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【第一章】出会いの始まり
頼み事
しおりを挟む「いい匂い!」
完成したクリームシチューの香りに、コハクは喉を鳴らす。
レイは、料理を取り分け、皆に配っていく。
「……ん。出来た。みんな熱いから気を付けて」
「ああ、美味そうだ」
カインも彼女の作ったシチューに釘付けだ。
全員が薪を中心に、円になるように座る。
「じゃあ。食べましょうか」
レイの合図で、それぞれがクリームシチューや、魚の塩焼きを食べ始めた。
「美味い!ブラックボアの肉がこれほど美味いとは。臭みが全くない!」
ブラックボアの美味しさに感動するカイン。余程美味しいのか、食べるスピードが驚くほど早い。
「ちゃんと臭み取りをすれば、ブラックボアは美味しいわよ」
「そうなのか。これは王都に戻ったら騎士団の皆に報告だな」
「やはり、レイの作る料理は美味いな」
フェンも料理の感想を述べた。
「フェン殿たちはこのような料理を毎日食べられているのですね!羨ましい限りです」
「だろう?……レイ、おかわり」
「レイ殿。私もおかわりをもらっても構わないか?」
おかわりを求めるフェンとカイン。
フェンの食事の早さはいつものことだが、カインの食べる早さに驚きを隠せないレイ。
「え、ええ。おかわりはしてもらって構わないけど、二人とも喉に詰まらせないようにね」
「ああ。心配するな」
「ハハッ。気遣い感謝する。あまりにも美味しくて急いでしまった」
カインは恥ずかしそうに笑った。
「はい。おかわり」
「ああ。悪いな」
「ありがとう。いただきます」
フェン、カインはそれぞれ礼を言い、また食べ始める。二人がものすごい勢いで食べている様は、まるで兄弟のようだ。
「ねぇ、団長さん」
「ん?何だ?」
「さっき王都に報告するって言っていたけど、私たちに会ったことも報告しなければいけないのかしら」
レイがカインに疑問を投げかけた。
「ああ。その件に関してなんだが……」
カインが食事の手を止め、真剣な表情で彼女に向き合う。
「おそらく、いや確実に、王都では私たちは、死んだことになっている。その私たちが国に戻れば、私が今回のことを黙っていたとしても、国王は兵を挙げて、君のことを探しだすだろう」
「……つまり、私もあなたたちと一緒に王都へ行けと」
「理解が早くて助かる。……私たちの負った傷は、王都にいる治癒師では魔力不足で治せなかっただろう」
「え?」
「その傷を君は治したのだ。私が言うのもなんだが、竜騎士団団長を助けたとなれば、国王は君に何かしらの褒美を与えてくださるに違いない」
「……それを断ることって」
「不可能だろう」
カインは食い気味に答えた。
「はぁ。褒美だなんて。私はただ、平穏に暮らしたいだけなのに」
小さくため息をついたレイ。
「すまない。君の生活を邪魔してしまって」
「謝らないで。助けたのは私の判断だし。人は嫌いだけど、倒れているところを見逃すのは居心地が悪かったのよ」
彼女は、素っ気ない言い方だが、その言葉は優しさに溢れている。
「やはり、君は優しいな」
カインには、彼女のその優しさは伝わっていたようだ。
「……そんなんじゃないわ」
褒められたレイは、少し照れた顔を隠すように顔を背けた。
「ところで、団長さん。王都の治癒師は、貴方たちの傷を治せない程、一人ひとりの魔力が少ないの?」
照れた顔を見られたくなかったのか、レイは先ほどの話で疑問を持った話題をカインに振った。
「いや。王都の中でも優秀の治癒師たちだ。だが、今回の戦いでの負傷者が多すぎたのだ」
「……そう。もしかして、癒しの力を受けられていない人が今もいるの?」
レイの顔が少し曇る。
「ああ。おそらく今のところ、命に別状はないだろう」
「そう」
彼女は少し安堵した様子だ。
「問題なのは、今回の戦いで体の一部を失った者たちがいるんだ。……その者たちを治す治癒魔法の最上級魔法生体蘇生を使える治癒師が、王都にはいない。」
カインは拳を握り締める。
その場に一瞬の沈黙が流れる。
「レイであれば、そのくらい一日あれば一人で皆を治せるだろうな」
話を聞いていたフェンがそう呟いた。
「はっ?……いちっ!ひとっ!?」
フェンの呟きに驚きを隠せないカインが、言葉にならない音を発した。
「どうかしら。生体蘇生は使えるけれど」
「っ本当か!?」
レイの手を取ったカインは、希望の光を見つけたという勢いだ。
「え、ええ」
彼のあまりの迫力に、彼女は戸惑う。
「助けてもらっておいて、こんなお願いをするのは無礼かもしれないが、今すぐ私と王都へ来てくれないだろうか!他の騎士や竜たちの傷を治してほしい!」
カインは地面につくほど頭を下げる。
「……フェン、どうしよう」
「お前が決めたことなら、私は反対しない」
彼女の傍へ来たフェンはそう答えた。
「でも……」
「レイ、私からもお願いです。貴女の力を貸していただけないでしょうか」
リリィも頭を下げた。厳しい状況なのだろう。
「……リリィ。貴女にまで言われてしまったら、断れないわ。……まぁ、団長さんと王都に行かなきゃいけないみたいだし、手伝うくらいなら」
苦笑いをしながらも、レイは手を貸すことを了承した。
「本当か!助かる!」
カインは救世主が現れたと嬉しそうな顔を見せた。
「(そんな顔見せられたら、断れないじゃない)」
そんな彼の顔に、胸に何かが刺さる感覚になったレイだった。
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