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霜が降る
霜が降る5
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かの歴史的建築物を訪れた際には、時刻は16時を回っていた。
遠目から見ても圧巻の塀に囲まれた敷地、一瞥しただけでは温泉旅館に見間違えるようだ。
ご立派な邸内には、天家自慢の瓦屋根の年代を思わせる建物が聳え立っている。二階部分は無い物の一階部分でも相当な広さで、ある時には地域の住民を呼んで親睦を深めたりなど、広大な庭は地域行事にも使われる事がある程にとてつもない。
猫の探偵は我が実家と比べたがるが、未だ未開の地があるご実家と比べてもその庭は整えられており、その景観にどれ程の心血を注いだのかは語るまでも無いだろう。
立派な門に備えられたインターフォンを鳴らすと、何処か間の抜けた声と共に見覚えのある小さな影が扉を開けた。そのご仁は依頼主の妻である天仲子。通称、ナカさんと呼ばれるおっとりとした女性だ。時折東北の訛りが残る心優しき女性であり、畑を耕しては野菜などをおすそ分けしてくださるご近所の先輩である。
「寒い中、どうもすいませんね。巣立さん、名護ちゃん。主人は生憎祭りの用で出かけておりまして。こちらが蔵のカギです。急奈ですが、今日は早く帰るようで五時ごろには見えるかしら?」
こんな場所では何だろうと通された先の居間。
手厚い歓迎と共に、差し出されたカギは机に置かれる。
温かいお茶と共に出されたお菓子に夢中の探偵を横目に、足元がおぼつかなかった彼女へ声を掛けた。風の噂によれば、体調を崩してしまったと聞いている。夏の間は畑仕事に精を出しているとはいえ、冬の寒さは身に染みるものだろう。御高齢な事もある。
天先生の依頼は蔵の現象の解明だが、この方は普通の人間であり異常な物を知らない一般人だ。故に、敷地内にある蔵の掃除の手伝いに来ていると嘘を言って誤魔化している。私が個人的に急奈と親しい関係である事もあり、猫探偵が餌付けされた飼い猫という訳もあり、彼女は疑いの余地なく信じているようだ。
「こちらこそ、ご依頼有難うございます。体調大丈夫ですか?ナカさん」
「お陰様で。最近は調子が良くて早朝の散歩を欠かせませんよ」
そう言いながらにこやかな表情を崩さない。
渡り廊下から見えた庭には、依頼主自慢の池と桜の木が景観を着飾っている。春になればそれなりの表情を見せる情景も、色彩が無いだけでこれほど寂しい。
「ナカ婆、あんまり無理しなくてもいいんだよ。この前も倒れたって話していたでしょ?」
「お恥ずかしながら。でも今は大丈夫ですよ、名護ちゃん。それにしても蔵の掃除だなんて。あそこには何もないんですがね。年末にも少し早いし、あまり迷惑になるようなら大丈夫ですよ?」
「いえいえ。猫の探偵の運動のついでみたいなものです。それに文化財の保全も立派な仕事ですよ」
「__そういえば、名護ちゃん。ちょっと」
彼女をじっと見つめるナカさんに、猫の探偵は少し怒ったように頬を含ませながら答える。
「太っていない!!」
実際には二キロほどの増量だ。
ナカさんが慌てた様に言葉を訂正し、彼女の機嫌を取り戻そうと悪戦苦闘する姿がどうにも微笑ましかったモノで、助言を挟もうとしていた意志は、余計な事を挟む物に置き換えられていた。
「いえ、お淑やかになったと思って」
「そうであったら楽なんですけどね」
何処か含みがこもったような答えも、きっと彼女にとっては本心に過ぎないのだろうな。
「私は居間に居ますので、分からない事があれば声を掛けてください。__あいにく、直ぐにとはいきそうにありませんが……」
「いえいえ、御心配には及ばないよ。こう見えて私の助手はだからね」
