森の愛し子〜治癒魔法で世界を救う〜

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【第一章】出会いの始まり

人ならざる者と言葉を交わす少女

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「どうして、彼女の名前がリリィだと……」
 聖竜の名前を言い当てたレイに、カインは問いかけた。
 名前を呼ばれた聖竜も、目を見開いている。
「彼女があなたの言葉に、リリィは無事ですよ。って答えたのが聴こえたからよ」
「……君はリリィの言葉が分かるのか?」
「ええ。会話する知性があれば、聖獣や精霊、魔獣の声だって聞こえるわ。嘘だと思うならそれでいいけど」
 彼女は、ぶっきらぼうに答えた。
 そう、彼女は普通の人には聞こえない生き物たちの言葉を聞き、言葉を交わすことができるのだ。
「嘘だとは思わないさ。リリィの名前を当てたんだ。すごいな君は」
 カインは優しく微笑んだ。
 微笑む彼にレイは不思議そうな顔をして、
「変わった人ね。普通、人間以外と会話できるなんて言ったら、気持ち悪がるわよ」
 自分を卑下するように、そう言った。
 彼女が森に捨てられた理由が、この力のせいなのだ。
「そんなことはない。私にもそんな力があれば、リリィだけじゃなく他の生き物たちについてもっと知れるのにな……」
 カインは、彼女の力を羨ましいと言った。
「そんないいものでもないわよ。声が聞こえても応えられないこともたくさんある。助けを呼ぶ声が聞こえても、助けられなかった子達がいっぱいいたわ」
 レイは悔しそうに唇を噛む。彼女のヘーゼル色の瞳が揺れる。

「……そうか。でも、君のその力のおかげで助けられた子たちもいるんだろ?」
 カインはレイの目をまっすぐ見て言った。
「レイ。私もお前の力に助けられた一人だ。忘れるな」
 フェンが慰めるように彼女の頬に鼻を軽く当てる。
「確かに、助けられた子もいるわね」
 レイの表情が少し明るくなったように見えた。

 リリィは彼女と向き合うように体の向きを変え、
「レイ、この度は助けていただいきありがとうございます」
 その言葉と同時に頭を下げた。
「私がそうしたいからしただけよ。気にしないで」
 レイは優しくリリィに言った。
「彼女が君に何かを伝えたのか?」
 リリィの言葉が分からないカインがレイに尋ねた。
「助けてくれてありがとうって。貴女は人間が好きなのね」
 彼女はリリィの口先にやさしく触れた。
「はい。セレイム王国では、昔から人と聖竜は共に生活しているので」
 そう答え、彼女はレイの頭に自分の口先を触れさせた。

 それを見たカインが、
「……驚いた。リリィが俺以外に、その仕草をしたところを見たのは初めてだ」
 と呟いた。
「そうなの?」
「ああ。聖竜が人の頭に口づけをするのは、信頼された者の証だ」
「そう。うれしいわ。貴女のことリリィと呼んでもいいかしら?」
 レイはリリィに問いかけた。
「ええ。構いませんよ」
「ふふ。ありがとう。よろしくね、リリィ」
 レイは嬉しそうに、目を細めた。

 穏やかな空気が流れたそのとき、森の奥からこちらに向かってくる何かの気配がした。
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