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不合格
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「川口、ちょっと毛先が茶色になってるぞ」
「えっ」
塾の時、潤二郎に指摘された。以前失敗したブリーチの色だ。黒染めが色落ちしてきたのだ。
しかし許せないのが、それを言う際にさりげなく頭を触ってくる潤二郎だ。気持ち悪い。嫌いなのに。
「傷んでるからだと思うよ」
「そうなのか? 川口は髪の毛がきれいだと思ってたけど」
「濡れたまま寝ちゃったりとか、あるあるで」
適当に潤二郎を誤魔化す。黒染めが落ちるとは知らなかった。
トイレの鏡で確認する。この数ヶ月で、万夢は随分見た目が変わった。疲れきって、生気のない顔はまるで茉莉沙だった。茉莉沙の魅力的に見えたあの顔は、こんなだったのか。
家での風当たりも強くなってきている。母親は万夢を信じてくれているが、弟たちにはやる気のなさを見抜かれて嫌がらせをされる。
逃げてしまいたい。
「ねえママ」
万夢はうっかり訊いてしまった。
「マリサってどこに行ったの?」
母親は知っているのかもしれないが、知らないと言った。母親は保健所で働いている。その中にはジソーと連絡する部署もあるらしい、というのは茉莉沙がジソーに行ってから知ったことだった。
「マリサちゃんと、いい友達だったんだね」
話題のすり替えだ。
「全然」
万夢はすっきりしないまま、髪の毛の黒が落ちたまま、二学期を終え、受験を終え、面接を終えた。合格発表までは二週間ほどある。
一応みんな万夢が受験するからと遠慮して声をかけなかったらしく、受験が終わると遊びの誘いがどんどん舞い込んだ。星ヶ丘中は他にも二つの小学校から進学してくるので、クラスは増え、友達バラバラになることも予想される。だからか、最近みんな妙に仲が良い。冬で寒いし、もう女子たちは学校帰りに誰かの家にたむろするやり方で遊んだ。
「あれ、万夢そんなの持ってるんだ」
アイラが万夢のリュックから覗いたポーチを目ざとく見つけた。
「なになにー? 化粧品?」
とたんに女子たちが群がる。勝手にチャックを開けて、中を見られた。
「これ、グレイスのやつじゃん。千円もするパウダーだよ」
「えーっずるいー!」
「お前はー勉強してるかと思ったら色気付きやがってー」
みんながいじってきた。万夢は軽く笑って、かわした。
「しかも万夢もさぁ、なんか茶髪っぽいんだよね。そんな色だっけ?」
ユヅキが言う。もう染めたところはだいぶ伸びて、毛先十五センチくらいだけ残っている。結局切らず、黒染めもせず、そのままだ。おしゃれでもきれいでもなんでもない。ただのだらしない髪の毛なのに、なんだか強くなったような気がして始末できなかった。
「えっ」
塾の時、潤二郎に指摘された。以前失敗したブリーチの色だ。黒染めが色落ちしてきたのだ。
しかし許せないのが、それを言う際にさりげなく頭を触ってくる潤二郎だ。気持ち悪い。嫌いなのに。
「傷んでるからだと思うよ」
「そうなのか? 川口は髪の毛がきれいだと思ってたけど」
「濡れたまま寝ちゃったりとか、あるあるで」
適当に潤二郎を誤魔化す。黒染めが落ちるとは知らなかった。
トイレの鏡で確認する。この数ヶ月で、万夢は随分見た目が変わった。疲れきって、生気のない顔はまるで茉莉沙だった。茉莉沙の魅力的に見えたあの顔は、こんなだったのか。
家での風当たりも強くなってきている。母親は万夢を信じてくれているが、弟たちにはやる気のなさを見抜かれて嫌がらせをされる。
逃げてしまいたい。
「ねえママ」
万夢はうっかり訊いてしまった。
「マリサってどこに行ったの?」
母親は知っているのかもしれないが、知らないと言った。母親は保健所で働いている。その中にはジソーと連絡する部署もあるらしい、というのは茉莉沙がジソーに行ってから知ったことだった。
「マリサちゃんと、いい友達だったんだね」
話題のすり替えだ。
「全然」
万夢はすっきりしないまま、髪の毛の黒が落ちたまま、二学期を終え、受験を終え、面接を終えた。合格発表までは二週間ほどある。
一応みんな万夢が受験するからと遠慮して声をかけなかったらしく、受験が終わると遊びの誘いがどんどん舞い込んだ。星ヶ丘中は他にも二つの小学校から進学してくるので、クラスは増え、友達バラバラになることも予想される。だからか、最近みんな妙に仲が良い。冬で寒いし、もう女子たちは学校帰りに誰かの家にたむろするやり方で遊んだ。
「あれ、万夢そんなの持ってるんだ」
アイラが万夢のリュックから覗いたポーチを目ざとく見つけた。
「なになにー? 化粧品?」
とたんに女子たちが群がる。勝手にチャックを開けて、中を見られた。
「これ、グレイスのやつじゃん。千円もするパウダーだよ」
「えーっずるいー!」
「お前はー勉強してるかと思ったら色気付きやがってー」
みんながいじってきた。万夢は軽く笑って、かわした。
「しかも万夢もさぁ、なんか茶髪っぽいんだよね。そんな色だっけ?」
ユヅキが言う。もう染めたところはだいぶ伸びて、毛先十五センチくらいだけ残っている。結局切らず、黒染めもせず、そのままだ。おしゃれでもきれいでもなんでもない。ただのだらしない髪の毛なのに、なんだか強くなったような気がして始末できなかった。
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