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【第一章】出会いの始まり

契約

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 その間に緊迫した空気が流れた。
「何か来る……!」
 カインとリリィはすぐ戦闘態勢をとった。
 すると、レイが戦闘態勢の二人の前に立った。
「危ないぞ!」
 カインが声を荒げる。
「大丈夫。私の方がこの森の生き物には詳しいから」
 彼女がそう言うと同時に、気配の元が茂みから姿を現した。

 ……黒ヒョウだ。
 黒ヒョウは、俊敏性にたけている中位種の魔獣で、そのスピードに適う者は数多くない。
「この森には黒ヒョウが棲むのか!……危ない!」
 黒ヒョウは、レイ目掛けて飛びかかった。
 だが、彼女に怯えている様子はない。
「コハク。静止ストップ
「グルルッ!」
 レイがそういうと黒ヒョウの動きが突然止まった。

「……コハク?」
 ここにいる四人以外の名前を呼んだレイ。
 カインは彼女の呼んだ名前を復唱した。
「コハクは、この子の名前。あなたたち二人が、私たちの敵だと思ったみたい」
 そう言いながらレイは、黒ヒョウもとい、コハクに近づいた。
「コハク、この二人は敵じゃないわ。安心して」
 レイは彼をなだめるようにやさしく撫でた。
「ごめんなさい。レイ」
 コハクは、うつむき、尻尾を垂れ下げ、反省した様子を見せている。
 もちろん彼の声は、レイにしか聞こえていない。
「大丈夫よ。驚いただけよね」
 レイはコハクと同じ目線になり、優しく話しかけた。
「名前があるということは、その黒ヒョウも君と契約しているのか?」

【契約】
 それは、人間が魔獣や聖獣(人々は総称して魔物とも呼ぶ)、精霊に名前を付け、互いの血を契約人に落とすことで成立する。
 扱いを間違えれば、契約獣にとっては呪縛にもなる。
 契約の解除は、人間側にしかできない。
 契約者が死亡した場合は自動的にその契約は解除・破棄される。
 しかし、契約獣が契約者を殺そうとした、また殺した場合、契約違反となりその契約獣は死に至る。

「契約。……そうね。契約していることになるわ。だけどこの子たちをどうこうするつもりはないわ」
「では、どうして契約を?」
「それは、私たちから言い出したことだ。レイに名前を付けてほしいと」
 フェンがレイの横に立ち、彼女の代わりにカインの問いに答えた。

「この子は、私たちに名前を付けるつもりなどなかった。それが私たちにとって呪縛になることを恐れていたのだ。だが、私たちが一緒にいたいと、無理を言って名をつけてもらったのだ」
 フェンは、当時のことを回顧するように話す。

「……名前をつけることを、そちら側から願い出ることがあるのですね」
 彼の話を聞いたカインは、感心した様子を見せた。
「それほど、レイが綺麗な心を持っているのだ。たとえ名で縛られたとしても、この子を守ってやりたいと、一緒にいたいと願うほど」
 彼女を見るフェンの目は慈愛に満ちている。
「君は愛されているのだな」
 カインは自分のことのように嬉しそうに言った。
「フェンたちが買いかぶりすぎなのよ」
 レイは照れてしまったのか、そっぽを向いた。
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