「それは頼もしいです」
「という訳で助手君。頼むよ」
「あなたも働いてください」
嘆息をつき、私は机の上に置かれたカギを拝借する。
南京錠に相応しい厳かな重みを確かに感じつつ、私は席を立って茶の礼を口にした。
問題の蔵は中庭に聳えており、母屋とは少し離れている。
そもそも火事などでの被害を最小限に抑える為の措置である為に、猫の探偵の愚痴こそ要領を得ない。そんな雑談に花を咲かせながら扉の前までくれば、一度見た時とは違い、その貫禄が年を跨いで一段と凄みを増していたように思えた。
「景観は立派だが、やはり少し埃っぽいな」
「一応掃除の体ですからね?」
「分かっているよ。で、助手君。先程の言葉に違和感はなかったか?」
中へと入れば、天先生がおっしゃられていた異常が出迎える。
多少の寒さはあるが、外の気温と比べれば少し暖かい程度だ。だが、しかし。中の一切が凍り付いている。血被いて触れてみれば、霜の様なものが張り付いているといった感じか。
探偵もその後へと続いた。
「蔵についての言及ですか?ですがそれは」
「ああ。あの言い方ではいつ何時の話であるかは分からんな。だが」
彼女は言葉を詰まらせる。
どこか、思案しているように見える。
「彼女は掃除についての言及で、”年末でもないのに”という言及をした。ナカ婆はこの家の掃除を昔から一手に行っている。あの庭の管理をしているのもナカ婆だよ。
そんな人間が、今は使用していないとはいえ”この場所だけを放っておくだろうか?」
「__確かに、十五年積み上げてきた埃って感じじゃありませんね」
「精々が古本屋程度の香りだろ?つまり、だ」
探偵の言う通り、中の様相は凍り付いている者は有るモノのそこまで埃っぽさはない。定期的に掃除をしているかのような清潔感がある。埃が凍り付いてしまったから?__いや、違う。それならそれで凍り付いてしまった埃が見当たるはずだ。
「ナカ婆はこの異常性を知っている。少なくとも、十五年ぶりに中を覗いた天先生とは違い、ね」
遠目から見ても圧巻の塀に囲まれた敷地、一瞥しただけでは温泉旅館に見間違えるようだ。
ご立派な邸内には、天家自慢の瓦屋根の年代を思わせる建物が聳え立っている。二階部分は無い物の一階部分でも相当な広さで、ある時には地域の住民を呼んで親睦を深めたりなど、広大な庭は地域行事にも使われる事がある程にとてつもない。
猫の探偵は我が実家と比べたがるが、未だ未開の地があるご実家と比べてもその庭は整えられており、その景観にどれ程の心血を注いだのかは語るまでも無いだろう。
立派な門に備えられたインターフォンを鳴らすと、何処か間の抜けた声と共に見覚えのある小さな影が扉を開けた。そのご仁は依頼主の妻である天仲子。通称、ナカさんと呼ばれるおっとりとした女性だ。時折東北の訛りが残る心優しき女性であり、畑を耕しては野菜などをおすそ分けしてくださるご近所の先輩である。
「寒い中、どうもすいませんね。巣立さん、名護ちゃん。主人は生憎祭りの用で出かけておりまして。こちらが蔵のカギです。急奈ですが、今日は早く帰るようで五時ごろには見えるかしら?」
こんな場所では何だろうと通された先の居間。
手厚い歓迎と共に、差し出されたカギは机に置かれる。
温かいお茶と共に出されたお菓子に夢中の探偵を横目に、足元がおぼつかなかった彼女へ声を掛けた。風の噂によれば、体調を崩してしまったと聞いている。夏の間は畑仕事に精を出しているとはいえ、冬の寒さは身に染みるものだろう。御高齢な事もある。
天先生の依頼は蔵の現象の解明だが、この方は普通の人間であり異常な物を知らない一般人だ。故に、敷地内にある蔵の掃除の手伝いに来ていると嘘を言って誤魔化している。私が個人的に急奈と親しい関係である事もあり、猫探偵が餌付けされた飼い猫という訳もあり、彼女は疑いの余地なく信じているようだ。
