隣の彼女

沢麻

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幼馴染

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 優吾は帰りに自宅を通り越して、万夢の家まで来た。家族が多い割には小さめの家だ。インターホンを押すと悠平とその弟の基史がドアを開けてくれた。
 「優吾優吾、大変だ」
 二人は騒いでいた。
 「どうした?」
 「いいからいいから」
 二人は優吾の右と左の袖をそれぞれ引っ張って、万夢の部屋まで連れてきた。ちなみにこのきょうだいで自分の部屋があるのは万夢だけで、弟たちは共同で一部屋、妹に至っては部屋なしである。
 悠平が万夢の部屋をこっそり開けると中から「開けんな!」と怒声が聞こえた。荒れている。
 「万夢ー」
 優吾は声をかけた。一体何が起こっているのかわからないが、とりあえず万夢と久しぶりに話がしたいと思ったのだ。
 「えっ、優吾? やだ来ないで」
 「やだってなんだよ」
 優吾は部屋に踏み込むと、悠平が「あとよろしく、見ればわかる」と耳打ちして逃げていった。万夢は布団を被っている。見えん。
 「おーい!」
 優吾は容赦なく布団をむしりとった。すると、中から金色から焦げ茶色までがまだらになったマーブル頭の万夢がいた。
 ……ブリーチ使ったんだ。
 よく見ると肩が小刻みに震えていた。泣いているようだった。
 「……あのー、久しぶりに仲良く話そうと思ってお邪魔したのですがー」
 なんだよその頭、って言って大笑いしたほうがいいのか。それとも失敗を慰めたほうがいいのか。それとも説教したほうがいいのか、無視したほうがいいのか。物凄く難しい。
 万夢が顔を上げた。目が合ったので、つい「なんだよその頭ギャハハハハ」と笑ってみたら枕が飛んで来た。
 「うるさい! なんで来たの?」
 「だから久しぶりに仲良く話そうと……スマホも買ったしさぁ」
 「じゃあどうしてラインで先に連絡してこないわけ? いきなりやってこないで」
 「今まではいきなり来てたじゃねーか」
 万夢は今度は枕を凶器にして優吾を袋叩きにしてきた。理不尽な暴力だが、女子相手だとこういう展開にはよくなる。二分あまりか、叩き続けていた万夢の手が疲れたのか止まったので、優吾は顔を上げた。
 「そーゆーのって、直せんの?」
 「……黒染めを買ってくれば、直せる」
 「黒染め、買ってきてやろうか」
 「いい、自分で行く。帽子被っていけば」
 「で、どうしてそうなった」
 「……」
 万夢は止まった。また目に涙を溜めている。具体的なことはわからないが、万夢が今辛いということだけはわかった。
 「お前ひょっとして、やっぱり受験嫌なんじゃねーの?」
 また枕が飛んで来た。優吾は逃げるように「出直すっ!」と叫んで部屋をあとにした。結局仲直りできたとは言えない。部屋の前では悠平と基史が様子を伺っていたので、二人の頭を両手でポンっと叩いて帰ることにした。
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