森の愛し子〜治癒魔法で世界を救う〜

文字の大きさ
11 / 37
【第二章】セレイム王国へ

到着

しおりを挟む

「王都が見えてきた」
 二人が話しているうちに、王都の近くまで来ていたようだ。
「本当ね。やっぱり飛ぶ方が早いわね」
「レイ殿はいつも町までどうやって来ているんだ?」
「基本的にはフェンに乗せてもらって、そこから町の近くまではコハクに乗せてもらうって形かしら」
「コハク殿が門の前に現われても大丈夫なのか?」
「いいえ。だから、コハクに乗せてもらっても門番が見える少し手前になったら歩くことにしてる」
「なるほど。……そろそろ下に降りる。しっかり捕まっていてくれ」
「ええ」
 カインは高度を落とすために、リリィの手綱を引く。リリィはそれを合図に下降し、門の前に降り立った。

「どこの者だ!」
 急に現れた聖竜に対して、門番が警戒態勢をとる。
「驚かしてすまない。私だ。セレイム王国の竜騎士団団長のカインと言えば分かるか?」
 リリィから降りたカインが、警戒している門番に答えた。
「……カイン様!?これは大変失礼致しました!ご無事でしたか!」
 カインだと気づき、すぐさま謝る門番。
「ああ。彼女のおかげで、命拾いした」
 カインはそう言いながら、リリィからレイを降ろすため手を差し出す。
「ありがとう」
 レイはその手を取ってリリィから降りる。
「……少女ですか?」
リリィから降りた彼女を見た門番は、不思議そうにカインに視線を送った。
「すまない、説明は後だ。現在の竜騎士団の負傷者の数は分かるか」
 門番の視線を流し、カインは負傷者の状況を聞いた。この門番は、城内の状況を知る騎士の一人のようだ。
「おおよそではありますが、五百人弱の負傷者がおります。治癒師たちも全力を尽くしてはいるのですが……」
「その者たちの状況は」
「命に別状はありません。ただ、四肢を損傷した重傷者が思いの外多く……」
「そうか。レイ殿、君の力で治せるだろうか」
「話を聞く限りでは治せると思うわ。時間はかかると思うけど」
「ありがとう。助かる」

「団長殿。本当にあの娘にできるのですか?」
 門番が小さな声でカインに問うた。
「私の傷を治してくれたのが彼女だ」
 カインは、少し鋭い目つきを門番に向けた。
「っ失礼しました」
 眼光を向けられた門番は口を閉じた。
「すまない、先を急ぐ。リリィ、ここまでご苦労だった。休んでくれ」
 カインはそう言うとリリィを召還陣に戻し、レイと王都の門をくぐった。

「レイ殿、負傷した騎士たちは王城にいる」
「分かったわ」
 門を潜り、城下町を横切りながら言葉を交わす二人。
 そんな二人を見た、国民の一人が、
「カイン様!ご無事でいらっしゃいましたか!」
 と、叫んだ。
 すると、瞬く間にカインの周りに人が集まってきた。
「ええ。私は無事です。心配をおかけしました。……申し訳ありませんが、今は急いでおりまして、通していただけますか?」
 レイや門番たちとは違う話し方をするカイン。
「(町の人たちには、とても丁寧に話すのね)」
 そんな彼を見て、レイはそんなことを考えていた。
「これはっ!失礼しました!」
 カインの一声に民衆はすぐに道を開けた。
「ありがとうございます。私のことに関しては、事が片づき次第、お話し致します」
 そう言って、カインたちは足早に王城へ向かった。

 石畳の道に、木組みやレンガ調の家が立ち並ぶセレイムの城下町を抜け、王城の前についた二人。
 そこには二人の王城の門番をしている姿があった。
「……!カイン団長でいらっしゃいますか?」
 カインのことにすぐに気が付いた一人の門番。だが、死んだものとされているはずの団長が目の前に現れ、混乱している様子。
「ああ、カイン・アルバートだ」
「ご無事でしたか!よかった!」
 二人の門番は泣いて喜ぶ。

「すまない、急いでいるんだ。負傷者が今どこにいるかわかるか?」
「失礼しました!負傷者は、竜の間におります。……団長、その娘は?」
 レイに気付た門番は、カインに問いかけた。
「ああ。彼女がその者たちを救えるかもしれないんだ。だから来てもらった」
「王国の治癒師でも手をこまねいているこの状況を、変えられるというのですか?」
 明らかに信用できないという目線をレイに送る。
「ああ。私の傷を治してくれた人でもあるからな。彼女に懸けてみる価値はあると思う」
「そう、ですか。……カイン団長が言われるなら、私たちも信じます!―お通りください」
「ありがとう」
 開かれた門を二人は潜り、王城へ入っていく。

「さすがは団長さん。国の人たちから信頼されているのね」
「まぁ、伊達に団長をしているわけではないからな」
「それもそうね」
 二人はそんな会話をしながら、竜の間を目指す。

 王城にいる者たちの、カインの帰還を喜ぶ声や、レイの存在を不審に思う声を後にして―
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

処理中です...