二番目長女

沢麻

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私九歳

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 小学校に上がって、私はそれなりに学校ではいいポジションについた。兄がいることが大きかった。学校に出入りすることも慣れていたし、兄の友達にも顔見知りが多い。それから母親がお洒落好きで、長女の私にもそれなりに工夫を凝らしたファッションをさせていたので外見的に目立った。背も高く、クラスでも学童でも、目立つ女子グループに入った。しかし、何故か可愛い認定はされなかった。皆私と友達になりたがるが、可愛い、きれいと言われるのは他の子だ。そういう子は愛される。では何故皆私と友達になりたがるのか。私は可愛くなりたいと本当は思っていた。
 そんな中、妹が一年生になった。妹は昔から可愛い顔をしており、一年に上がるとよりいっそうチヤホヤされるようになった。遠慮のない男子たちは私に「妹のほうが可愛い」と言ってきた。そんなことは薄々私だって勘づいてはいたが、わざわざ言われると傷付く。本気で傷付いているのに、私はおどけて妹をディスったり、男子達を追い回したりして誤魔化した。
 一方で妹は私を以前より頼るようになった。兄はもう高学年だったし、やはり年が近く同性の私にべったりだった。私の真似をして、同じ文房具を買う。同じ髪型をして登校する。同じ格好をすると、必然的に私のビジュアルの敗北が目立つ。せめて色は被らないようにと、私は妹の愛するピンク色を避けるようになった。もともと寒色が好きだったがピンクも好きな私は、ピンクを排除すると本当に真冬のような色に包まれいっそう可愛さから遠ざかった。しかし真似しないでと言っても真似してくるのだから、私が逃げるしかなかった。そして妹は、長らく保育園を共に過ごした弟と以前より仲良くなっており、私の家庭内での居場所を脅かしつつあった。妹より上位にいることが私のプライドを守る唯一の砦だ。可愛くて、世渡りの上手い妹に、姉は凄い人物だと常に思わせておかなければ。

 ところで私はその頃ダンスを習っており、非常にアイドルに憧れていた。私ような低年齢の女子は、アイドルのオーディションよりも子役のオーディションや劇団に入団してアイドルへの糸口を掴むのが一般的だ。ダンスの友達の中には、赤ちゃんの時代にモデルをやっていたことがある子もいた。どうして赤ちゃんの時にそんなことになったのか訊くと、親が赤ちゃんモデルに応募しただの、劇団のスクールに入っていただの返ってくる。私は抑えられなくなり母親に「どうして応募しなかったのか」と問い詰めた。母親は「そういうの嫌だから」となんとも曖昧に返答した。納得できなかったが、まだ母親の言うことは間違いはないと信じていた。しかしそれから暫くして、妹の七五三で撮影したドレス姿が写真館の壁に見本として飾られたのには度肝を抜いた。携帯から応募できるフォトコンテストのなんとかいう賞を受賞という見出し付きだ。母親はちゃっかり妹の晴れ姿を応募していたのである。ドレス姿の写真は三人飾られていたが、ピンクのひらひらドレスの王道ぶりっ子路線である妹の写真が目立っていた。ショッピングモール内にある写真館だったので、写真を撮りに来ない普通の買い物客も妹のドレス姿を見ることができ、当然学校の友達にも見つかった。「スタジオブーンの壁に貼ってあるピンクのドレスの子ってニサの妹でしょ」 「ホームページにも載ってるね」 「可愛いよねー納得の受賞」そんな風に言われる度に私は、「すごいぶりぶりの写真でしょーあいつぶりっ子だからね」と毅然として応えた。
 母親は私の七五三の写真でも応募していたのだろうか? しかしどのみち写真が貼られた覚えはないから、落選だ。妹と同じく選ばれた、私の好きなブルーのドレスを着た子はすごい美人だった。私はスタイルはいいけれど、顔は地味だ。目が小さくて、つり目だ。どうせ私の写真を送ったって無理だ。どうして私はこんな顔で、妹はあんな顔なんだ。
 そんな中妹がダンスを習いたいと母親に申し出た。母親が快諾したところに私は怒鳴り込んだ。
 「光佳と一緒なら私辞めて違うダンススクールにする」
 「なんでよ? 一緒に通えるしいいでしょう」
 「絶対嫌だ。光佳と同じ事をしたくない」
 妹の方が、ダンスが上手かったら嫌だ。発表会で私よりいい場所を取ったら嫌だ。これは言えなかった。泣き虫の妹は泣き落としに入った。
 「ニサと一緒がいい! ダンスやりたい!」
 妹が泣いているから、私は泣くわけにはいかなかった。負けるものか。
 「学校だって学童だって一緒なんだからいいでしょ! ダンスまで一緒とかほんと引く!」
 どちらも一歩も譲らず、その日は答えは出なかった。しかしその翌月、妹はミニバスに入団した。どうやら、母親が妹を説得したらしい。私を立ててくれたのである。勝った。なんだかんだで私が姉なのだから当然だ。こっちはこれ以上居場所を奪われるわけにはいかないんだ。
 ところが私は生き生きとミニバスに通う妹が、だんだん羨ましくなってきてしまった。更にボールの扱いが私や兄よりも上手くなり、妹は体育や休み時間のドッジボールで脚光を浴びた。
 私は、自分より妹が優れているのがどうしても認められない。ダンスは私の方が上手いのに、年も私が上だし、スタイルも私の方がいいのに、妹が羨ましい。この気持ちを一体どうしたらいいのか。
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