虐的になってしまうのは私の悪い癖なんです。直そうと思っても中々直せない癖の様なもので】
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【あなたが所持する心臓の力を、借りさせてください】
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