「こちらこそ、ご依頼有難うございます。体調大丈夫ですか?ナカさん」
「お陰様で。最近は調子が良くて早朝の散歩を欠かせませんよ」
そう言いながらにこやかな表情を崩さない。
渡り廊下から見えた庭には、依頼主自慢の池と桜の木が景観を着飾っている。春になればそれなりの表情を見せる情景も、色彩が無いだけでこれほど寂しい。
「ナカ婆、あんまり無理しなくてもいいんだよ。この前も倒れたって話していたでしょ?」
「お恥ずかしながら。でも今は大丈夫ですよ、名護ちゃん。それにしても蔵の掃除だなんて。あそこには何もないんですがね。年末にも少し早いし、あまり迷惑になるようなら大丈夫ですよ?」
「いえいえ。猫の探偵の運動のついでみたいなものです。それに文化財の保全も立派な仕事ですよ」
「__そういえば、名護ちゃん。ちょっと」
彼女をじっと見つめるナカさんに、猫の探偵は少し怒ったように頬を含ませながら答える。
「太っていない!!」
実際には二キロほどの増量だ。
ナカさんが慌てた様に言葉を訂正し、彼女の機嫌を取り戻そうと悪戦苦闘する姿がどうにも微笑ましかったモノで、助言を挟もうとしていた意志は、余計な事を挟む物に置き換えられていた。
「いえ、お淑やかになったと思って」
「そうであったら楽なんですけどね」
何処か含みがこもったような答えも、きっと彼女にとっては本心に過ぎないのだろうな。
「私は居間に居ますので、分からない事があれば声を掛けてください。__あいにく、直ぐにとはいきそうにありませんが……」
「いえいえ、御心配には及ばないよ。こう見えて私の助手はだからね」
「それは頼もしいです」
「という訳で助手君。頼むよ」
「あなたも働いてください」
嘆息をつき、私は机の上に置かれたカギを拝借する。
南京錠に相応しい厳かな重みを確かに感じつつ、私は席を立って茶の礼を口にした。
問題の蔵は中庭に聳えており、母屋とは少し離れている。
そもそも火事などでの被害を最小限に抑える為の措置である為に、猫の探偵の愚痴こそ要領を得ない。そんな雑談に花を咲かせながら扉の前までくれば、一度見た時とは違い、その貫禄が年を跨いで一段と凄みを増していたように思えた。
「景観は立派だが、やはり少し埃っぽいな」
「一応掃除の体ですからね?」
「分かっているよ。で、助手君。先程の言葉に違和感はなかったか?」
中へと入れば、天先生がおっしゃられていた異常が出迎える。
多少の寒さはあるが、外の気温と比べれば少し暖かい程度だ。だが、しかし。中の一切が凍り付いている。血被いて触れてみれば、霜の様なものが張り付いているといった感じか。
探偵もその後へと続いた。
「蔵についての言及ですか?ですがそれは」
「ああ。あの言い方ではいつ何時の話であるかは分からんな。だが」
彼女は言葉を詰まらせる。
どこか、思案しているように見える。
「彼女は掃除についての言及で、”年末でもないのに”という言及をした。ナカ婆はこの家の掃除を昔から一手に行っている。あの庭の管理をしているのもナカ婆だよ。
そんな人間が、今は使用していないとはいえ”この場所だけを放っておくだろうか?」
「__確かに、十五年積み上げてきた埃って感じじゃありませんね」
「精々が古本屋程度の香りだろ?つまり、だ」
探偵の言う通り、中の様相は凍り付いている者は有るモノのそこまで埃っぽさはない。定期的に掃除をしているかのような清潔感がある。埃が凍り付いてしまったから?__いや、違う。それならそれで凍り付いてしまった埃が見当たるはずだ。
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