隣の彼女

沢麻

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小悪魔

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 「なんか、馴染めない。クラス」
 「!」
 茉莉沙が言った。わかっていたのに、万夢は酷なことを訊いたのかもしれない。
 「まぁ、もともとみんなでワイワイってタイプじゃないから」
 「……そっかー。公園なんて嫌だね、それじゃ。なんかうちらって、いつも集まって遊んでるからさ。マリサ来ないから、馴染めないのかなーとか思っちゃったけど……」
 うちら。仲間外れにされてるのに、万夢は主流で茉莉沙はマイノリティだとさりげなく格付けた自分が嫌になる。違うの。こんなこと言いたいんじゃなくて。
 「……でも私も最近うんざりなんだー。なんか、スマホ持ってから色々ややこしくてさ、慌てて買ってもらわなくてもよかったかも、その方がみんなと仲良くできたかもとさ思ったりしてさぁ」
 なんだか勝手に愚痴が出た。こんなの誰かに聞かれたらどうしよう。茉莉沙とむこうが繋がっていないからって、都合のいい吐き出し口にしてしまったかも。しまいに泣きそうになっている。仲間外れって辛い。でも、それってあんたのせいだよ。茉莉沙がそんな髪の毛だから、みんなに合わせないから、私まで。
 「わかるよ」
 「え?」
 「私、そーゆーのめんどくさいから、最初から入らないようにしたくて、こんな髪の毛にした」
 「……そうなんだ」
 茉莉沙は無表情だったが、口調がいつもより優しい感じがした。慰めてくれたのかもしれない。
 更に茉莉沙はそこからいきなり重い話をした。
 「離婚して引っ越してきたからさ、色々立場弱くなるでしょ」
 「えっ! そうなんだね」
 「ほんとはスマホも持ってる。でも、クラスのラインは怖くて入りたくない」
 「そうなんだ!」
 茉莉沙は孤独で辛いだろうとは思っていたが、孤独に耐えられるように武装しているのだ。だから堂々としていて、平気なのだ。しかし本心はあっち寄りの万夢は、心を開かれてこんな話をされて複雑だった。みんなの知らない茉莉沙を知っている。でも、それっていじめのネタじゃない?
 どちらからもライン教えて、という流れにはならなかった。その前に、優吾が走ってやってきたからだ。
 「よっ! トイレ掃除チーム!」
 「え、なんでいるのアンタ」
 「忘れ物忘れ物」
 ホッとした。優吾がいるから、クラスでもまだ居場所がある。
 「関口、万夢はちゃんと教えてくれてるか? こいつスマホしょっちゅう没収されていじけて酷いだろ」
 「ちょっと何それ」
 しかし優吾はまだ茉莉沙と親しくなることを諦めていないらしい。これ以上優吾が嫌われるのが嫌で、万夢は茉莉沙と優吾を近付けたくなかった。
 「没収されんの?」
 茉莉沙は優吾を無視して万夢に訊いた。
 「あぁー、まぁご飯の時に使ってたり、スマホばっかりして風呂や宿題遅くなると没収されるかなハハハ。酷いよねうちの親」
 「……まともな親だと思うけど」
 「そうかな」
 「スマホ買い与えて、あとは放置って親より、ずっといいんじゃないかな」
 それもそうだった。茉莉沙はひょっとしたら、まともじゃないほうの親なのかもしれない。しかしそういう親のほうが今の万夢には羨ましく思える。
 
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