快気夕町の廃墟ガール

四季の二乗

文字の大きさ
28 / 33
霜が降る

霜の証明

しおりを挟む
「池を作りましょう」

 旅行というには、心身ともに疲れが溜まるばかりだった。
 開けた日数を過ぎれば、如何やら寝込んだ時間の方が多かったようだし、その残りの日数も雪の元にある静寂とは程遠い喧騒の中で過ごす事となった。
 そんな騒がしい旅行から帰れば、見覚えのある顔も隣に着いてきたようだった。

 それは何時しか我が家へ居候する事となり、騒がしい日々は持ち越される事となった。
 以外にも、両親は彼女の事に対して周知していたようで、北方の馴染みある旅館の跡目である事を彼女の口から話せば懐かしそうな話題作りは尽きなく、強いては旅館の事について学ばせてほしいと答えれば、是非の一言で話は進んだ。
 そんな彼女は、今では元兄の部屋を借りて旅館経営のイロハについて叩きこまれているようだ。愚兄からはシャイだなんて言われていたが、その様子は影も形も無い。

「何故?」
「鯉とか泳がせて、橋をかけるのもいいですよね。それと、桜を植えるのもいいですね。春先になればとてもきれいな桜吹雪が見えると思うのですが」

 ご両親に相談してみましょうか?
 等と、余計な口を挟む物だから。その口を塞いでやろうかなんて本気で考える始末だ。

「__急に何を言い出す?」
「嫌いですか?鯉」
「そう言う話では無くてな?」
「天先生と約束したんです。もし、嫁いでくれたら庭を好きに使ってもいいって」

 天先生とは、この奇怪な状況を作り出した愚兄の事だ。
 何を思ったのか、翌日大金とともに送られたこの娘は俺の隣の部屋で生活を共にしている。学業の合間に挟んでいる新聞配達のバイトから帰ると、何時も彼女は笑顔で迎えてくれるのだが。
 
 唐突な話題に面を食らい、その先にある思案さえも考察するが気の迷いという結果のみが付きまとう。あの険悪な長兄と両親の間柄で、どうやって嫁ぐという発想に至るのだ?

「__あくまで、お客様だ。愚兄が置いていった」
「神様ですよ。失礼な言い方をすると祟ってしまいます」

 お客様は神様だというが、比喩表現だろうと否定してやる。

「……面倒くさい置き土産を残したもんだ」
「どこへ行くんですか?」
「勉強だ。付いてくるな」
「私も、お供しますよ」
「お供しなくて結構。袖を引くな、泣き真似をするな。__ああ、鬱陶しい」

 如何やら彼女は何気ない会話に凝っており、庭の管理も好きにしたらいいと無視しようとすれば様々な情緒を以て俺を引きこもうと画作を披露する。その駄々の前には、論理的な否定も意味を成さない。大人しく引き下がるという選択肢も無い為に、それは何時しか言い合いに発展するものだ。

「うるさい、五月蠅い。神様だというのなら、軌跡でも起こして見せろ」

 余りにもしつこいので手を扇げば、その証明とでも言うようにその手を取った。
 人の手とは思えない凍えそうなその手が、彼女が異端な物であると証明している。これが、”証明”という事だろう。冷徹等という比喩表現はあれど、人の体温がマイナスを下回る事は無い。体温が奪われていくその手が彼女が人外である事を証明している。

 それはどれだけ確実な事だろうか?

 人間ではない。その一点においての証明としては、これ以上の証明は無い。分かっている事とは言え、実際の冷たさに手を引きそうになった所を、余分なプライドが押しとどめる。ここで引く事は彼女の思案に乗ると同義だろう。

「どうです?神様でしょ?」
「雪女だろ」
「そうとも言いますね。でも、雪女は不幸の塊なんです」

 雪女は不吉の象徴だという。
 それは雪女に関するどの文献も、愚兄が言うようにロクな終わり方をしていない事が原因の一端を担っている。その殆どが自分の親しい者を凍らせ、北方の雪の下で埋める結末に至るのだ。だからこそ、その性質を持つ彼女は雪女という言葉が嫌いで、自身を神様だと自称する。
 不幸の象徴だからこそ、その名称が嫌いなのだろう。
 俺にだって、その言葉に理由が詰まっていることぐらいは察せられる。
 だが、生憎だ。主語に違いはない。何と呼ばれ様とも、この娘を確立するのは名前ではない。愛称は、愛称に他ならない。それを気にしている時点で、彼女は負けている。

 そんな事よりもやるべきことが他にあるのだ。

「なら、神様と言い直した方がお得ではないですか?」
「主語に違いなどあるか、ナカ。俺は、愚兄の分まで勉学に励まなければならんのだ。邪魔をするくらいなら、茶でも入れたらどうだ」
「お茶、ですか?」

 戸棚を指さし、俺は答えた。

「田舎八百万の一般雪女でもそれ位は出来るだろ」
「神様を顎で使うなどと不敬物ですね。仮にも、命の恩人ですよ?」
「それもこれも、お前が居なかっただからだろうに」
「__それは、すいません」

 理由があったのだと答える彼女に、サボタージュのせいで凍り付きそうになった体験談を着色込みで説明した。それに対して、何処か着色があったのだろう説明を挟む彼女。熱に乗せられ、唯の会話は議論とも呼べない言い合いに発展していく。
 それが冷めた頃には、心臓の脈は自身の熱がどれほど高ぶっていたかを自覚させ、熱を逃がすように嘆息を吐くには十分な理由となっていた。

「……とにかくだ、私は勉学に励むから庭先にでも遊んでいろ。集中できん」
「……高血圧」

 血管がはち切れそうになった原因の一端が、何を言う。

「誰が高血圧だ」
「いくじなし」

 泣いた演技も似合わない。
 幼稚な演技の間にこちらを見てくるものだから、こみ上げそうになった熱も冷めるという物だ。
 正直キリがない。そしてそれを彼女は狙っている節もある。
 教養が無いと思いきや、人を誑かす事に対しては一流の素質をお持ちの様だ。

「__お前はホント、見た目に寄らず悪辣だな」
「可愛いという事ですか?」
「悪魔だという事だ」

 隣人は今日も悪辣に笑い。





 そして隣人は、何時しか隣になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。 この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...