隣の彼女

沢麻

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不合格

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 茉莉沙はそれから、学校に来なくなった。
 茉莉沙なんていなくなればいいと思ったこともあったのに、そんな清々しい気分にはなれなかった。優吾は何も変わらない。今までどおり友達と遊び、楽しく過ごしている。そこまで茉莉沙のことが好きじゃなかったのかと思うとほっとするが、その分万夢が茉莉沙を好きだったことを思い知った。 
 勉強しなくてはいけない。面接の対策もしなくてはならない。試験は一月で、もう時間がない。しかし、万夢が受験しようと思ったきっかけは、全て消失してしまった。ユヅキは茶髪のままで、怪しい中学生と付き合いがあるままで、それでも茉莉沙と打ち解けてからは万夢にも優しくなった。茉莉沙がいなくなったら、全てが元通りになった。
 塾にも行ってはいるが、万夢は上の空で過ごすことが増えていた。このまま適当に受験して不合格になれば、なに食わぬ顔をして星ヶ丘に行ける。そんな思惑が蠢く。しかし悠平が「サッカーのクラブチームに入りたい」という希望を母親に一蹴されていた様子を見ると胸が痛かった。母親は長女の万夢を一番優先してくれている。わがままも一番聞いてもらっている。その事で弟たちが不満を募らせていることも気付いている。やりきれない。
 万夢は塾までの空いた時間で、茉莉沙と訪れたドラッグストアになんとなく来た。ヘアカラーのコーナーを覗く。よく万引きするんだ、と少し得意げに言っていた茉莉沙を思い出す。続いてヘアスタイリング剤、ヘアアクセのコーナー、プチプラの化粧品のコーナーを見る。以前は興味がなかったのに、最近はスマホグループの女子たちもこういったものを所持しているのでつい目が行く。リップグロスを手に取る。ユヅキがこういうのを、休み時間に使っていたなと思う。多かれ少なかれ、みんな自前の化粧品を持ち歩くようになっている。万夢はそれのシュリンク包装を剥がし、こっそりとポケットに入れた。そのまま急いで店を出る。ばれていない。これはよく万引きされるのも納得だ。レジのおばさんは、ぼーっとしている。
 動悸が止まらない。何やってるんだろう。校区内に戻ると、ポケットからグロスを出して見てみた。可愛い。嬉しい。でも、でも。
 お化け屋敷がそこにある。以前のように、お化け屋敷然としている。誰もいない。茉莉沙。
 茉莉沙はどこにいってしまったのだろう。
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