隣の彼女

沢麻

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幼馴染

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 受験が嫌であってほしいというのは、優吾の願望だった。万夢が志し高く南栄を希望しているとは、あの頭を見ても到底思えない。何を意地を張っているのか。
 なんだかもう少しうろうろしたくて、今度は関口の家の方に行った。相変わらずの佇まいだ。関口の部屋は閉めきられていたが、中に人がいる気配がした。インターホンを押そうかどうしようか迷って、優吾は帰ることにした。
 万夢と関口は、いつもどんなことを話しているのだろうか。
 
 連休が明けた。
 連休明けから、最後の学習発表会への取り組みが始まってくる。劇の配役、練習と、忙しくなる。
 万夢は黒髪に戻っていた。しかしなんだか墨汁のような、ずしっと重い色に見えた。ブリーチは髪が傷むようで、パサパサになったようにも感じた。触れないでいたほうがいいのかもしれなかったが、優吾はやはり声をかけてしまった。
 「カラスみたいな色になったな」
 「うるさい!」
 万夢はいつものように叩いてきた。よかった。なんとなく元通りか。怒ってはいないようだ。
 「劇の台本見た?」
 「さっき配られたばっかでしょ」
 優吾は配られたそばからどんどん読み、もう読破していた。劇はなんと、いじめや派閥があったクラスが異世界にトリップして冒険し、絆を深め仲良くなって日常に戻るというストーリーだった。まさか南川先生が書いたのかな。いや、まさかな。
 「役のオーディションは来週だな。みんな何の役受けるのかなーと思って」
 優吾は他にも台本を読んでいそうなクラスメイトに声をかけて調査した。潤二郎は怪物役を、アイラは先生役をやりたいと言う。
 「優吾はこれでしょ。主人公のさ、コウキ」
 「うんうん、絶対これ優吾のイメージ!」
 スマホ女子たちを優吾をヒーローに推してきた。優吾もなんとなくそう感じたが、コウキ役は優吾のためにあるようにキャラがぴったりだった。しかし優吾は、異世界の魔王役がいいなと思った。クラスを引っ張ってまとめるのは疲れた。壊して作り直す、こっちのやり方のほうが魅力的だ。
 「関口はー? 何の役やりたい?」
 優吾は関口にも訊いてみた。だいぶオレンジ色の根本が黒い。
 「魔王」
 「えっ!」
 「……これ、私のための役かと思ったけど」
 ……。確かに。優吾がいいと思ったのも頷ける。「魔王」と言った関口に、普段は話しかけないクラスメイトたちが「合うね!」「やりなよ」などと声をかけた。
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