後ろに誰かがいる気がする

沢麻

文字の大きさ
8 / 22
木村江梨子

しおりを挟む
 我が家の周辺は、この辺りでは高級住宅街であると思う。どの家にもソーラーパネルやセコムのステッカーが見受けられ、車は二台は確実にある。隣家は弁護士夫婦だと言うし、向かいは上場企業の会長宅だ。ちなみにうちは公務員なので、まあまあだろう。
 しかし、道路を挟んで向こうの区画はボロアパートが建ち並び、その奥には市営住宅が構えている。あまり質のいい人間が住んでいるとは思えない。あそこを通らないと中学に通えないというのは如何なものかと思う。品のない金髪や、不潔な格好をした人種がうようよいて、更に遊具の少ない公園などもあり、犯罪の準備が完全に整っているとしか思えない。夫と娘の家を出る時間が同じくらいなので、夫に娘を中学まで送るようにと頼んだことがある。しかし娘の方から反対された。市営住宅に友達がいるから、途中で合流して一緒に行くんだという話だ。複数で行動するなら大丈夫だろうか、でも、娘が中学から一番遠い。
 最近特に落ち着かないのは、娘が年頃ということもあるが、妙な噂を聞いたからである。あのボロアパートのどこかに住んでいるであろう青年が、薄暗くなると公園で待ち伏せして、中学生の女の子をつけ回すという噂。その青年はいかにもロリコンという風貌で、更に無職なのかいつも同じ服でボサボサ頭に度の強い眼鏡だという。江梨子自身は見たことがないのだが、よく公園にいるという。それを娘の一那から聞いたものだからまた気が気じゃない。
 「でも別にベンチに座ってスマホ見てるだけの人だよ。そんな怪しい感じじゃないけど」
 「わからないでしょそんなの。とにかく一人で帰るときは公園の方を通らないで明るい道路の方にして」
 「それすごい遠回りなんだけど」
 一那は不満そうに口を尖らせた。遠回りしたって犯罪に巻き込まれるよりはずっとましだと言い聞かせる。言うことを聞くかはわからない。 
 実は江梨子自身が、中学の頃に変な男に車に連れ込まれそうになったことがあるのだった。大声で叫んだら人が来てくれて助かったが、あれは怖い。大人の男があんなに怖いとは思わなかった。あれ以来、髪の毛がボサボサで厚い眼鏡の青年は苦手なのだ。
 
 スーパーの帰りに、牛乳を買い忘れたことに気付いた。一那は牛乳が好きだから、きらしたことはない。江梨子は仕方なく、道中のコンビニに立ち寄った。コンビニは滅多に来ない。牛乳を探してうろうろしていると、店内にボサボサ頭の眼鏡の青年がいることに気付いた。過敏になっていることはわかっている。でも、ひょっとして例の男だったら……。江梨子は気が気じゃなくなって、青年を少し遠目に観察した。青年はしばらくドリンクコーナーをうろつき、ジュースを選ぶと今度はお菓子をいくつか手に取り、おにぎりをかごに入れるとレジに向かった。江梨子は牛乳をかごに入れ、彼の後ろに並んだ。青年はレジで煙草を追加すると会計し、店を出た。歩くのがやけに遅い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...